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1.お願いにやって来た

初投稿・小説初作成になる為、感想やアドバイスなど頂けたら幸いです。

何卒最後までお付き合いよろしくお願いします。


パターンBで表示しています

※2016/03/02 一話を丸々改稿しました。

前の方がいい、ここがおかしいなどがありましたら活動報告かどこかに連絡お願いします

 妖狐として生きて数百年――

 ついに……ついにこの日がやってきたのじゃ

 待ちに待った日でもあり、童の運命を決める大事な一日でもある――


 春も終わり夏に差し掛かっておるが、これぐらいの季節が一番気持ちがいい。

 辺りは薄暗いものの、あまりの気持ちよさに、伸びた二本の狐の尻尾をふりふりしてしまうのじゃ。

 まだちと力が戻らず見た目は可愛い女の子であるが、中身は立派な大人……とは言っても、昔の記憶がちとあやふやであるがの。


 今は人と人とが争う戦乱の世の真っただ中、この山だけはその煽りを全く受けぬままであった。

 うんうん、この山に芽吹く草花、動物、昆虫……どれもみんな活き活きとしておる。

 であるが、童はこれからの事を考えると不安で気が重くなってくるのじゃ……。


 さっと自慢の栗毛の尾と髪にブラッシングを済ませ、普段着の赤い着物の汚れがないか確認――よし。

 外からは狐の像が置いてあるだけの人には見えぬこの社の中に入ると、童のベッドに居る鬼――我が姉である七姉様が真っ裸で爆睡しておった。

 これが"自称"国家転覆させかけた女の寝姿じゃろうか――白髪か地毛かも分からぬ、大股開きでデカい寝息立てて寝てる姿なぞ千年の恋も冷めるのじゃ……。

 それに、昨晩は酒もしこたま飲んだのじゃろう、部屋の中がすっごい酒臭い……。

 快適と言うよりはだだっ広いだけのワンルームじゃが、あちこちに一升瓶が転がり、ツマミのさきいか(業務用)の臭いがプンプンしておった……。


「七姉様、朝でございますのじゃ」

「ん……にびか、何しに来おった……?」

「それは童のセリフですじゃ……今日は童の初仕事でございましょう……」

「仕事? あぁ……そうであったな――」


 そう、今日は童の初仕事の日――母様より仰せつけられる日じゃった。

 童でも羨ましくなるような純白の七本の尾を立て、まだ眠そうな目でぼうっとしておる……

 はぁ、母様は忙しくしておられるのは分かるのじゃが、どうしてよりにもよって委任役がこの人なのじゃろう……。

 いつも事前連絡もせず急に来るのじゃからまったく――。


「とりあえず服を着てくださいまし。もうお若くないのですから――いひゃっ!?」

「何か言うたかの、んんー?」

「な、何も言ってまひぇん……」


 狐が狐に摘ままれる――驚くどころか無茶苦茶痛いのじゃ……。

 最近、化粧がケバくなってる気がするなぞ口が裂けても言えぬ――。


 いつもの白と薄紫の着物に着替え、寝癖でボサボサな純白の髪を(くし)ですき終えると、周囲の空気がピシッと張り付いた気がした。

 うむ……先ほどとは打って変わって、いつもの七姉様の姿じゃ……。

 仰々しくその懐より取り出された書状――その中には童の初仕事の内容が書かれておる。

 あぁ、ついに始まるのじゃな……。


「さて、始めるかの――にびよ、これより任を与える」

「は、はいですじゃっ」

「辛き事もあるであろうが、立派に勤め上げてみせよ」


 童は妖狐と言ってもまだ半人前の身――。一人前の妖狐となるにはこの地で成果を出し認めてもらうしかないのじゃ。

 この地は、これまで七姉様が鎮座しておった所で、修行に最もふさわしいと童にこの土地を任せてくれたのじゃ、それに報いねばならぬ。

 下手こいて失敗したら……あわわっ考えるだけで尻尾を股に挟んでしまいそうじゃ……。


「は、はいっ――頑張りますのじゃ!!」

「では、これを受け取るのじゃ――」


 これを見事にクリアすれば一人前として認めてくれるらしい。うう、どんなのか緊張する……。

 いくら母様でも、初っ端から可愛い童の心を折に来るような事はせぬであろうし、ここはリラックスして……え、えいっ――


「えぇっと――ここの領主の娘の縁結び……」


 それをそっと閉じた。

 もしかしたら読み間違いかもと、改めて見ても中身は変わっていなかった。

 楽しくなってきて紙飛行機にして飛ばしてみた。とっても良く飛んだ。

 もちろん七姉様に頭シバかれた――。


「あ、あうぅ……こ、こんな厄介なのは七姉様の役目でございましょうっ!?」

「妾は知らぬ、預かっただけじゃ」


 面倒くさいから童に丸投げしたのじゃ――。

 この地を治める娘は一人しかおらぬ……”普通”の女子(おなご)ならまだいいが、あれは普通ではない相当の問題児じゃ……。

 ああ一体どうすれば……む、誰かが童の社の方に近づいておるようじゃが――何じゃ噂をすれば何とやら、その娘ではないか。


「ほれ、とっとと準備をせぬか。祈願を聞くのも任の一つじゃぞ」

「七姉様は九割ぐらい無視しておりましたでしょう……」

「何を言うか。妾はちゃんと”聞いて”やってたのじゃ」

「その結果がこのボロ社ですのじゃ……」


 七姉様はどうやらここの領主とはソリが合わぬようで、全く相手にせぬ――まぁ童もあれは嫌いじゃが。

 そのせいでご利益なしと、領主のオッサンは社の管理を怠るようになり、今ではもうオンボロじゃった。


「では、妾が見ておいてやろう」

「はい、ですじゃ……」


 えぇっと……煎餅と茶と、七姉様が置いて行った雑誌と――よし、聞く準備完了。


「いだっ!?」

「それが聞く態度かっ馬鹿たれっ!」


 さきいか食べながら見る方もおかしいと思うのじゃ……。


『はぁ……母上も口うるさいものぞ、良縁成就の祈願に行けと申しても

 かのようなオンボロの社に住む狐に何が出来ると言うのだ――。

 おお、これは何ともまぁ間抜けな面をした狐よ……何もおらぬよりマシであるな』


 こいつ殴っていいか? 殴っていいじゃろ? な、な?

 何処の領主のせいでこんなオンボロになったと言うのじゃっ!

 お主らの先代は"しっかりと"管理してくれておったのに、何じゃ今の渋ちん親父は!

 それにあの像は可愛いじゃろっ、童の姿を模した狐の像なのじゃぞ!


『……叶いもせぬであろうが、願っておいても良いであろうな。

 ままっまだ、したくもないが、縁とは分からぬものであるし、い、一応は――』


 誰が結婚したと聞いて日に日に焦っておる奴が何を言うのじゃ……。

 お見合いして、男から"お祈り書状"が届くなぞ余程であるのに、素直に結婚したいと言えと――

 奇特な神様とかおればきっと……ああ、童の仕事がそれじゃったな。丁度良いし、ここで条件聞いて適当にあてがって終わりするのじゃ。


 で、希望は――うんうん、顔がよくて高身長、高収入……はいらないができれば欲しい。

とりあえず受け入れてくれて、できれば逞しく、できれば家事がそれなりにできて、できれば面倒を見てくれる若い男じゃな。んで側室は嫌……っと。

それに、剣の腕があって、聡明で筋骨隆々な男で、優しく面倒見てくれる男か……。


 ……なるほどなるほど、どこかにバットでも置いてないかの?

バールみたいなのでも良いのじゃが――。


「はぁ、こ奴は己の立場が分かっておるのかの……」

「妾は知っておるが、この娘が結婚出来ぬ理由がよく分かったじゃろ?」

「もう独身のまま死んでしまえって思うのですじゃ……」


 女だてらに武士の真似事をしておる二十四の年増、痩せっぽちで筋肉質、悪筆・華などの芸術方面てんでダメ、それに酒癖悪いの役満じゃ。

 女子らしい恰好もしていなければ普段から袴と女らしさすら皆無だしのう……。化粧なぞ戦に出るときだけであるし――。

 仮に希望に沿った男が居たとして、そいつがお主を選ぶわけなかろうに。


 良い所を無理に挙げるとすれば、そこそこの顔立ちに料理が上手いって事かの。

 それと、尻がデカい……まぁ安産型って所じゃな。胸はそこそこ、か。

 武芸の方は達者じゃが、ここでは減点ポイントじゃ。男が求めるのは女らしさじゃし。


「とりあえず、探してみますのじゃ――えぇっと……

 聡明な奴はこんなのを選ばぬから、剣術……うーんこんなのは選ばぬし、筋骨隆々……は童が欲しいし。

 残るのは優しく面倒見のいい男か――まぁこれの中から二、三点……他は年と体型かのう。

 これさえクリアすればまだ何とかなるかもしれぬ、尻好きも含めれば若干増えるかも――」

「ふむ、この世から筋骨隆々の男を一人残らず消してやろうかの」

「に゛ゃんでっ!?」


 この人の前で童の好きなタイプを言うとすぐこれじゃ、本当に消しそうなので迂闊な事が言えぬ。

 しかし、検索しても相応しき男がおらぬな……これでもかと言うぐらいおらぬ。

 そもそもこのタイプの女子は――。


「時代が違うであろう?」

「ええ、産まれてくる時代を間違えたとしか思えませぬのじゃ。

 まだ先の世――四百年後であれば似たようなのがゴロゴロいますのに」


 お、そうじゃ――これが終わったらそこに飛んで稲荷寿司でも食いに行くのじゃ。

 最近良い店を見つけたのじゃ。うんうん、そうするのじゃっ、よーしちょっとだけやる気出た!


『ふむ、良く見れば見るほど間抜け面――。

 んんっ、これは……狐の尾か? 二本あるようであるが、何ゆえかのような場所から?』


「だらけた座り方をせず、正面向いてシャキッと座らぬか。

 後ろ向いておるせいで尾が外に出ておるようじゃから引っ込め……って聞いておらぬな」


 相応しいのがおらぬ……おらぬ……この世におらぬぐらいおらぬ……。

 稲荷寿司は今日は二パックぐらい食いたいのう――っと、いけないいけない、今は集中じゃ。

 むっ、おおっこれは良いのがおったぞっ――て、これは先の世ではないか……。

 稲荷の事考えておったらついそこまで――。


『そりゃッ!!』

「あぎゃァァァァァッ――!?」

「ど、どうしたのじゃっ!?」

「だ、誰じゃっ、わっ童の大事な尻尾引っ張ったの誰じゃッ!?」


 お尻に激痛が走って思わず飛び上がってしもうた――いひ、ふう……よし二本あるのじゃ、良かった良かった。

 もげたかと思ったのじゃ……あうう……涙出てきた……。


「だから尾が外に出ておると言うたじゃろっ!」

「きょ、今日はもう散々な日じゃ――誰じゃまったく……んんん、誰もおらぬ?」

「にびよ、あの娘はどこへ行った……?」

「ふぇ?」


 ここにおったのはあの娘だけ……じゃったよな?

 検索中で気が回ってなかったが去った様子もなければ、誰か来た様子もない――。

 とすれば、童の可愛い二本の尻尾を引き抜こうとしたのはあの娘しかおらぬのじゃが……

 では、七姉様の申した通り、あの娘は一体どこに行ったのじゃ?


「なーんか、いやーな予感がするのじゃ……。」

「ま、まさかとは思うが、そなた尾を引かれる前に何を考えておった?」

「えっ、えぇっと……その、これ終わったら先の世に飛んで稲荷寿司でも食べようかなー、と――

 もしかして――ははは、かのような事はあり得ませぬ……」


 えーっと、居下鈴音――居下鈴音――

 なーんじゃ、やはり四百年後に行っただけではないか、全く人ならぬ狐騒がせなっ!



 ……え?

第一話はやや短めになっております

ご覧いただきありがとうございました

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