6.狐の姉妹もやって来た
一人称が
童:にび
妾:七尾
です。
「ただいまー」
「お帰り、今日は早かったのだな」
家に帰ると笑顔で出迎えてくれるごく当たり前の光景。
色々あったものの、時間と共に互いに自分を出せるようになりつつある。
しかし、『ただいま』と言って『お帰り』と返してくれるのっていいなぁ……。日常に存在する小さな幸せを見つけた気分だ。
鈴音は買い揃えていた食材を使い、基本はご飯に味噌汁、そして何か一品――
写真解説付きの料理本を読んでは、新しい料理に日々挑戦して振舞ってくれる。
料理本は会社帰りに暇つぶしにでもなればと買って来たのだが、見た事もない料理が見られ作れると大喜びしてくれた。
最近、会社でも事務のオバちゃんに『最近活力がある』、『顔色がよくなった』と言われたが――今までそんな酷かったのか?
まぁそれはいいのだけども――
「――味噌汁に卵スープは如何なものかと思う」
「私も作った後で気づいた……」
仮に唐揚げなどであれば日中友好になるだろうが、汁アンド汁は日中敵対である。
いやどちらも美味いから問題はないから良いのだけど、腹がタポタポになってしまう。
鈴音の得意料理でもあるらしい牛蒡の煮しめがあるのが救いだった。
彩りこそない地味なものの得意と言うだけあって味は確かだ、味噌の味が染みこんだ牛蒡に箸が進むな。
「あぁそうだ、帰りにいなり寿司買ってきてたんだ」
「稲荷――ずし? もしや、あの臭い――いや、独自の臭いがするあれでは……」
「いや、うーん……臭くはないと思うんだけど」
寿司って無かったのか…?
後で調べてみると、魚の切り身を乗せた寿司は江戸時代からで、鈴音が言うのは米と一緒に漬けドロドロになった"なれ鮨"や、
かの信長を激怒させ本能寺の変の原因にもなったと言う"鮒寿司"などがあちらで言う寿司だった。
……確かに臭いと言うか発酵臭がキツそうなものばかりだ。
"なれ寿司"は地元にもあるから存在は知っていたけど実際にお目にかかったことはない。
ラーメン屋にあるのは"早なれ寿司"の方だし。
「まぁ実際見た方が早いな、ほら」
「ほうこれが……照っており甘い匂いもするな、どれ――おぉ、うむぁいぞ!」
ここの店のいなりは知る人ぞ知る隠れた名店で、今日は1パック残っていたのを見つけ買ってきた。
鈴音も気に入ったようでもう一つと食べ始めたが、残りは明日の朝飯にしよう。
汁アンド汁、飯アンド寿司とかどんな食卓だとなるし……。
・
・
・
夜も更け、皆が寝静まった頃――
「曲者――ッ」
「にょわ゛ぁッ!?」
「な、何だ!? うぼぁっ!?」
深夜遅く鈴音の大声で飛び起きた矢先、何かに顔を踏んづけられたぞっ!?
な、何だ何だっ!? ぬおぉっ、刃が目の前通って行ったっ!?
ガタガタと音がして何かいるようだが、鈴音が小太刀を振り回すせいで確認できない……。
「な、何が起こっているんだ!?」
「賊じゃ!」
「ぞ、賊ではないわ! まっ待てまずは話を――に゛ゃぁッ!?」
賊と呼ばれた奴は部屋の中をごろごろと転がり逃げ回るが、声からして女の子……のような?
起き上がるに起き上がれないので、布団にうつぶせになって目の前の様子を確認すると、
赤い着物を着た女の子――が机に足を引っ掛けて尻餅をついていた。
「狭いくせに物置きすぎなのじゃッ! あ、あわわわわっ……ま、待てっ!?
まずは童の話を聞くのじゃっ鈴音! おい弘嗣っ、こいつに刀を納めるように言うのじゃ!」
「賊の話なぞ聞く耳持たぬわっ! ここに忍び込んだのが運の尽き、覚悟致せ!」
「ま、待て鈴音! ここで斬るなっ、事故物件になる!」
「そっち!? 童が斬られることよりそちらの心配をするのか!?」
「むっ――何か分からぬがそれはいかぬな」
「お主もそれで躊躇うでない!? お主も小さき者の命が奪われる事に躊躇うのじゃ!」
「鈴音、何かの間違いかもしれないから一度話を聞け」
「むぅ……お主がそう言うのなら仕方ない」
けどこの子……何か変だ。何で俺たちの名前知っているのか?
それに、栗毛色の獣のような耳をつけて何か尻尾のようなものが見える――尻尾?
「あぁ、またイタいのが来たのか……」
「イタいとはなんじゃ!」
「『また』とはなんだ!」
サラウンドで怒られてしまった。
とりあえず向こうも抵抗する気はないようだし、ひとまず部屋の明かりをつけて――。
鈴音さん、お願いだから隙あらば切るオーラ出すのやめて貰えないですかね?
背中向けててもビシビシ伝わってきて縮こまりそうなんですが……。どことは言わないけど。
「はぁ……様子が気になって来てみればこれじゃ。
鈴音、お主のその思考より先に手が出るのをどうにかせよ。
弘嗣、お前の部屋は汚い」
「何で俺だけバッサリ斬られるの!?」
「ふん、居直るとは盗人猛々しい。お前は我らを知っておるようだが、何者ぞ?」
「だから賊でないと言うに…あとお前って言うでない。童がこの稲荷寿司を買いに行ったら、
目の前でボンクラが買って行った最後の一つの美味そうな稲荷がたまたまそこにあっただけじゃ、ふんっ」
ボンクラて……そう言えば、確か俺が買った後に涙目で俺を睨んでる女の子が居たような?
ふてぶてしく残っていたいなり寿司を頬張り踏ん反りかえってるけど――もしかしてそれで逆恨みして俺の所に?
「ああっ、 何を食うておるのだ、それは私の……ではない――お前の目的は何だ?」
「だからお前と言うなと言うに……。
童は、お主の家の近くにある社に住む狐じゃ。皆から二尾と呼ばれておる。
お主、こちらの世に来る前にそこで祈願してたじゃろ? あとこのいなりは童のじゃ」
「……それがどうした?」
「その後の経過を見に来ただけじゃ。あむっ」
狐……? 確かに狐の耳と尻尾が二本あるようだけど――本物なのか?
鈴音が俺以外の人に過去から来たなんて話さないだろうし、と言う事は、
ほっ本当にそこに住む狐の――狐の……妖怪?
つまり鈴音がこっちに来たのは妖怪の仕業と言う事になるのか?
「童を妖怪扱いするでないわ……と言うか、何でも妖怪のせいにするでない。
童とて一応は神様じゃぞ? 童を見た目で子供扱いしてないか? あまりすると童は泣くぞ?」
メンタルは弱そうだけど、確かに言っていることはどうやら本当のような気がする。
見た目は子供、中身は大人を通り越している感じがするものの、耳と尻尾がピョコピョコ動いてるし作り物でもなさそうだが。
確かに童はまだ修行中の身じゃが――と呟いていたが、そう言われると確かに頼りない感じもしないでもない。
「その社に住む神様とやらが、何の為に私をここにやったのだ?」
「お主の無駄に多い願いのいくつかを叶えた結果じゃ、分かったか? ん?」
「む、無駄に多いとは――できるだけ候補を述べたまでだ!」
「その"できるだけ"の候補が多すぎるし高望みしすぎじゃっ! せめて一つにせい。
その上、供え物も無しなのにここまでしてやっただけ有難いと思うのじゃ」
「う、うぅむ……」
思い当たる節がありまくるのか鈴音は反論できず難しい顔をして考え込み始めた。
あれと違うこれも違うと何やらブツブツ言っているのが少し気になる……。
その間にこの狐っ子はご機嫌な顔で残っていたいなり寿司を全部たいらげてるし、
一体この先どうなるのだろうか……。
予想はしていたが、夜中にあんな騒ぎが起こったせいで良く眠れなかった――。
完全に目が覚めてからもう一度寝るのって結構辛いんだぞ……
特に翌日何かあるから寝とかなきゃいけない時とか特に眠れなくなるし。
今日は休みだからそんな心配はいらないのだけど、
鈴音の着物を買い揃えに行くと約束した日だし、眠いから二度寝という訳にいかない。
とりあえず着物と、そろそろ食材も尽きそうだし服を見てから地下の食品売り場に回り、後は流れで色々見て帰ろうか。
金は――なんとかなるだろう、いざとなれば魔法のカードをオープンするしかない。
「んんーっ、いい朝じゃー!」
この狐っ子は帰る為のエネルギーを溜めないといけないらしく、しばらくここに留まる事になった。
帰れと言っても『小さき童に野宿せよと申すか、世知辛い世で育てば人も鬼になるようじゃ……』とわざとらしく言うし、
『もし警察に保護されたら、ここの者に虐待されてて外にやられたと言ってやるからの』と脅してまできたせいだ。
鈴音がそれでもつまみ出そうとしたが、最後は半泣きで頼み込んできたので仕方なく家に置いておく事となった。
ここペット禁止なんだけどな……。
代わりと言っては何だが、鈴音の時代とこっちの時代を頻繁に往復しており、
現代の生活にも慣れているので、しばらく鈴音の面倒も見てくれるようだ――見た目的には逆なのに。
「それより、お前の尻尾どうにかならないのか? 寝てるとき鼻がモシャモシャして何度も起こされたぞ……」
「なら稼ぎを増やして広い部屋に移るしかないのう、ほほほっ」
「むぅ……」
鈴音はにび(そう呼ぶことにした)の存在が気に食わないらしい。
厄介になると決まった時から少々機嫌が悪い、鈴音の所は嫌じゃと俺の布団に潜り込んで来た時は更に機嫌が悪くなった。
「はぁ……この様子じゃ本当に先が長そうじゃ――。
少しでも自覚してくれればいいのじゃがの。それに、童はここに留まると言っても二~三日じゃ。
それからはまたこいつと誰も邪魔されぬ二人の生活になるのじゃ安心せい」
「なっ――わ、私はかのような事言っておらぬではないかっ!」
「それともあれか、こいつと二人で出かけたかったのにコブが付いて来おった~~か? んん?」
「……狐の毛皮は高値が付くと聞くがどうなのであろうな――」
「ふぎゃあああああっ!? や、やめるのじゃ、冗談じゃっ!?
じゃから童の尻尾を切ろうとするでない! その小太刀をしまえっ、しまうのじゃ!」
朝食に食うはずだったいなり寿司はこの狐っ子に食われたので、急きょ鈴音が作ってくれた味噌汁を飲みながら
二人が台所で何やら賑やかにしているのを聞いていた、何の話をしているのかまでは分からなかったけど楽しそうで何よりだ。
「~~♪」
にびの『慣れている』と言っていた事は本当らしく、電車の乗り方も慣れたものだった。
見た目的には九、十歳ぐらいだろうか、着物を着てぽてぽてと歩く姿が可愛らしく、
すれ違った女性からも『可愛い』と言われていた(鈴音は『あざとい……』と言っていたが)。
鈴音も着物と袴だし、傍から現代には珍しい格好をしているが親子のようにも見える。
こちらの生活はにびの方がよく知っているので、鈴音は言われるままこき使われているが、
ちゃんとにびの心配もしているし、鈴音も何だかんだ言って子供の面倒見はいいようだ。
「これは――凄い人であるな……」
「今日は休日だからまだ少ない方だけどね……」
電車にも十分驚いていたが、目的地の駅に着くと驚きを通り越して呆然としていた。
一斉に人が移動するし、ここではぐれて人の波に飲まれたらマズい。
鈴音は携帯も持ってなければ住んでる所の住所も分からないし、その上、公衆電話のかけかたも知らないしな……
と言うか家の番号も知らない。そもそも家電がない。
となれば、少し恥ずかしいがここは――
「あっ――」
「その、はぐれないようにだ」
「う、うむ……何だか気恥ずかしいがしょうがないな」
鈴音は照れからなのか顔を赤くして手をぎゅっと握り返してくる――自分でやっといて何だが、こっこれは確かに恥ずかしい。
……ただの迷子防止の為だぞ、うん。しかし、鈴音の手はまめでゴツゴツしているようでいて柔らかいんだな。
「はぁ……童の手はいるのかいらぬのか分からぬの……」
「ほれ、お前もはぐれないようにしろよ」
「むぅっ、そう言う意味ではないのじゃが――ま、せっかくじゃから手をつないでやるぞ。感謝するのじゃ」
「わっ、ととっ」
「ぐおっ!?」
にびの小さな手を持った時、鈴音が少しバランスを崩し繋いでいる手をぎゅっと力強く握ってきた。
この前のもそうだけど、一体どれだけの握力してるんだ?
「す、すまぬっ……」
「前ほどじゃないから大丈夫だ。でも、どんな手の力してるんだ?」
「うーむ……試したことはないな。恐らく手ぐらい折るぐらいは容易いであろうが―――」
「手どころか頭蓋骨まで砕いたじゃろ……」
「な、なぜそれを――いやあれは砕いてなぞおらぬ、僅かに……そう、鈍く変な音がしただけぞっ!」
「顔の形まで変えておいて良く言えるのじゃ……あのような所業、鬼以外に見た事無いのじゃ。
そのせいで十年はお主の婚期が延びておるぞ……」
その被害者がここに居るからよく分かる。
頭蓋骨の形が変わると思っていたが、マジで変えられた被害者がいるのか……上には上が居るもんだ。
後日にびから聞いた話によると、戦場で父親の友人の息子を紹介されいい感じにまでなったのだが、それに鈴音がハリキリ過ぎ、
獅子奮迅の働きを見せただけではなく、その男のピンチに鈴音が咄嗟に敵の顔を掴み締め上げたらしい。
生きるか死ぬかの瀬戸際、火事場の糞力と言うのか、相手が無抵抗状態になっても締め上げ続け、遂にはメキッと――
その男も含め周りはドン引き、チャンスグッバイとのこと――絶対に鈴音を怒らせないようにしよう。
・
・
・
「はー……これは何とも――」
目的の百貨店に入るやいなや、白い床、明るい店内、
照明に反射し煌びやかに光る貴金属を見て、目に映る物全てが信じられないと言った様子で店内を見回っていた。
化粧品売り場ではその匂いから『鼻から頭が痛い……』とボヤいていたけど、
やはり女性が貴金属や装飾品に惹かれるのは万国――万世(?)共通なのか、指輪など気になるようでじっと眺めていた。
稼ぎがあれば一つや二つぐらいって言えるんだけどね……ただそこまで裕福じゃないし……。
「はなっから誰も期待しておらぬのじゃ」
にびは貴金属にはあまり興味がないらしく、
カチューシャや髪留めなどと言った小物の方に興味があるようで、気になるのを身に着けては鏡を覗き込んでいる。
やはり子供か――と思っていたら
『ふふん、童を甘く見るでないぞ? 既にいくつか持っておるし、多くあっても邪魔じゃからいらぬだけじゃ』
と得意げに話してきた……畜生、こんな子供にまで……。
「じゃから、お主ら童を見た目で判断するの止めろと言うに――ほれ、これが童の自慢の一品じゃ」
「何とっ、黄玉ではないかっ――!」
「にゅふふっ、童が見つけ加工してもらったのじゃ! いいじゃろいいじゃろ~~」
どうだ!とばかりに自慢げにペンダントを見せ付けてきた。く、悔しくなんかないんだからねっ!!
山の中で黄玉――トパーズが転がっているのを見つけペンダントに加工してもらった物だとか……。
でも、トパーズってそんな山の中にゴロゴロ転がっているものなの……?
「いらっしゃいませ」
「な、ななななっ何でここに――!?」
目的の着物フェアが開催されているフロアについてからと言うもの、何やらにびの様子がおかしい。
特に、俺たちを見つけたちょっとキツそうな目をした若い女性店員に声をかけられ、更に様子がおかしくなっている。
まるで蛇に睨まれた蛙の様に、何かに怯えているような……。
このフロア、このブースには客が一人もいない。昨今、日常でも着物を着る人が減っているせいもあるだろう。
着るとすれば七五三、成人式、お見合い写真、結婚式……などの祝い事、冠婚葬祭が主であるし、それに合わせてやはりお値段もする。
日常的に着物を着ている時代から来た女性――鈴音はそんな事には気にもせず、目の前に広がる着物を見て目を爛々と輝かせているが。
「普段着でしたら、こちらはどうでしょう?」
「いえ、かのようなのは……いつ着れるかも分かりませぬし……」
「あら、こんな小さなグ――いえ、お子さんがいらっしゃるのでてっきり、ほっほ……」
「こ、これはその色々わけあって……」
鈴音も俺もドキっとして慌てふためいてしまったが、この着物もいい物だと思うけどどうして鈴音は――
うげ、かなり良い値段するな……ひょっとして値段とか気にしてくれたのか?
「違うのじゃ、鈴音はまだ振袖の段階だからじゃ。
振袖は未通女が着るもので、長い袖を振って未婚をアピールし、
結婚したら袖を切って留袖――さっきの着物になるのじゃぞ」
へぇ……着物ってそんな決まりがあったんだな。
袖の長さとかただのデザインの違いぐらいにしか思ってなかったけど、袖にも意味があったのか。
人間の関係を切る"袖(袂)を分かつ"って言葉はそれから来ているらしく『嫁に行き、親との関係を切る』からなんだとか……
さすが年の功と言う所かよく知っている。
鈴音は振袖やその留袖を見ては一喜一憂しているのはそのせいなんだな……なるほど。
しかし、一概に振袖と言っても成人式で見るような派手派手したのだけでもなく色々あるもんだ……。
けど、値段見て気が気じゃなくなってきたぞ……まぁ一度買えば一生物だろうし、世のお父さん方は多少高くとも娘に良いの着させたいもんな。
俺の目が泳いでいるのに気づいてか、店員さんはこちらの事情(主に懐の)を汲んでくれたらしく、安めのを見繕ってくれていた。
うん、これなら十分予算内に納まる――この店員さんよく分かってくれている。
「う、うぅむ……どれも良いな」
「なら全部買おう」
「え、えぇっ、良いのか?」
「あぁ、ついでにこの巾着も一緒に買おう」
「うっ嬉しいな――その、ありがとう……」
「お、おう……たまには何だ、男気も見せないとな」
むず痒い空気だ――。店員さんは何やらにびと話しているが、にびは半人半獣姿というべきか、
ぴょこっと出した獣耳を握られて涙目になっているけど……知り合いか何かなのか?
清算を終え嬉しそうにしている鈴音とは対照的に、
先ほどの強気な態度はどこへ行ったのか、にびのテンションはだだ下がりになっているし。
にびは『聞くな、説明が面倒くさい』オーラ出ているから、一体何があったのか聞くに聞けない……。
「はぁ……まぁよい、それじゃ童は鈴音と行く所があるのでちと借りるぞ。それと財布をよこすのじゃ」
「えぇっ何でまた!?」
「いいからよこすのじゃ、お主がいると面倒な事じゃし」
何の事か分からなかったが、にびが付いていればまぁ大丈夫か――。
戻るまで適当にブラついておれと言われ、とりあえず店内にある喫茶店でコーヒーでも飲んで時間を潰していたが
……良く考えるといつ戻るか聞いてない。
こちらの居場所も探知できるからとそのまま勝手に行っちゃったからなんだけど、
狐の力って便利だな……ひょっとしたら瞬間移動もできるんじゃないか――
「あのグズには出来ぬわ、たわけ」
「へ――?」
声のした方へ向くと、白と紫の着物を着た女性がそこに……一体いつの間にそこに?
いや、この人もしかしてさっきの店員さんか? それに口調もどこかにびに――。
「あのようなグズと同じに見られるとは、妾も落ちたものよのう。
ま、そなたが思っておる通りじゃ。ほっほ、うちのグズがお主ら面倒かけておるようじゃの」
「や、やっぱり。でもどうしてまた俺の所に――?」
「ふん、あのグズのせいで出張らざるを得なくての、叩き起こされて腹が立っておるのじゃ。
その責任の一端はお主にもあるでの、しばし妾の相手をしてもらうぞ?」
「え、えぇぇっ!?」
「ほっほっほっ、妾の機嫌を損ねぬようせいぜい気張るがよいぞ」
にびとは比べ物にならない威圧感がある……特に広げた扇子から覗く流し目に圧倒されてしまいそうだ。
何と言うか気を抜いたら押しつぶされそうな、これが本物の神様の威厳ってやつだろうか……。
「て、何で普通にくつろいでるの……え、えーっと?」
「七じゃ、あのグズからは七姉と呼ばれておる」
七ってことは、二尾で二本だったし――もしかしてかなり上のあれなんじゃ?
しかも姉って……だから、アイツはあんなに怯えていたのか。
確かにこのオーラを感じていたらそりゃあんな感じにもなるよなぁ……。
「別に本数が多いから偉いと言うわけではないぞ? ま、あのグズは姉妹の中で最低なのは変わらないがの。
それ以外では妾より本数が少なくとも格が上なのもおるのじゃぞ」
「――で、その七姉さんは一体何を?」
「ふん、あのグズが早々トチりおってな、その尻拭いしに来たのじゃ」
「トチったって、もしかして……」
「そうじゃ、全く面倒臭いことをしでかしてくれたわ。まぁそれはよい、それでお主はどうなのじゃ?」
「へ?」
「もうあの娘を抱いたのかと聞いておるのじゃ。若き男女が寝食共にしておるのなら一発や二発ぐらいはしておるであろう?」
ブフッ――こんな所で突然何を言い出すんだこの人は!
ちょっとそこのお姉さん、聞き耳立てないで!
「なんじゃ、まだ童貞処女か――つまらんのう」
「ど、どどどど童貞ちゃうわっ!!」
「ほほっ、先の様子を見れば分かるがの――さて、どこまで我慢できるかの、ほっほ」
白く細い綺麗な指で畳んだ扇子を意味ありげにゆっくりとお上品に上下に撫でるのはズルい。
こちらを妖艶な瞳でじっと見つめられると……宝石のような澄み渡った狐の瞳から視線が外せない……。
店内のガヤガヤとした音がせき止められ、キーンとした耳鳴りのような音、自分の心臓の鼓動の音だけか響いている――。
人のものではない、その赤くなった目に吸い込まれそうな――
「ほっほ、その様なもの欲しい眼で妾を見てどうしたのじゃ? あの娘より妾のが良いか?
あれは本来ここには存在せぬ身じゃ、あのグズに任せておけばいつになるかやも分からぬし
妾のが良いのであれば、妾の手で今すぐにでも奴を元の世に戻してやってもいいのじゃぞ?」
「え……?」
「あのグズには出来ぬが妾にはそれぐらい容易きことよ、さぁどうじゃ?」
「鈴音を元の時代に――」
「――ぶ、くくふふふっ……あっはっはっはっ! いや愉快愉快っ、今のそなたはいい顔しておるぞ!」
「へ――?」
「嘘じゃ、いや出来ぬわけではないがの。くくっにびと負けず劣らずのそのマヌケ面じゃっふふふっ。
別にこの世にあの娘が居ても何の影響も及ぼさぬし、あのグズもグズなりにやっておるようじゃしの。
妾を取るかあの娘を取るか天秤ににかけたように、これからお主がどのような道を選ぶかもまた一興よ――」
いや愉快愉快、と言って人ごみの中にスーッと消えるようにして去って行った――と言うか言葉の通り消えた?
同時に店内の騒音の濁流が一気になだれ込んでくると、空白の数分間、元からそこに誰も居なかったかのような錯覚さえする。
にびは毎日あんなおっかない人と対峙してるんだろうか……ああ疲れた――。
/
あれからどれくらい時が経ったのであろうか――私はこの狐に言われるままあちこちの場所を連れまわされておった。
まずはこの時代の下着――かのような物を男子の目に触れる場所に堂々と置いて良いのかとも思う場所にて、
にびは若草色の"ぶらじゃあ"と"しょうつ"と言うのを選び、これを身に着けて帰れと言うので今は更衣の為の小屋に入っておる。
"ぶらじゃあ"は器のようなのに乳を入れ後ろで留める、ふむ……ちと肩と腋下が気になるが、サラシに比べれば断然容易い物だ。
"しょうつ"は褌でもなく柔らかく薄い絹のような布で包まれ――これは必要なのか?
にびが見繕うてくれたので大きさは合うておるが、大きな鏡に映った己の姿は何とも奇妙な格好をしている。
「穿いておれば不意に着物がまくれても大丈夫じゃろ? あくまで穿いていない時に比べてじゃがの。
ま、それを見たいが為・得たいが為に我が身を滅ぼすのもおれば、それを見て・見えて欲情するのもおる。
いずれにせよ見られぬように努めるのじゃ、ちなみに弘嗣は後者の方でもあるからの。見せたきゃどうぞ」
「なっ――か、かのような報はいらぬっ!」
確かに何か――飾り気はないが男を惹きつけ情を掻き立てるかのような妖艶な雰囲気はある。
名のある将がこれを身につけた私を見て扇情され、その夜は寝床に呼ばれ……くふふっ。
そう、あの"べっど"の上にてこう――って、違うっどうして肝心な所であ奴に摩り替わるのだっ!
そもそもあ奴に欲情されては――ではなくてそんなことはありえぬっ。
「…………」
『あ、あのー……』
『ま、いつもの病気じゃから心配いらないのじゃ。
あとこれも貰うからしばらく待って欲しいのじゃ。それと弟か妹は期待出来ぬぞ』
『まだ何も言ってないのに――!?』
『ま、百歩間違えて出来たとしても童の弟・妹にはならぬがの』
・
・
・
「うぅ……気づいておったなら止めてくれても良かったろうに」
「恥じゃと思うのなら、その妄想の世界に浸る癖をどうにかせい……」
顔から火が出るほどの恥をかいてしまった……口惜しいが今の私ではこの狐に何も言い返せぬ。
金輪際あの店に行くことは無いであろうが、あの様な醜態――出来れば直ちに忘れて貰いたい。
しかし、慣れぬ物を身につけておるから胸元が気になってしょうがない、楽であるが肩が凝りそうだ……。
「着いたぞ、次はここじゃ」
そんな私の様子には気にも留めず、一度建物から離れ次に連れて来られた場所は……何ぞここは?
「薬の店じゃ、えぇっとお主なら――あったこれじゃな」
薬か、なるほどなるほど薬は重要であるからな――傷薬に包帯に、この世なら熊胆とかも豊富にあるであろうな。
何の薬か良く分からぬものばかりであるが凄い数だ、これなぞ銀で装飾されておるのもあるしさぞ貴重なものであろう。
「お主がそれを必要とするのは十年は後じゃろうな、ほれ――次からはお主自身で買うのじゃからしっかり見ておけ」
「これは何ぞ、綿のようであるが……字があまり読めぬ、昼に夜用?」
「そなたの月の物はそろそろじゃろ、それのあて布のようなものじゃ、黒いのが夜と覚えておくがよい」
「おぉっ、すっかり忘れておった。これは助かる――だが、わざわざ買わずともあ奴の所にもあるであろう?」
「男一人の家にナプキンが常備されておる方が怖いわ……。
ま、あれの昔の女が置いて行ったのぐらいなら探せば一つや二つはあるであろうがの
数は足りぬし、お主とて過去の女が使うておった物はあまり気持ちが良いものでないじゃろ」
「そ、そんな奴がおったのも初耳であるが……う、うぅむ確かにあまり気が進むものではないな」
いや、何かいたと言う話は耳にしたような覚えがあるが、一緒に住んでおったのだろうか……。
確かに所々に似つかわしくない物が置いてあった、以前大掃除をした時にまとめて処分しておったが。
もしかすると無理に捨てさせてしまったのであらば申し訳ないことをしてしまったな……。
「良心の呵責に苛まれる必要はないぞ、あれぐらいせぬと踏ん切りつかぬし更に泥沼に嵌るだけじゃ。
自力ではあがれぬ状態であるし、誰かが引っ張りあげねばならぬ……
あやつの領域に踏み込む話になるのでこれ以上は言わぬがな、さて童の分はこれじゃ」
「お前も使うのか――?」
「じゃから見た目で判断するなと言うに……いい加減にせぬと張り倒すぞお主ら。
童にも生理が来る時は来るのじゃ――これ以上力を使いすぎなければ、じゃがの」
使い方は後に説明するようであるが、どうやら先ほど買うた"さにたりいしょうつ"と言う方と合わせて使うと良いらしい。
女と言うのは何と面倒だと思うておったが、私の居た世もこの世もそう変わっておらぬようだ。
この面倒さは男に説明しても分かってもらえぬし……うっかり着物を汚した時なぞ母上にこっぴどく叱られたものだ。
折角の新しき良い着物を同じ過ちで汚してはならぬようにせんとな……。
だが、あ奴は良いのであろうか――これ程まで良い思いをさせてもらっておるのに私は何かあ奴に出来ておるのであろうか?
この狐の能力が戻れば私は帰る事ができる、されど……。
「別に難しく考えずとも、そなたはそなたでお主にしてやれておるわ。ただそなたが気づいておらぬだけじゃ」
「う、うぅむ……?」
「なら一つ教えてやろう、これに乗るのじゃ」
勝手に動く階段の脇に何やら薄い板らしき物を地べたに置いた。
窓のようなのから黒き棒が映っておるが、はたしてかのような物で何が――。
知りたくない事を知ってしまうような、乗ってはならぬ気もするが……。
「57.4キロ……」
「そ、それが何だと言うのだっ!?」
「これは自分の重さを量る物でな、お主がこちらに来た時は55キロぐらいじゃ。
まぁ平たく言えばお主はこっちに来てデブって――ふぎゃっ!?」
何を言うておるのかさっぱり分からぬが、これ以上言わせてはならぬ気がしたので思わず殴ってしまった。
「す、すまぬ……つい――」
「ひ、酷いのじゃっ……。うぅ、そなたがデ――僅かにふくよかになったと言うことは、
同じ事が弘嗣にも起こっておるのじゃ……つまり心身共に健康体であると言う証拠なのじゃ。
これまでは遅寝早起き、飯は添加物満載のコンビニ弁当が主の栄養偏りまくり、家は寝るだけ会話は会社内だけ。
そんな社蓄過労死一直線な生活が改善されてきておるのじゃ。うー、痛い……」
飯も良く食うようにもなっておるし、ここのところ顔色も良い気がするが――。
私はただ好きな事をさせてもらっておるだけであるのに……。
「代わりにお主はあの男の帰る場所を守っておる、それでいいのじゃ」
留守を預かる役か――女子の役目でもあったな。
私には縁のないものだと思うておったが、知らず知らずの内にしておったのか……うぅむ。
夫の帰りを待つ妻の主戦場か、って違う違うっ妻ではなくえぇっと……
「ほんと何年先になるのであろうな……」
/
何かさっきから妙に頭がぼうっとしてるんだよな……
あの人と話してから妙に鈴音の顔が浮かんでくるし、どこか見て回るにも何かそんな気力が湧いて来ない。
「……して、どうしてそんなに疲労困憊なのじゃ?」
「お前の姉と話してから急に疲れが来てな……」
「に゛ゃっ!? ま、まさか七姉様が――し、していづこにっ?」
「どこかに消えたぞ、大変な姉上様だな」
「全くじゃ……はっ、お、おらぬな!?」
買い物が終わり、俺が待つ喫茶店にやってくるやいなや、はぁ……と息を吐いてしまった。
だが、にびが来たと言う事は鈴音も来た事になる。妙に嬉しくなり鈴音に目をやると――
「お、おぉ――どうしたんだ?」
「タダでしてくれると言うので、けけっ化粧と言うのをして貰うてな……ど、どうだ?」
緊張しながら言う鈴音の表情は何と言うか、今までとは全く印象が違う。
全身に電流が走ったかのような、これが本当に鈴音なのかと思えるぐらい凄い美人だった……。
な、何だ――凄いドキドキする。目が離せなくなるぐらい惹きつけられてしまう――。
「凄い美人だ、似合ってる……」
「ななっ――か、からかうでないわ!! あぁもうっ肩が凝る……」
にびに連れまわされ、最後に化粧品購入したついでに、メイクの仕方を教わるのにしてもらったらしい。
確かに肌荒れ気味だとは思っていたが、土台は整った顔をしているだよな。
なるほど、そこに化粧をすればこうなるのか……女は化粧で化けると言うが、大化けだ。
「だっだから、じろじろ見るでない!」
「あ、すっすまん……あまりに綺麗だからつい――」
「う、ぬうう……」
「うーん……何か変なのじゃ」
傍から見ればどんなバカップルかと思われるだろうな。
にびは呆れ顔と言うより怪訝な顔をしているが。
「ま、いいじゃろ……童はパフェ食べるのじゃ」
鈴音はこれまで戦時の化粧ぐらいしかした事がないらしく、最初はああだこうだ化粧なぞと文句を言っていたが、
いさ終えてみれば、本人もまんざらでもない様子で鏡がある度にチラチラと鏡に映った自分を見ていた……とにびが言っていた。
うん、鏡見るのも分かる……ああでもどうしたんだろ俺。
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「この後、食材買いに行こうと思ったけど、明日にしよう……疲れた」
「そうであるな……私も身体は動くが気力があらぬ」
皆疲れ切っており、部屋に戻ってくると珍しくはぁっとため息をついて、ベッドに持たれかかるようにしている鈴音を見た。
帰りの道中、鈴音を見た男が『結構美人じゃね?』と話しているのを聞いてちょっと優越感と嫉妬を感じていた。
鈴音も同じように『どうだ!』と自信満々の表情だったようで、にびは『似たもの同士じゃの……』と呆れ返っていたが……。
うーん……でもやっぱり美人だ、ずっとこうして見つめていたい――そんな感じがする。
「だ、だからそうじろじろ見るでない!」
「す、すまん、つい――」
「……そ、その――本当なのだな?」
「へ?」
「わ、私が美人だと言ったことだ――嘘偽りではないのだな?」
「あ、あぁ……嘘じゃない、美人だ……ずっと見ていたい。こうして……」
「なななっ――!?」
俺の腕が無意識に身体が鈴音の両肩を掴んでいた。
欲しい――目の前にいる鈴音がが欲しい――と自分で自分が抑えられなくなっている。
戸惑う表情と僅かに潤む瞳を見せ、抵抗するも腕にかつての力が入っていない
「や、やめぬかっ……わっ私はまだ――」
「俺は……鈴音が――欲しい」
「や、やめっ……」
鈴音の着物の襟元に手をかけ、強引にその身に纏っている衣を剥ごうとした時……
ガンッと後頭部に衝撃が走り――俺の視界が真っ暗になった。
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目が覚めたらベッドの上にいた。
頭が痛い――あれ、何でここにいるんだ? 確か買い物に来てて喫茶店に居たはずじゃ……。
「目覚めたようじゃの」
「にび……あれ、ここは――いつつっ!?」
「だ、大丈夫であるか――?」
駆け寄ってきた鈴音は何か印象が違った。何か変な夢を見たような――?
「さて目が覚めた所で単刀直入に言うが――七姉様と会うた時、あの人の赤くなった瞳を直視したか?」
「あ、ああ……確かあの人の眼を見たら頭がぼうっとして……」
「はぁ……やはりか。お主、その時に暗示をかけられておったのじゃ」
「あ、暗示? 暗示ってどんな……はっ!?」
鈴音を見ていたらどんどんと気持ちが昂って来て、鈴音にがばっとした記憶が蘇ってきた。
今――彼女の目は笑っていない。あれ……夢じゃなかった……の?
「そうじゃ――あの人が良く使う手なのじゃが……そなた"鈴音か七姉様か"の二者択一にかけられ、鈴音を選んだじゃろ?
あれは選んだ者の事しか考えられなくなってしまうからのう……とりあえず童が止めねば大変な事になっておったのじゃ。
全く七姉様にも困ったものじゃ……」
「そ、それで暗示は解けたのか?」
「うんにゃ?」
「え、じゃあまた鈴音にしてしまうんじゃ……」
「うむ、じゃからこれから解くのじゃ。ほれ――」
にびが俺の肩をトンっと叩くと――な、なんだ身体がっう、動かない!?
「あの人の暗示の解き方はのー、その対象の女に思いっっっきりっひっぱ叩かれる事で解けるんじゃ。
皆、大抵あの人を選ぶので死ぬまで虜にされるのじゃが、いやー鈴音を選んで正解じゃったなぁー、にひひひっ」
な、何だと――っ!?
今の鈴音に……鈴音にやられたら脳みそシェイクされて死んでしまうっ!!
……畜生っ、この狐楽しんでやがる――っ!
「気が引けるが、まじないを解くためだ……許せ」
気が引けてないじゃんっ、素振りからして殺る気満々じゃんっ!?
ちょ、やめてっそんな振りかぶったらっ――あ、お星様と昔飼ってた犬のハトラッシュだ……。
――ゴルフを想像して欲しい。ティーに置かれたゴルフボールがドライバーで吹っ飛ぶ光景。
もしそのゴルフボールに目があれば……俺はそのゴルフボールなれた気がした。
「いひゃい……」
「ふんっ、もう一発おみまいしてやりたい所ぞっ」
「あっははははっ……いひひひっも、もうだめなのじゃっあはははっ!!」
目の前で腹を抱えて笑う狐はいつかぶん殴ってやる……にびが全身固定したお陰で、頭がもげたような錯覚さえした。
元はと言えばこいつの姉が原因である、かけられた俺も悪いけどあんなのが出来るなんて聞いてない。
「此度はいたし方の無い事であったので許してやるが、次かのような真似をすれば……」
「き、肝に銘じておきます……」
「じゃが、お主もまんざらでもむががっ――」
「おおっお前の姉もどうっておるのだっ!!初対面でかのようなっ!!」
「ぷはっ――あの人はああ言う人じゃ、暇に飽かせてああやって暇つぶしするのじゃ……。
童がちょっといいなーって思った雄がそれで奪われたのじゃ……」
暇つぶしであんな迷惑な事をしないで欲しい。鈴音が疲れていたおかげか刺されずに済んだのが救いだった。
本当に首と胴体がサヨナラしていた恐れがあったんだぞ?
「であるがこれで――」
「ん、これで?」
「これで、私はまだ女として通用するということが分かったぞ!!
何が痩せっぽちでガサツだからお前は男に見向きもされぬだ、父上め!!
今日なぞ男と言う男が振り向き、まじないにかけられたとは言え迫られたではないか! 私はまだやれるぞ!」
この時代でその格好込みだから――と言うのは一切考慮しない、超ポジティブ思考だった。
なるほど、だから帰りもあんな鼻が高かったのか……突っ込もうかと思ったけど、この様子じゃ多分聞く耳持たない。
「どうしてこの娘はこうも阿呆なのじゃろ……」
振袖:未婚女性が着る。(結婚しているかしていないか見分ける為)
振る・振られるの語源もここから。告白の返事はその袖を振って返事していた為。
留袖:振袖の袖を切って留袖にする。(=袂を分かつ)
ナプキン:昔は綿などを詰めるか、当て布をしていた
~今回登場キャラ~
・にび(二尾)
二本の尾を持つ狐娘。見た目は子供、中身も子供
体毛:亜麻色 性格:単純・メンタル弱い
・七姉さん(七尾)
七本の尾を持つ狐娘。実質、狐姉妹のリーダー。
文句言いつつも妹達の面倒見ている。
体毛:白 性格:鬼