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其の伍 『唐傘と鼠』

泣きたいくらいに投げ出したい。いや続けますが。

~涼川Side~


「不意打ちとかアイツ絶対しないと思ってたのによー」

 魔法の森の木上を忍者のように移動しているときに隣のロッヅェがそう呟いた。――確かに、英治が不意打ちをするとは、な。思ったが声には出さない。しかし、ロッヅェは俺の眼を見て言いたいことは同じかと察したらしい。

「全く、アイツ敵が来とったのに何で落としたんだよ」

「敵?」

 俺が訊くと、ロッヅェは『言ってなかったか?』というような、きょとんとした表情で俺の顔を見てきた。

「敵って何だよ」

 もう一度俺は訊いた。ロッヅェは少し考える素振りをしてから口を開いた。――曰く、『白い海兵服』の人物だったらしい。

 それを聞いて俺は全身の毛が逆立つのを感じた。ちりちりと、毛が逆立つ。

「ソイツ、いかり柄杓ひしゃく持っていなかったか?」

 確かそんな格好だっただろう。そもそも白い海兵服姿の奴なんてこの幻想郷には中々いないが、一応確認の為だ。

 一言足りないのが誤解を招くことがあるからな。

「ああ? ……ああ、馬鹿みたいにデカイ錨を持っていたな」

「……ソイツ、英治とは相性悪いぞ」

「相性? どういうことだよ」

 俺は空に浮かぶ船を、正確には船のもっと向こうを見ながら言った。

「相手も水使いってことだよ」


 閑話休題。

 能力の相性の悪さというものは本当に酷く、例えば『火を操る力』と『水を操る力』ならば当然水が強い、というように相性の良し悪しがかなり大きく戦闘に出る。まだ水と水なので相手も条件は同じだが、それでも英治が負ける可能性が少ないとは言えない。

 基本、力が一つならば100%存分に引き出せるが、英治やロッヅェの場合三つ持ちなので、一つ目が30%、二つ目が50%、三つ目が20%というように、全て10%以上使う必要がある。勿論、一つや二つだけ使うことも可能だが、それだと単体では100%発揮できず、効率よく戦えないのだ。

 英治は水60%、歯車30%、コピー10%ほどの割合だったと思う――。何にせよ、水60%と水100%では力の差は歴然だ。その分を歯車で補えるといいのだが……。

「大丈夫だろ。アイツなら」

 信頼、というのだろうか。ロッヅェは英治とよく戦っているからこその信頼でそう言ったのだと思う。

 ちなみにロッヅェは英治に勝ったことが数えるくらいしかないらしい。大抵はラストスペルで負けが確定するのだ。と言っても、英治のスペルカードの最後の方は理不尽でしかないのだが……。

「……涼川」

 俺の数歩先を移動していたロッヅェが突然止まった。俺もそれにつられてその場で浮くように止まる。

 木の上は足場が不安定だからあまり戦闘はしたくなかったのだが……、仕方ない。

「う〜ら〜め〜し〜や〜」

「裏は香霖堂だぜ」

「裏はうどん屋だよ」

 定番の『うらめしや』ぶった切りである。


**********

〜英治Side〜


 船の中は案外しっかりしていた。木の匂いが心地いい船内だ。甲板から入った廊下を真っ直ぐ進むと、操縦室らしき部屋にあたり、そこからまたいくつかに道が分かれていた。――その操縦室で、先ほど倒した船幽霊が、能力か何かでこの船を動かしていると踏んだのだが、そうではない、自動であるのだと気付いた。

「でも、一応船らしい設備ではあるみたいだね……」

 僕は方位磁針のようなものを見つめながら言った。それの北を指す赤い針が、たまに左右に揺れた。

 さて、船幽霊さんがこの船を動かしていなかったことから鑑みると、多分、現在のこの船は飛行機でいう自動操縦――、オートパイロットの状態なのだろう。ならば、いくらか船を破壊してもこの部屋さえ大きく傷つけなければある程度なら大丈夫だと思う。一応、この部屋は若干頑丈そうに造られているが、その辺も考えておく必要がある。

「八卦炉を最後まで使わなければいいけれど……」

「八卦炉? それはいいですね」

 反射的に右手でマスパを撃ちかけた。というかぶっ放しかけた。驚いた時に攻撃しかけてしまうのは僕の悪い癖だ。

飛倉とびくらの破片? を探してしたんだけど、まあこれはこれでいい収穫かな?」

「と……、飛倉?」

 確か江戸時代でのムササビ、モモンガの異称じゃなかったっけ。コウモリだとかいう説もあったと思うけど……。しかし、破片? 皮のことか? 動物の皮か?

とらの皮なら成金の絨毯……」

 ぼそりと僕は呟いた。

「……とら?」

 それに反応を示したのは、僕としては少し意外だった。

「うん、虎の皮……待って待って待って! ストップ! タイム、タイム!」

 ――有り体に言うと。

 一分一秒待ったなしのスペルカード攻撃。しかも、超高密度の丸弾とレーザーの複合弾幕が撒き散らされていた。

「ああもういい! 面倒だしぶっ放してやるよ――」

 左手に八卦炉を握り直し、ありったけの声で叫ぶ。

「恋符『マスタースパーク』ッ――!」

 ……嫌な音がした。

 ちょっと待った。僕は今、どっちの手でマスパを撃った? うん、左手だ。じゃあ、僕の利き手は? ああ、右手だ。

 マスパの後方への反動はどのくらいだっけ。ええと、ほとんど光速のレーザーをぶっ放している上に、魔理沙とは違って後方に飛ばない――、つまりその場で踏ん張るから、衝撃(反動)は全部撃った方の手にかかるわけなんだよね(後方に飛ぶとは言えそれでも無傷の魔理沙も凄い)。

 マスパの反動=光速で何かがぶつかったレベル。

 ……あ。

 やっちまった。

「馬鹿じゃないのか僕はッ!」

 まあ……、うん……。

 左手――、いや、左腕の骨全部。


 粉砕骨折しました。


**********

〜涼川Side〜


「虹符『オーバー・ザ・レインボー』」

「音符『ストラディヴァリウス』」

 ――俺が手を出しちゃいけない雰囲気になっている。どうしたらいいかな。

 そう思ったのが十五分ほど前。今は戦闘を全てロッヅェに任せて、自分は森の木々の上で見物している。我ながら、戦闘に気が向かないのはおかしいな、と思った。

(まだ頭が回っておらんのか?)

 中で竜が言った。

「別に……。眠いわけじゃないんだ。でも……」

(なんとなく、かの)

「なんとなく、だ」

 ほとんど俺と竜の思考は一つにまとまっているので、俺が言葉を口に出す必要はないのだが、まあその辺は気持ちの問題だ。

「何なら変わるか?」

(いいのかの?)

「いいよ」

 俺は眼を瞑り、眠りにつくような気分を一瞬味わう。眼を開けると、そこは真っ白な世界だった。――中の竜と入れ替わったのだ。

「さて、あの小娘を倒せばいいのか?」

(それはロッヅェに任せておけ。アイツが危なくなったら助ける程度で)

「ふむ……。じゃが」

『もう終わりそうじゃぞ』竜が、入れ替わった俺の身体で真上を見上げる。竜の人格で感じた感覚は全て、精神世界の俺の脳にも直接入ってくる。つまり、竜が見たものは俺にも見え、その逆もある、ということだ。

 ロッヅェは今――、錬金術で生み出したであろう、鉄剣二本を大きく振り回しているところだった。

「動作が大きすぎるよ〜。それじゃ当たらないよ〜」

 妙に間延びした声で、唐傘を持った少女は言う。舌を少し出して、余裕の表情を見せている。

「悪いけど、俺はこの武器が大好きでさ」

 ぶおん、と風を切る音。ロッヅェは二本の鉄剣を一度肩に担いだ。彼もまた、余裕の笑みを浮かべている。

「これ以外に使いたい武器はないんだ」

 再度、鉄剣を振り回し始める。他人から見れば、動作が大きく隙だらけ、動きも遅いと思うが――。俺はそうは思わなかった。それは、竜の方も同じだろう。

「ちょいと、酸素濃度が減ったの」

 竜が言った。きっと、ロッヅェはあれをやる気なのだろう。今の内に逃げておこう……、しかし、今は竜と変わっているので自分から身体は動かせなかった。

「半人半吸血鬼と言えど、この程度ですか〜?」

 唐傘が小馬鹿にした声で言う。ロッヅェはそこで、剣を振り回すのをやめ、代わりにポケットから紙を取り出した。――錬成陣の描かれた紙を。

「唐傘。先に言っといてやる」

「何をですか〜? 降参ですか〜?」

「いや」

 ロッヅェは鉄剣を錬金術で分解し、鉄クズに変え、紙のみを持った状態にする。それはまるで、手品を子供に見せる手品師のようだ。

 ロッヅェは、余裕の笑みから一転、ニヒルな笑みを浮かべる。そして――。

「チェックメイト」

 ――唐傘を中心とした50cmほどが爆発を起こした。火が球体の形になり、ぼん、と音がなった。

「水素爆発。鉄剣に塩酸を付けながら振っていたんだよ」

 勉強不足だったね、とロッヅェは笑う。いつも通りの彼は、攻撃の手口もいつも通りだった。


**********

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