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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第七章 俺が英雄?
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5.演説?

 改めて出てきた人が議事を読み上げた。

 大したことはなかった。

 そもそも本来は何かを決めるための会議ではないんだよ。

 存在確認みたいなもので、だから議題といっても本当につまらないことばかりだった。

 例えば北方諸国における関税問題とか。

 これがつまらないのは、関係するのがヤジマ商会だからだ。

 北方諸国の国際貿易は全部と言ってもいいくらいヤジマ商会が握っている。

 もちろん旅の商人などは無関係だけど、問題になるほどの貿易量じゃない。

 誤差のようなものだ。

 大量の貨物輸送はヤジマ交易とかいう会舎が取り仕切っているため各国はお互いに関税をかけるのは止めましょうというような話だった。

 議題が述べられた後、すぐに投票というか挙手になって満場一致で賛成。

 そんなのに反対しても良いことは何もないからな。

 ていうか反対でもしたら国際貿易から閉め出されてしまうかもしれない。

 恐るべきかなヤジマ商会。

 北方諸国、マジで経済植民地化していたりして。

 心配になってユマさんに聞いてみた。

「文句は出ないの?」

「交易ルートを独占しておりますから。

 街道だけでなく、直線ルートで運ぶ事が出来るのはヤジマ交易だけでございます」

 つまり野生動物たちが動いているのか。

 山だろうが谷だろうが平気で突っ切って行く連中だ。

 もちろん重かったりかさばったりする荷物は駄目だろうけど、小さい荷物や軽いものは驚くほど速く運べるらしい。

 航空便もあるしね。

 今やすべての国に国際郵便局というか航空便を取り扱う支舎があって、国際通信なども全部そこを通しているという。

 交易だけじゃなくて情報も握られているのか。

 北方諸国、完全に征服されているのでは。

「うふふ」

 怖いから知らなかったことにしよう。

 その他、どうでもいいような議題がいくつか上がったけどさっさと片付けられた。

 それが終わると、次に各国代表の挨拶が始まった。

 普通の定例会ではそんなことはしないらしいんだけど今回はオブザーバーがいるからね。

 帝国に加えてソラージュ、エラ、ララエ等、列強諸国の代表が来ているのだ。

 ミルトバ連盟としては何かパフォーマンスしないことには始まらない。

 そこで連盟に所属する各国(団体)の代表が何か言うことになったらしい。

 順番は国(団体)名順だそうだ。

 そうしないと贔屓だの何だの言われるからな。

 ああ、面倒くさい。

 代表の挨拶が始まったけど、これがまたみんな長いんだよ。

 しかも露骨に俺たち(こっち)を向いて話す。

 列強の代表にアピールしているんだろうな。

「むしろ我が(あるじ)に対してですね」

 ユマさんが囁いた。

「どこの国もヤジマ商会なしでは立ちゆかなくなっていますから。

 この機会に是非関心を持って頂こうと」

 そんなことを言われてもなあ。

 そもそも俺、もうヤジマ商会の経営に関係してないし。

 でも代表の視線が俺に集中しているような気がするからそうなんだろうね。

 うっかりよそ見も出来なくなってしまった。

 しかも話している代表の人、年配だと思ったら国王らしいんだよ。

 王様が国を離れていいのかよ。

 自分の国は大丈夫か?

「特に問題はないようでございます。

 問題が起こるとすれば、むしろトルヌ(ここ)ではないかと」

 さいですか。

 確かにこの総会で何か重要な事が決まったりして、国の主権者が不在のためにそれに乗り遅れたりしたら致命的だからな。

 ここでやっているのはミルトバ場連盟の総会じゃないんだよ。

 列強との面会というか面接なのだ。

 それはみんな必死になるよなあ。

「お言葉でございますが」

 ユマさんの反対側に座っているオウルさんが声を掛けてきた。

列強(我々)より、やはり主上(マコトさん)なのではございませんか」

 まさか。

 国相手と違うでしょう。

「そうでございますね。

 国家相手ならば条約などで関係性が保護されるわけでございます。

 ですがヤジマ商会は民間団体ですから、そういった縛りはございません。

 極端に言えば、我が(あるじ)の一言で簡単にひっくり返る程度の強制力しかないかと」

 何てこった。

 それが本当だとしたら北方諸国が必死になるのも判るな。

 俺の気まぐれで国が傾いたりしたらたまったもんじゃない。

 俺、そんなことする気なんか全然ないんだよなあ。

 ていうか関心がない。

 みんな判ってくれないけど(泣)。

 でもそういうことなら俺も真面目にやらないと。

 せっかく演説してくれているんだし。

 そういうわけで俺は長々と続くどっかの国の代表のお話を聞いたのだった。

 正直、聞いた端から忘れたけど。

 やっと終わったと思ったら次の人が出てきてまた演説が始まった。

 今度は王太子らしい。

 と言っても中年だったけどね。

 軽小説(ラノベ)の場合、王太子とか皇太子って大抵は若いというか未成年だったりするんだけど、実際には結構歳を食っていることが多い。

 それは地球でも同じだ。

 例えば日本の皇太子殿下はもはや中年というよりは初老に近いからな。

 英国も同様で、なぜそうなるのかというと国王(トップ)がなかなか退位しないからだ。

 だから王子や王太子と言ってもとっくに結婚して子供が成人していたりする。

 その方が継承上は安全なんだよね。

 だって王太子が若かったり経験が少なかったりしたら、王様に万一のことがあった場合が大変だ。

 不慮の事故とかならしょうがないけど、王様が若くして退位してしまったら後を継いだ人も苦労するし、大体国が揺らいだりするかもしれない。

 実を言えばエラも帝国もそれで失敗していて、後継者が決まらないうちに王様や皇帝陛下が歳を重ねてしまったんだよなあ。

 まあ、帝国はちょっと制度が違うから除外するにしても、エラはまずいことになっている。

 だからルリシア殿下が急遽担ぎ出されたりしたと。

 話が逸れた。

 だって退屈なんだよ。

 舞台(違)では北方諸国の代表の人が次から次へと入れ替わりつつ演説していた。

 真面目な顔で聞いているんだけど、みんなとっくに興味を失っていたりして。

 オウルさんなんか露骨に意識を飛ばしている。

 いや表情は重々しいんだけど、視線が動かないから目を開けたまま寝ているんじゃないのか。

 軍人さんってベテランになるとそういう事が出来るようになるらしいし。

 ユマさんはきちんと聞いているみたいだけど、この人は複数思考が出来るからね。

 やっぱり裏側では寝ている臭い。

 例外はフレスカ皇女(さん)で、しきりにメモをとっていた。

 皇太子(オウルさん)の副官だからな。

 つまりフレスカさんがいるからオウルさんは意識を飛ばしていても大丈夫だと。

 そういう事なら俺にもユマさんがいるから寝ていていいのかも。

「構いませんが、せめて聞いているふりだけでもお願いします」

 ユマさんに囁かれてしまった。

 それもそうか。

 演説している人の注意がこっちを向いているんだよ。

 俺にそっぽを向かれたら、その国はヤバくなると解釈されるかもしれない。

 まあいい。

 俺はサラリーマンだから、つまらない会議で上司(偉い人)がつまらない話をするのを大人しく聞くのは基本技能(デフォルト)だ。

 それが出来ない(サラリーマン)はどっかに飛ばされるからな。

 聞いているふりをすればいいのだ。

 それから俺は延々と続く演説に耐えた。

 マジで果てしなく続く気がして、ついにトイレが我慢出来なくなって来た頃にようやく物言いが入った。

「ご静聴ありがとうございました。

 そして代表の方々、お疲れ様でございます。

 これより休憩に入ります」

 議長のような人が言って、会議場全体にため息のような音が漏れた。

 みんなうんざりしていたらしい。

 何にせよ助かった。

 トイレに行かないと。

「こちらでございます」

 ハマオルさんの案内で目立たない道を通って急ぐ。

 オウルさんたちも一緒だ。

 ていうかオウルさん、俺にぴったりくっついているんですが。

「万一の事がございます。

 今は従者ではなく先駆けと考えて下されば」

 さいですか。

 別にいいですけど。

 手早くトイレを済ませて戻ると、会議場は閑散としていた。

 みんなもトイレなのか。

「むしろお茶や軽食でございましょう。

 ここは冷えますからな」

 オウルさんが手をこすり合わせながら言った。

 そうなのか。

 俺はクッションとマントがあるから大丈夫だけど、ご高齢の国王陛下の人たちなんか辛いかもしれない。

「そういったご苦労も仕事でございます。

 お気になさらず」

 大変だな。

 俺たちの所にもお茶と軽食が回ってきたのでありがたく頂く。

 これもヤジマ商会のサービスらしい。

 何と言うかあざといね。

 北方諸国はもはや完全に制圧されているとみていい。

 体感時間で30分くらい過ぎた頃、舞台(違)にまた議長らしい人が出てきて声を張り上げた。

「皆様、ご静粛に!

 これより総会を再開致します!」

 やっとかよ!

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