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12.お仕事しにやって来た

 翌日――いつも通りの朝がやってきた。

 鈴音は左鎖骨骨折していると言うのに、右腕だけで器用に朝食をちゃんと用意してくれている。

 六姉さん曰く『数日内にくっつく』と言葉は眉唾物だったが、今となっては本当のように聞こえる。

 調合した薬のおかげなのか、あの人の能力なのか傷の治りが早いのだ。


 今日ぐらいは早く起きて、と思っていたのに――アラームをセットするのを忘れていた。

 侍が凄いのか、その習慣が凄いのか、何時頃に起きると決めたらしっかり起きられるらしい。

 まぁあくまで本人が思った時間なので、鈴音が朝四時だと思っていても、まだ二時だったりする事も良くあるが――。


「ふふ、私より早く起きようなぞ十年早いぞ」

「うーん……確かにアラームセットしたはずなのになぁ」


 何日か前の記憶とごっちゃになっているのだろうか?

 それに、今日の起こされ方は何か違い、枕元に座り優しく揺すられて目が覚めた。

 いつもは『時間であるぞ』と肩や顔をペチペチ叩かれたりされていたのだが……。

 ただ、目覚めは最高だった――アラームや目覚まし時計のような感情のないものに起こされるより

 こうして起こされた方が目覚めがずっと良い。

 朝が弱く、目覚めが良くない方だったのだが、鈴音と一緒に暮らすようになってからは

 いつも起きる時間より早くとも、眠気が尾をひくような事無くスッキリと目覚められ

 一日が快適に過ごす事ができていた。揺すられて起こされるってのもいいなぁ。


「妾が同じようにして起こしてやったではないか」

「それは強請(ゆす)られてです――」


 布団の上に放置されていた鈴音の下着をガン視していたのを、この狐にガン視されていて

 翌朝、寝ている所に『黙っていてやるから二万出すのじゃ』とせびってきたのだ……。

 その日の目覚めは実に最悪だった――。しかもそれはこの姉狐が仕掛けたトラップだったし……。

 なお、これの妹狐の場合は、ベッドの上からジャンプして起こしに来る。


「いつか顔の上にやるのが夢じゃ」

「夢から覚めなくなる気がするので止めなさい……」


 軽いので痛くはないが、顔にやられると次の日から安眠できなくなるので止めてほしい。

 お母さんに起こして来てと言われ、起こしに来たような微笑ましい感じなので、

 飛び乗られて起こされる事に別に不快感は無い。

 いつか家庭を持ったらこんな毎日が送れるのだろうか。


「あぁ、七姉様。八姉様が仕事片づけたいので手伝って欲しいそうですじゃ」

「ん、分かった――来年覚えておればやると伝えておけ」

「……去年もそう言って、結局童が手伝ったのですじゃ。それに札を書けるのは七姉様と八姉様だけ、

 どちらかだけでも今年こそは七姉様にやって貰わねばなりませぬ」

「うーむ……仕事状態のあれは小言がうるさいしのう、札書きで良いじゃろ」


 ああ、やれやれ――と面倒くさそうに何か用意し始めたけど、書道の道具と白い縦長の紙?

 墨は黒と朱色、紙は上質な和紙のようだ。何だろう……俳句の会でもするのだろうか?

 そう思っているとと、七姉様の目が真っ赤になり、一帯の空気は張りつめたように冷たくなった――。


「……」


 サラサラと筆を走らせ字のような何かを紙に書きこんでゆく。

 字の一つ一つに力が込められてゆくような、何か恐ろしい気配さえ感じられる……。

 喋る事も許されない、呼吸の音すら立ててはならないような空気の中、

 七姉さんは次々とそれを――陰陽師が使うような御札を完成させていった。


「弘嗣、額を出すのじゃ――」

「な、何だ?」


 ほれ、と言って最後の一枚をペタっと貼られると――

 な、何だ!? か、身体がっ、か、勝手に――


「あっはっははははっ――よいぞ、よいぞー」

「と、止めてくれぇッ――!?」

「ぶふっ、な、なにをして……ぐ、くくくっ――」

「あははははっ、ほれもっとピョンピョンするのじゃーっ

 ははははっ、ひぃーお、お腹痛いのじゃ――」


 身体の言う事がきかず、両腕を前にしてピョンピョン飛び回り続けている。

 これをするのは黄色い札で鶏の血で書かれた札だろっ!!

 結局、笑い転げる三人はアテにならず、自然に落ちるまで飛び続けさせられた――。


 /


 七殿の作った札によって珍妙な動きを続けた弘嗣は疲れ、七殿と”さうな”とやらに向かった。

 蒸し風呂なるものらしいのであるが……わ、私も今度連れて行ってもらいたいものぞ。


「童も行きたいのう。何せ”誰か”の”アラーム”を”解除する”のを手伝ったのじゃから」

「なっ!?」


 な、何のことであろうな……。私は単に”すまほ”と言うのに興味があって、

 夜更けに触っておっただけであるし、その拍子に”あらーむ”とやらが切れてしまったのであろう。

 うむ、便利な道具に頼り切っておるのも危険であるな。


「素直に『起こしてあげたいから』と言えばよいのに、全くこの娘は……」

「か、かのうような事はあらぬっ!! た、ただ早く起きられるのが癪であっただけで――」

「おはよ~ございまぁ~す。あれ~? お札できてますね~?」

「あ、八姉様。それは七姉様が先ほど作られたのですじゃ」

「へ~、七ちゃんが~? 珍しい事もあるものです~」

「札が無くなってきたと聞いておったので、この際作られたと思うのですじゃ」

「あ~、そっかぁ~。そう言えば、二十年ぐらい前にお願いしてましたね~。

 では、私もお仕事片づけちゃいます~」


 突然やって来た八殿も八殿なのだが、こ奴ら狐は普通に玄関から入ると言う言葉を知らぬのか。

 何も気に留めず、当り前の如く机を移動させ――そこに何やら大きな線香立てを置き、

 線香に火をつけると数珠を持って何かを念じ始めたが……。


 先ほどとはまた違う重苦しい空気……何ぞこれはっ!?

 け、煙が大量に――ま、周りが見えぬっ!?


「ふぅ、では始めましょうか」


 目の前に居る女子は、先ほどまで見ていった女子と違う――

 笑っておるような垂れた細目が見開かれ、ギッとしたキツい印象がしておる。

 こ、これが八殿と申すか……。


「これがお仕事状態の八姉様じゃ。では、八姉様――お願いしますのじゃ」

「分かりました――」


 にびより渡された箱には……あれは、装飾品であるか?

 一体何を――。


「なっ……け、煙が人のっ!?」

「静かにするのじゃ」


『憎い……憎い……オォォ――。』


 み、見えぬっ、私には人の形を取った煙なぞ見えぬしっ声も聞こえぬっ――

 子にやる予定だった首飾りを、息子の嫁が勝手に持ち去り質に入れた恨みなぞ私は聞こえぬっ

 それを説得する八殿の言葉なぞ聞こえぬっ!! わ、私には”べっど”の中しか見えぬぞっ!!


 ・

 ・

 ・


 ……ん? 急に静かになったが、終わったのであろうか――?

 はて、布団とやらをかぶっておったはずであるが、何ゆえかのようなゴトゴトと……。


「あ、あれっ――!?」


 ここは……何処ぞ?

 確か弘嗣の家の"べっど"におったはず、なのにそこよりも広く、汚い――。

 いや、見覚えがある……この埃だらけの使えぬガラクタ置き場は――。


「か、帰って来たのか……?」


 私の……屋敷のようであった。

 頬をつねってみたものの夢ではないようだ――。

 帰って来られた事は嬉しいはずであるのに、何ゆえ哀しいのであろう……。


 であるが、何やらガラクタが少なく雰囲気も異なっており、そうでないようにも見える。

 父上に叱られここに閉じこめられた際、腹いせに棚の裏に『父上の阿呆』と彫ったのがない。

 ――あ、あれは父上が悪いのだっ、馬に乗せてくれると言っておったのに反故にして出かけたのであるからっ……。

 そ、その、甲冑に馬の絵を描いたのは悪いと今は思うておるが……。


「うぅむ、確かここに居下の系図が――」


 覚えておる所にそれはあった。

 やはり似た場所ではなく、ここは居下の――ガラクタ置き場ぞ。

 であるが――。


「あ、あらぬっ!?」


 わ、私の名があらぬだとっ!?

 確かに父上と母上の名があるのに、私の名が――な、何ゆえ……。


『誰ぞそこに居るのですかっ』


 はっ、このやかましくかん高い声は――。


「お、おぉっ、お玉殿かっやはりここは居下の家であるようだなっ」

「な、何ぞ誰もおらぬではないか……」

「え、いや、目の前におるでは――」

「全く、誰かが捕らわれ、ネズミがその縄を切ろうとしておるかと思うたわっ」


 な、何が起こっておるのだ……確かにあれは女中頭のお玉殿であるが、僅かばかり差異がある。

 知っておる場所であるはずであるのに、知らぬ――弘嗣の所に来た時のようであるが、

 あれは見知らぬ物ばかりであった。此度は違う、半端に知っておるので余計に分からぬ――。



 会う者全てが私に気づかぬ――いや、この慌てふためいておるが何があったのだ?

 父上が討たれたか? ……怒られそうであるが、そうであらばここまで騒がれぬか。

 うぅむ、爺様が亡くなられた日はこれぐらいであった気がするが……。

 いや、むしろ皆、期待と不安で満ちておるような――母上なら知っておるであろうか?


 見知った場所である――そこまではすぐに行けるのであるが行けぬ。

 私が相手でも融通が利かぬ見張りが立ち塞がっておるし……。

 それに皆、覚えておる姿よりも若く見える――。


 重い足取りで私の部屋に行けば、そこは私の物なぞ何一つない埃が舞う部屋であった――。


「戻りたいと思うた事もあったが……」


 つまらぬな――。

 先の世の"独り"は快適であったが、今の世の"独り"はつまらぬ。

 ここには土産話を話す相手もおらぬし、弘嗣も……。


 ……む、何やら騒がしい――『産まれた』と聞こえた気がしたが、はて?

 産まれたと申しても身重(みおも)な者はおらなかったはずであるが……。

 ふむ、母上の部屋が厳重にであった、この騒々しさ、産まれた、私がおらぬ――


 ……

 ……


「ま、まさかっ!?」


 私は駆けた――。

 頭に浮かんだ事を払拭すべく――大急ぎで母上の部屋へ。

 そこより赤子の泣き声がし、湯を持った女中達がバタバタと駆け回っておる。

 であるが、しばらくは入れぬ――産婆の許可なくば父上でも入れぬ……。


 これほど長く感じた一刻はなかったであろう――。

 今ぞ、と見張りの家臣を潜り抜け、部屋に入ろうとした父上と共にそこに入った。

 憔悴(しょうすい)しきった母の顔が痛ましい……であるが、母上の腕の中に眠る子に何と幸せそうな笑みを浮かべておる。


「そ、その子はまさか母上――」

「ほっほ、やっと来おったか」

「お、おお……。よくやったぞ、そ、それでっ!!」

女子(おなご)じゃ」

「な、なんだと……」

「父上っ、何ですかその目はっ!!」


 明らかに落胆した目をするとは……。

 今この場では出来ぬ、後で手合せと称し、父上を思いっきり殴ってやろうぞ――。

 であるが、やはり私……の妹であるか。うむ、何とも愛くるしい。


 私が居らぬようになり、また子を成したののであろう。

 母上は子が出来ぬと言われ、側女を(めと)るとの話も出ておったが、何とめでたき事かな。

 であるが、これは戻っても私の居場所はもうあらぬと言う事……。

 皆、私に気づかぬフリをしておったのであろう。半端者の私には当然の扱いであるな……。

 ですが、母上すら気づかぬフリを――


「この子の名は決めました」

「うむ、”もし”女子であらば、そなたが決めると申しておったしな。で、何ぞ――?」

「鈴音――産まれた際、鈴の音が聞こえたのです……」

「え……?」


 そこまでして私を……。

 いや、私が産まれた際に鈴の音が鳴った故にその名を付けたはず――。

 もしや……私に気づいておらぬのではなく、これは私の――産まれた日の……。


 産婆が母上を休ませると申し、部屋には母上と産婆鈴音と名付けられた私と私が残った。

 私も出て行くべきであるが、気になって残ってしもうた……。

 お産を終えた女子は横になれず、数日は座ったままで過ごさねばならぬと聞いたが、これは辛そうであるな……。

 であるが、子を抱く母は何とも嬉しそうぞ――私もあ奴との……はっ、ちちっ違う違うっ!?



「まことにこの子が――」

「うむ、数奇な運命を辿るやもしれぬ。また生き方によってはそうならぬやも知れぬ」

「にわかに信じられぬ事でありますが、そち――空孤の申す事であらば信じましょうぞ」

「ただ、可能性の一つではあるがの。

 何度も申すように人は生き方次第で運命(さだめ)は変わるのであるから」

「なればこそ、この子の生き方に任せてみましょうぞ――」


 母上はそう申し、傍に置いてあった小刀を……あ、あれはっ私の護身刀ではないか。

 祈りを込めるように額にあて、長く目を瞑った――。


「鈴音、そなたの身に何があろうと、母はいつでも見守っておりますよ――。

 その時がくればこれの柄を調べなされ」


 そう申し、私の胸の前にそっと置いた――。

『何があってもこれだけは手放すな』と申しておった言葉が今ようやく得心した。

 恐らく母上は知っておったのだ――この先に私の身に起こる事を……。


「ほっほ、まぁそう言うことじゃ。後はそなたの心にある者を信じよ」

「え……?」


 この産婆、今の私が見えおるのか……?


 ・

 ・

 ・


「はぁ、疲れた……」

「八姉様、お疲れ様ですじゃ」

「……で、あれはまだいいの?」

「今起きれば、『布団を抜ければそこは現実だった』作戦が台無しになってしまうので」

「ふぅん……相変わらずセンスのない名前。で、にび――」

「はい?」

「あの強情っぱりの馬鹿はどこに逃げたの?」

「ふ、札を書いて疲れたのでスパに――」

「そ、じゃあちょっと電話するから。その間、後片付けよろしく」



 何やら暑く息苦しい――。


「はっ――!?」


 ここは……あ、あれは夢であったのか?

 元おった……いや、私がやってきた先の世に再び戻ってきておった。

 部屋は未だ煙たく、にびは尻尾で床に落ちた線香の灰などを払っておる。


「む、起きたか。全くこのビビりは……。

 物の憑いた残留思念を祓うだけであるのに、何をそんなビビる必要があるのじゃ」

「し、仕方なかろうっ!?」

「あれ~、にびちゃんお掃除ですか~? 感心ですね~」

「な、もっ元に戻っておる……のか?」

「ん~? 何のことでしょうか~? でも何かスッキリしてます~」


 あ、あれも夢であったのだろうか……?

 いや線香の灰や煙が残っておったので夢ではないであろうが――。

 確かに何やら溜まりに溜まったものを吐き出したような、清々しい顔をしておるし

 やはりこの狐共は一筋縄では行かぬな……。


「スッキリで思い出しました~。お侍さんちょっとそこに座ってください~」

「えっ、なっ何ぞ――?」

「ああ、別に悪いようにはせんのじゃ。童も後でしてもらいたいのじゃ~」

「いいですよ~。じゃ、これつけて~……では始めますね~」


 何やら長い布を巻かれ、髪を()かし始めた――。

 髪が引っ張られ、ジャリジャリと音が部屋に響いておる……なるほど、髪結いであるか。

 おお、これは何とも気持ちが良い――。


「傷んでる所と裾だけ整えておきますね~」

「うむ、かたじけない」

「それと~、眉毛も整えるので動かないでください~」

「にひひ、弘嗣はこれに気づくかのう?」

「な、何ゆえあ奴の名が出てくるのだっ!?」

「女の子が髪の毛を整えて気づかないのは~、男の人が良く見てないって事ですしね~」


 な、何だと――い、いや別に見ておらぬでも構わぬが……。

 何だ、確かに僅かにでも気づいてもらわねば腹が立つのは分かる気がする。

 母上も機嫌が悪く……あれは眉を僅かに剃ったのなぞ誰が気づくかと思うておったが……。

 ああ、そう言えば――。


「すまぬが、ちと確かめたい事があるので動いても良いであろうか?」

「はい~、いいですよ~」


 確か護身刀の柄を……む、紙が入っておる。何々――

『去りし夜を想えど愁う必要あらず。柵に鶴鳴き、次なる夜に鈴の音を奏でたまへ。』

 やはり私が先の世に来るのを予め知っておったかの様な内容であった――。

 何者かが予見し、それを承知で母上は私を止めることなく、生きたいように……。


「う~ん、泣いていては全体のバランスが見えません~」

「ぐすっ、す、すまぬ……」

「紙は古いのに内容は今の事じゃが……はて、誰が?」


 私が産まれた日はかのような日であったか――父上は帰ったら殴るとして

 いじらしい私、幸せそうな母上、微妙な心境であったが同じく幸せな顔の父上――

 はて……もう一人そこにおったような……?


 /


 ああ、やっぱりサウナは良いなぁ――今度、鈴音を連れて来てやろう。

 たくさんの風呂に驚くだろう……ん? 七姉さんは何で逆に疲れた感じでいるんだろうか?


「ああ、弘嗣か……これを聞けば分かるのじゃ」


『――まぁ、これから貴女が何を考え何をしようとも構いませんが、仕事をやるならやるでキッチリとこなしてもらいたい物でありますね。何ですかあの札は、半分以上が使い物にならぬ不良品ではないですか。あの紙だって高いんですよ? 分かってますか? 分かってないですよね、贅の極みを知り尽くした貴女は一枚いくらか知らないでしょ。タダであちこちに残る思念を祓い、路銀は物に憑いた念を払うか、言い寄って来た馬鹿が勝手に払ってくれるのをアテに生活している私の苦労なぞ貴女はまーったく考えておらぬでしょう。いくら我々狐を束ねる長と言っても、もう少し自覚を持ってください。何ですか、母上のパイプ役なんてもう二度と御免ですからね。それなのに貴女はスパでのんびりお湯に浸かってリラックスですか、いい御身分ですね。ただでさえ面倒な事ばかりであると言うのに、少しは残留思念を祓う手伝いでもして欲しいです。誰もが轢かれたら極楽浄土のような地に行けると思わないでください。何の努力も徳も積んで来なかった者が恩恵なんて受けられませんし、自ら死を望んだ者に与えられるのは生前と同じ苦労を与えられるだけです。それを乗り越え一つの生を全うしてからこそ次のご褒美があるのです。良いですか玉藻、貴女はいくら苦労をしたからと言っても、私たち狐からすれば贅沢三昧の印象の方が強いんですからね。貴女の我儘に我々はどれだけ振り回されたか分かってますか。まぁ分かっていれば多少は我々に『ありがとう』と労ってくれるはずであるので分かってないですよね、そんな奴だって皆理解してますし。それを貴女だけでなく、にびももう少し何とかして下さい。あの子は貴女の監視下に置いてあるのですからちゃんと術の勉強もさせて下さい。ああ、五尾もです。あのぐーたらぐーたら、食っては寝る食ってはねる、注意すれば馬鹿みたいに笑って誤魔化して逃げる、先ほども同じように留守電を残しましたが、どうせこれと同じように最後まで聞かぬのでしょう。三尾も四尾も五尾も六尾も七尾も九尾も、ああ何て無責任な姉妹ばかりなのでしょうか。誰もかれも生きたいように生きておるのは良い事ですが、一体誰の背中を見、影響を受けてそうなったのかよーく考えて――』


「パンクするまでこれが入っておるのじゃ……。まだ留守電ならば消せば良いが、

 面と合わせれば軽くこれの三倍は聞かされるのじゃぞ……?」

「拷問か――」


 お仕事モードになった八姉さんの画像も見せられたが別人じゃん……

 ニコニコ目を開いたらこんなキツそうな目をしてるのか――ちょっとイイ……じゃなくて

 シャーマン的なお仕事をしているので、その反動か何かで時々こうなるらしい。

 直前直後は感情の影響を受けなくなるが、留守電にこんなのが延々と記録されていたとかもう、気分が落ち込んでしょうがない。


「……で、どっちが正しい姿なの?」

「本人は仕事中がおかしくなる、記憶がなくなると言っておるが、妾にも分からぬ。

 ただ、どちらでも面倒なので関わりたくないのじゃ」

「うん、七姉さんが嫌がる理由がよく分かった」


 ・

 ・

 ・


 部屋に帰れば、いつもの姿に戻った八姉さんが部屋にいた。

 先ほどのがあるせいか、これまでの彼女のような目で見られない……。

 フワフワしてる方が目が笑ってないように思えて逆に怖いよ――。


「お、おかえり――」

「あれ、何か雰囲気変わってない?」

「え、あっあぁ、その……八殿に髪と眉を整えてもろうてな――」

「ああ、それでか。何か綺麗になったと言うかスッキリした感じがしてる気がしたんだ」

「なっ!? へ、変な事を申すでないわっ……であるが、まことか……?」

「う、うん……」


 やっぱ、女性は髪を褒められると嬉しいのだろうか――。

 何か、チラチラと鏡で確認する鈴音が可愛い――。


「童は?」

「どこか変わったのか?」

「よーし、童がお主の髪を切ってやろう。逆モヒカンカットをしてみたいのじゃ」


『尻尾の毛並みが整えられたのじゃっ!』

 と後で聞かされたが、そんなの気づくわけないだろ!!


後半の愚痴ラッシュの方が執筆早いとはこれ如何に……。

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