表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/26

19.終末がやって来た

※視点の切り替えは「/」で行っています

 鈴音が乗っている御車が見えたっ――

 くそっ革靴って何でこんな走りにくいんだ……足が痛いし脇腹も痛い。

 日頃の運動不足がたたって全身がもう悲鳴をあげてる――けどこんなので足を止めていられない。

 一秒でも早く、一歩でも多く前に足を進めなきゃいけない。

 得たい物があるなら自らの手で掴みに行けなければならない、

 誰かの施しを待っていたって誰も与えちゃくれない。


 俺の足は一歩一歩大地を踏みしめ前へと進む。

 何のために走っているのか? どうしてこんな事になっているのか?

 そんな己の足を止めたくなるような疑問が頭をよぎる。

 だが答えは決まっている――惚れた女なんだから仕方ないだろ、と。


 自己陶酔と言われたって構わない、誰に何と言われても、指を刺されて笑われても構わない。

 鈴音を取り戻せるのなら俺は――


 目の前の籠がどんどん近くなっている、俺が早いのか? いや違う籠が停まっているのだ。

 明かりが灯っているのからしてもう既に中に入っているのか、ズキンと痛む胸は走ったからではない

 焦燥感に駆られてしまうのを抑え力を振り絞って足を前に進める。




「はぁっはぁっ……いや、屋敷には……入ってないのか?」


 大丈夫だ、大丈夫だ……まだシャワーを浴びる時間から前戯が入るからまだ間に合うはずだ。

 だが、何かあったようで、屋敷から100mほど手前で次々と報が飛び込んできている声が聞こえる……。


『家畜がっ鶏や牛馬共がストライキを起こして座り込んでいます!!』

『こちらでは明日の婚儀どころか己すら分かっておらぬ者が続出っ!!』

『こちらでは占いに混乱して大枚を叩いて毟り取られる者が続出っ!!』

『明日の婚儀の馳走が、食材が何者かに食い尽くされておりますっ!!』

『城内で食中毒が発生し、下痢や嘔吐を訴える者が続々と現れてます!!』

『百姓共が眠りこけ、いくら起こしても起きる気配がありませぬ!!』

『アヘンが蔓延したかのように……あ~なんか蝶々が一杯飛んでいて凄いですぞ~』

『や、やややっ屋敷の裏の杉に雷が落ちちちっみみみ皆は恐れおのののいてててっ』


「ぬ、ぬぅぅっどいつもこいつも……。

 家畜には朝の餌を2割増やす代わりに夜の餌を2割減らすと言え!!

 己を見失っておる者は頭をぶん殴れっ!!

 混乱したくなきゃ金払うな!!

 ストライキ起こした家畜を調理せよ!!

 この時期は傷みやすいからちゃんと加熱殺菌せよと言ったであろうが!!

 寝てる奴の目の周りにメンタム塗れっ!!

 アヘンはまだ先じゃっ黄色の救護籠呼んでやるからそこに居れ!!

 かかかか雷はおおおお落ち着つつつつけけけっ!!」


 真面目に追いかけて損したような気分だ――。

 使者は指示された通りに各々散っていった。所々突っ込みたいが突っ込みきれない。

 家畜はにびが、健忘は三尾が、搾取は四尾が、フードクライシスは五尾が、食中毒は六尾が、眠りは九尾が、

 ハッピーセットは八尾が、落雷は――七姉さんが……狐の姉妹が勢ぞろいして足止めをしてくれているのだろう。

 一番シャレにならないのが食中毒、フライドチキンになりそうな家畜共が心配だけど……。


 この騒動の中、自らの足で籠を降りた者――ずっと追い求めてきた女性が見えた。

 汚れの無い白無垢姿、月明かりのせいかやや黄味がかって見えている。

 息も絶え絶えで頭も回っていないのに、腹の底から彼女の名前を叫んでいた――。


「鈴音――っ!!」

「ぬうぅぅっここにもっ……構わぬっ斬り捨てるっ!! 鈴音様っ屋敷の中へっ!!」


 刀を構えてにじり寄ってくるイカついオッサン――

 ちょ、ちょっと待って!? 武器よこして、一騎打ちぐらいさせてって!!

 全力疾走でヘロヘロになってる丸腰の相手に全力で殺しに来るのはダメだって!!

 獅子は兎を狩るにも全力を尽くすって言うけど、全力尽くしちゃダメな相手だか――あ、これ死んだ。


 頂点に達した刀がゆっくりと弧を描きながら振り下ろされるのが見えた。

 いやゆっくりに見えているだけか……ああ、バッドエンドか……と覚悟した瞬間――


 ギィンッと金属同士がぶつかる大きな音――

 ぎゅっと瞑った目を開くと、立ちふさがるように立つ白無垢姿の女性が目の前に立って居た。


「な、何を――!?」


 侍である事に悩み涙していた女性――。

 月明かりに見えるその顔は凛として、心惹かれずっと会いたいと思っていた女性――。

 一日も経っていないのに、心かき乱され狂おしいほど求めた女性――。

 強がっているけど実は寂しがり屋な女性、そんな――侍娘がやって来た!


「この者には指一本触れさせぬっ、弘嗣っ下がっておれ!!

 それと……すまなかった。この姿……お主と……したかった……」

「す、鈴音……」


 帰って来た――初めて会ったときはそれに殺されかけた護身刀を振り

 動きにくい恰好に体格、得物のリーチにも差なぞ無いに等しいと言わんばかりに、相手を圧倒している勇ましい女性。

 動揺しているのもあるだろうが、そんなのが無くてもこうなっていただろう。

 着飾ったおしとやかな姿も良いが、やはり俺の知っている鈴音のが美しい――。


 ――ただ、刀を落とした相手にブレーンクローをかける姿は如何な物か。


「ぐおおおぉぉぉぉッッーー!?」

「あ、あぁひっく……楽しいなぁー」


 鈴音――ひょっとして酔ってる?

 そう言えばおいとまの儀の時にも酒飲んでたけど、確か酒癖悪いって言ってたよな……。

 さっきまで素面だったのに、もしかして立ち回りして酒が回った?

 何だっけ、鈴音がやらかして縁談ぶっ潰したの。

 あれ酒飲んで暴れて、お見合い相手どつき回したとか言ってたなかったか?


「た、助けっ割れるっ割れてはならぬのが割れるっ!!」

「す、鈴音っ勝負は決したからストップっストップ!!」

「んー? お主は誰であったっけー?」

「なっ何を――」

「こうしたら思い出すかもしれんのう……んー」

「分かってるな!? 絶対分かっててやってるな!?」


 顔をあげた鈴音の頬を両手で持ち、強引に唇を奪った――

 これまでのような合わせるだけではなく、獣のように求め合うようなキス。

 頭部を握りつぶされかけ悶絶するオッサンの上で唇を求め合う光景、傍から見ればどれだけシュールなのだろう……。

 しかもあれだ、鈴音の口……すっごい酒臭い。


「……めでたしめでたし……」

「ろ、六姉さん……あなたは一体……」

「……ごめんなさい……まぁ結局こうなると分かってたから出来たこと………。

 ………じゃ、私やる事あるから…………。

 ………あ、そうそう………彼氏、恰好よかったぞ………ぶい………」


 ふふっと笑って闇の中に消えていった……。

 あの人は一体何の目的があったのか分からないままだったな……七姉さんなら何か分かってるのだろうか?

 先の建物には多分相手の男が待っているだろうが、そこに行って『僕たち付き合い始めましたー』なんて行くのもゲスい。

 となれば、ここはさっさと帰るに限るな。


「鈴音、帰るか」

「うむ――そこの馬を借りるか。ほれ籠に乗れ婚儀の続きするぞー」

「ちょ、ちょっと待って飲酒運転になるから!?」

「この世にそんな法はなぁい!!」


 た、確かにそうだけどさ、絶対いけない事になりそうなんだもんっ!?

 酒入って何しでかすか分からない人に馬操らせたらダメだから!!


 /


「久野よ、よくも妾にやってくれたのう?」

「くっ――殺せ」

「父上、どう言う事かじっくり聞かせていただきたい」

「くっ――殺せ」


 とんでもない暴走車に二度目の命の危険を感じながら、何とか鈴音の屋敷へと戻って来られたのだが、

 到着するや否や、何かポンコツに負けたらしい久野さん――鈴音に捕まった親父さんの処刑が始まっていた。

 くのいちの"くっころ"はイケない事が出来るので良い。だが親父のは問答無用で斬るべきだ。何も萌えない。


「ねぇどんな気持ち? ポンコツ呼ばわりしてた奴に負けてどんな気持ち?」

「ぐっぐぐぐぐっ……」

「奇跡ってあるもんだな……」


 正座して悔しそうにブルブルと震えている久野さんの姿は何とも悲しいものだった。

 唇を噛み目は涙目になって、床の一点をじっと見つめて屈辱に耐えている。

 初めての敗北を喫したかのように……。


 俺を捕え首ポーンと言った配下の人曰く、ポンコツが圧倒的に押されていたが、

 久野さんの刀がポンコツが持ってきた箱に刺さってから様子がおかしくなったのだと言う。

 何やら物凄い悲鳴をあげ狼狽えたらしく、その隙に皿で頭を殴られ倒れたのだと……。

 あの箱に一体なにが……。


「じゃ、処刑第一段……まずはこの箱の中身からじゃー」

「ちょっ、やめっ本当にそれ止めてっお願いっ!!」


 七姉さんがその箱からザバーと出したのは……本?

 それを見て、これまで見たことのない半狂乱になって叫ぶ久野さん――

 しかも何か乙女が好きそうな半裸の男が絡み合ってる薄い本……同じのが何十冊もあるって。

 そう言えば祭典が近くに……え、もしかして?


「もしかして……腐ってる人?」

「お前らの時代で言うと妹は小五ぐらいから腐ってる」

「早すぎたのか……」

「うるさいよっ!! どっちがタチウケでも美しくない二人は黙っててっ!!

 ちょ、やめてっ油ってまさか……だめっそれだめぇっ――イヤアアァァァァァッッ!!」


 囲炉裏の中にでごうごうとファイヤーする同人誌、恐らく新刊だろう。

 後ろにあるビームサーベルから色々な箱は恐らく彼女の腐敗した物にコスプレの衣装だろう……。

 目の前で焼かれるとは何と恐ろしい拷問だ。


「あの人に刃向えばこうなるのじゃ……。三姉様は大丈夫ですか?」

「……全身バリバリ。モルタルまみれ、九尾は本当に鬼だ……取れない」

「これは全そ……尾毛け綺麗にカットしてあげます~」

「……まって、今不穏な言葉言おうとしてたっ!!」


 三尾の人は七姉さんにやられていたのか。

 そりゃ毛の部分をモルタルまみれにするのってあの人ぐらいなもんだしな。

 最初みた時、灰色のバリバリツンツンの姿だったからどんだけロックな奴なんだと思ったが――。

 動けなくなった三姉さんの尾の毛を手際よくカットし始めたけど、八姉さんは美容師でもやってるのか?

 ハサミじゃ切れないとバリカンを取り出されている……あぁ、悲痛な叫び声がこちらでも。


 そして鈴音の方は鈴音の方で、親父さんが鈴音に殴られていたし。

 この時代の娘からグーで頬殴られる親父とかもう威厳ゼロじゃん……。

 まぁ結婚話もそうだったけど、渋るべき場所で追い出すようにして娘差し出したからな。

 そりゃ後ずさりしながらもう命乞いするしかないだろう、その娘も酔ってるし。


「それでも我が父かっ!!」

「ま、待てっ……そうだ、確かこんな時にはこう言えと言われておったなっ

 あ、あいあむ、ゆああ、ふぁあざあ……」

「訳が分かりませぬっ」

「使う場所が違うっ」


 しかも誰がどんな状況になる事想定してそんな言葉教えたんだよっ!!

 鈴音の右手が落ちて、絶体絶命のピンチの状態ならまだ分かるけどその状況で言う言葉じゃねぇだろっ!?


 尾毛(おけ)け全剃りが執り行われて悲鳴をあげる三姉さん、処刑第二弾として秘蔵グッズが焼却処分され悲鳴をあげる久野さん。

 威厳もくそもなく、鈴音にシバき回され悲鳴をあげる親父。何とも奇妙な絵面だなぁ……。


 そういや相手の家は大丈夫なのだろうか?

 領地はボロボロ、使者も締め上げたんだ……落ち着いて考えるととんでもない事をしてしまったと思う。

 これがきっかけで戦とかならなきゃいいけどなぁ。


「それをこれから聞き出くのじゃ――して、六尾は何ゆえ此度ような計画を持ちかけたのじゃ」

「……し、知らないっ。リスクないし協力したらイケメン写真あげるからって言われたから乗っただけ……」

「わ、私は……その三つの尾を持ったのに言われた通りにしただけだっ」

「言う通りにしたら、発禁になった『中学生初女装、~初体験は同級生!?~』

 から『~穢された初夜~』まで全巻くれるって……」


 手に持った扇子でパンパンパーンと全員の頭が叩かれた。

 いい年したオッサンが正座させられ頭を叩かれる姿は正直いたたまれない。

 しかも久野さんのってどんだけ偏ったシリーズなんだ……逆にどんなのか気になるぞ。

 三姉さんは三姉さんで――


「全く、三尾もイケメン好きなら外へ出よ……」

「……やだ、積みゲーいっぱい残ってる」


 引きこもってる理由がただゲームしたいだけと言うね、普通の奴はいないのかこの姉妹は。


「あっはっは、確かに全員変人だなー。あ、そう言えば天から貰ったカード使えばいいんじゃないか?」

「そう言えばそうですね~、天ちゃん帰っちゃいましたがこれありますもんね~」

「課金。課金。じゃぶじゃぶ課金。Zzz……」

「……課金ゲー嫌い」

「ふむ、そう言えばかのような物があったのう。各々持っておるのか」


 皆が真っ白なカード取り出したけど、そう言えばあれと同じのあったような……。

 あったあった、フォティルさんの電話番号が書いた紙だ。

 かけたらQ2にかかったんだよな、それなら番号渡すなってんだ。期待させるような――

 ごめんなさい、何の下心もないんです、あれから姿見えなくて心配になっただけなんです、

 だからそんな恐ろしい目で見ないで鈴音さん。


「あっはっは、わたし『身』だ」

「えっと~私のは『溺』ですね~」

「『滅』だった……Zzz」

「……『女』?」

「妾のは『体』じゃな」


 え、何これ俺も金払わなきゃならんの?

 しかもどっから出したのこの賽銭箱?


「あれ、出ないぞ?」

「十万からじゃぞ? 無ければ有り金全部払わぬと出ぬのじゃ」

「どんだけ毟り取るんだよ!?」

「童は貰ってなくてよかったのじゃ……」


 くそっせっかく金が入ったと言うのに……何だ『狐』?

 どう言う事だこれ……並べ変えたら何かの呪文にでもなんのかな。

 何で狐共の目の焦点合ってないのかな?


 ええと、俺の場所が分からないから置いといて三尾が『女』、ごっちゃんが『身』、

 七姉さんが『体』、八姉さんが『溺』、九姉さんが『滅』か。


 女・身・体・溺・滅か、俺のは最初か最後に来たとして……。


「狐・女・身・体・溺・滅――狐女、身体溺れる、滅ぶ――あぁー『狐の女の身体に溺れて滅ぶ』か」

「この狐どもが何かするの言うのであろうか?」

「あ、あっはっは……まだそうとは決まってないよな、な?」

「ああ鈴のねーちゃんに聞きてぇことあんだけど、横井のせがれってまだガキンチョなのに結婚するつもりだったのか?」

「わ、私は相手を知らぬのだ――父上は知っておろうが」

「若いって言ってたけど、それなりの年じゃないのか?」

「俺は見たことあるが、その男の子はまだ十いくかどうかだったろ?

 賢くて可愛らしい子だけど流石に二十近い年の差で結婚はなぁ――おごっ!?」


 ポンコツの顔に湯呑がぶん投げられたのと同時に狐共は逃げ出した。しかし、回り込まれてしまった。

 ピシャンッピシャンッと扉が勝手閉まったのだ――狐の姿でカリカリカリカリッと穴を掘ろうとする者、

 床に伏せて打ちひしがれる者、狸根入りではなく狐根入りする者。

 扉をこじ開けようとし、それにしがみ付いて止めようとし、尻尾噛まれる者……

 それぞれがどうにかしてこの場から逃れようとしていた。


「……出して、ここから出して、脱出アイテムどこで買えるの」

「ぐうぐう……」

「あっはっは、笑えないけど笑うしかない……」

「こんな薄汚い所に残るんじゃなかったです~……」

「童の尻尾っ尻尾噛まれたっ!? ええええっエキノコックスにかかってしまうのじゃっ!?」

「お主も狐じゃろっ!! かくなる上は全員死なばもろともじゃ!!」


 一体どうしたんだよこいつら……何で突然こんな世紀末が起こったんだよ。


「お主は知らないんじゃ、六姉様は……六姉様は重度の――ショっ……ショタコンなのじゃ――ッ!!」


 ……は?


「あ、あの人は小さい男の子が大好物での。過去にニャンニャンやりすぎて盛大に怒られたのじゃ……。

 しれで……狐らが全員止めなかったって連帯責任で母様がらチビるぐらい……。

 それからもうしないからと、そんな子をいっぱい見れる小児科医になったんじゃが……」

「迂闊であった……あ奴の病気をすっかり忘れておった」

「もう手遅れです~終わりです~さようなら~」

「にびっ、お前動物を通して見えるだろっ今すぐ見ろーっ」

「あ、はっはいですじゃっ――んー……あ、あぁーうん……」

「……どう?」

「……バ……バニラシェイク一気吸い……」


 全員が固まった。うん、僕もどういう事か何となく分かったよ。

 あれでしょ、打ち止めになった合図としてストロベリーシェイクになるんでしょ?


「弘嗣、"ばにらしぇいく"って何ぞ?」

「アイスを溶かしたような冷たい飲み物だよ……白くてどろっとしてね……」

「"あいす"?う、ううむ……愛を溶かしたのか、弘嗣はつっ作れるか? 出来るなら欲しいのだが――」

「材料がありさえすれば作れるけど、もう一つの方なら材料無くともいつでも作られてる」

「????」


 六姉さんはその男の子とニャンニャンしたくてこんな大規模な騒動巻き起こしたのか……。

 鈴音と男の子にこの世には存在しない免疫力をつけて絶対的な存在にし、縁談を持ちかけるようにしたんだ。

 そうすれば俺を始め、にびや七姉さん達が駆けつけぶち壊そうとやってくる。

 ぶち壊され、取り残された男の子は六姉さんが美味しく頂く――と。


 経験の無い幼い男の子が大人の女の味を覚えたら……虜にされてしまって『居下? 何それ?』になるだろう。

 鈴音が聞いた『思い通りになるのは私だけ』と言うのはそういう事か……六姉さんの勝利だった。

 いや違うな、七姉さんなら見つけ出してシバきあげるだろう。

 勝者はこの中にいない――狐の姉妹の中で何にも巻き込まれず得る物を得た傍観者の独り勝ちだ。


 /


「あら~、そちらもお勉強中ですか? 熱心な事ですね」

「……天狐……上手くいった……ぶいっ……お金そこにある……」


 トランクいっぱいの札束。んん~流石はお医者様、稼ぎが宜しいことで。

 私には男の子がいけないお姉さんにいけない事をいっぱい教えられて、

 それしか考えられない身体になっていても、そんなのは私には知った事ではないです。

 六尾がこの日のためにちょっと興奮しちゃういけないお薬開発してたなんてのも知りません。

 くれるものくれなければ口が滑ってしまうかもしれませんが――。


「それにしても今日はみんな気前がいいですね。いつもこうならいいのに」

「……全部知ってたくせに……わざとらしい……」

「全て丸く収めるように持って行ったのですからこれぐらいは当然です」

「……どうせ誰が何もしてなくても……ここの家は滅んだ………。

 ……特別な事はにびちゃんが鈴音を送っただけ…… 

 ……誰が何をしてもあの二人は結果的にくっついた……。でしょ?……」

「さぁ?」


 私にはお金にならない事なんて知らないですし、本来あの娘が病で、父親も二次感染して落命、

 当主を失った領地を奪いに来たが返り討ちにあって滅んだ家なんて特に興味ありません。


 あの娘の運命が変わり――

 領地を奪いに来たと言う事実に沿って、お馬鹿な父親が騙され嫁に迎える事で居下家を乗っ取りにきていた

 ――なんて事も知りません。結局滅ぶ事には変わりありませんからね。


 オサキの事故は確かにですが他は違います。それでこうなったのですから。

 "何をしても"ではなく、"何かとかしようとした"の結果なのです。


 ――さてここに居てもお金が貰えないので帰る事にしましょうか。

 今晩は何か御馳走にしましょう。


「……早く帰って……もっといっぱいする……ふふっ元気になったね……」


 まぁ構わないのですが、ポイする時はちゃんと最後まで面倒見てからにして欲しいですね。

 食べ散らかしたままにして帰る困った子だから心配です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ