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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第六章 俺が後見人?
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14.呼び出し?

 もちろん略術の戦将(ユマさん)は仕事に私情を持ち込むような人ではなかった。

 でも考えてみたらユマさんって既に俺の事を絶対者(アゾルト)だと宣言しているんだよね。

 自分は(しもべ)で。

 絶対者(アゾルト)は常に正しい、という方法論なんだけど、最初に思っていたのと違ってどうも盲目的に信じるというものではなさそうだった。

 それではただの思考力を失った奴隷になってしまう。

 そうじゃなくて絶対者(アゾルト)(しもべ)を自認する人は「自分で考えて主人の望みに添った行動をとる」らしいんだよ。

 ちょっと判りにくいんだけど、これはなかなか難しいスタンスだ。

 「そんなことはご主人のためになりません」というようなものじゃない。

 軽小説(ラノベ)とかに時々出てくる執事が「そのような事をなさってはなりません」と仕える人を諫める場面(シーン)があるけど、それとも違う。

 ある意味、自分勝手に動くんだよ。

 例えばハマオルさんも俺の事を絶対者(アゾルト)と呼んでいるけど、俺はハマオルさんに何か命令した事ってないからね。

 頼んだ事ならあるけど。

 それでもハマオルさんは俺の行動や思考すら先読みして状況を整えてくれる。

 そして俺が何をするにしても自分は口を出さない。

 自分()がやるべき事と口を出してはならない事をはっきり規定して、それを頑なに守っているみたいなんだよ。

 ユマさんの場合はもっと凄い。

 引き金(トリガー)を引くのは俺なんだけど、その後は全部ユマさんが考えて実行する。

 失敗するとか言っていたけど、それって多分上手くいかないというよりは俺の意志に添ってないという意味だろう。

 で、失敗(それ)を俺が知る前に修正する。

 俺の前に並ぶのは成功した結果だけだ。

 このパターンは俺も知っている。

 テレビの特撮物だ。

 悪の組織の首領って、基本的に自分では何もしないんだよね。

 幹部に命令するだけだ。

 あるいは幹部というか参謀が幼稚園バスを襲うとか貯水池に毒を入れるとかいう作戦を立てて上奏してくるので「良きに計らえ」と許可を出すとか。

 それを実行するのは幹部の命令を受けた怪人だったりして(笑)。

 それとそっくりなんだよ!

 もっとも俺は悪の首領よりもっと酷くて、そもそも何もしないし目的すらない。

 時々曖昧な事をぼそっと呟くだけだ。

 それを聞いた幹部(ユマさん)が「判りました」と言って大がかりな作戦を実行してしまったりして。

 考えてみたらユマさんだけじゃないんだよなあ。

 シルさんやジェイルくんたちも俺が何気なく漏らしたヒント? を自分なりに解釈して会舎を興したり事業を拡張したりして。

 それがまた大規模に成功するもんだから、いつの間にか俺が天才経営者みたいに思われているみたいなんだけど。

 実際には何もしてないのに!

「相変わらずでございますね。

 我が(あるじ)

 ユマさんも判ってくれない。

 この人の俺に対する過大評価は筋金入りだからな。

「そのようなことはございません、と申し上げても水掛論になるだけですので控えますが。

 話は違いますがエラ宮廷より呼び出しがかかっております」

 さいですか。

 何だろう。

 まあ、行って見れば判るか。

 ここで「呼び出し」というのは俺がエラでは何の身分も持ってないからだ。

 外国の貴族というだけなんだよな。

 もちろん皇子だの大公だのという最高位身分なので国賓待遇ではあるんだけど、基本的にはお客さんだ。

 後は国内に大規模な投資をしている実業家かな。

 でも繰り返すけど国民じゃない。

 好意で滞在させて貰っている外国人なんだよね。

 だから宮廷から呼ばれたら行くしかない。

 オウルさんたちは何か用があるというので、俺はユマさんだけを伴ってエラ王宮に出かけた。

 もちろんハマオルさんとラウネ嬢はセットでついてくるけど。

 二人とも身分はソラージュの近衛騎士と帝国騎士(ライヒスリッター)だから、多分謁見はともかくその後の私的会見には身分が低すぎて立ち会えない。

 ユマさんは俺の秘書という立場だから大丈夫だろうけど。

 エラ王宮までは例によってかなり大規模な野生動物護衛がついたので俺の登城は知れ渡ったはずだ。

 もっとも最近では皆さん慣れっこになってしまってあまり騒がれないんだよね。

 考えてみれば王都エリンサにもヤジマ商会は随分進出しているからな。

 国内企業だと思われているのかも。

 ソニーとかなんかアメリカ人の大半が自国企業だと思っているらしいし。

 エントランスに楽隊はいなかった。

 公式な呼び出しとはいえ、用件自体は非公式なのかもしれない。

 あるいは金がないとか(笑)。

 執事さんに案内されて城の廊下を進む。

 ソラージュと違ってエラ王室のご家族はこの城に住んでいると聞いている。

 人数が多すぎてここくらいしか収容能力がないのかも。

 大変だな。

 そんなことをぼんやり考えていたら、いつの間にかお城の奥深くに入り込んでいたようだ。

 廊下に一定間隔ごとに立っていた衛兵の姿がない。

 既にエラ王室の私的(プライベート)空間か。

「それでは我等はここで待機させて頂きます」

 ハマオルさんが礼をとった。

 ラウネ嬢も残る。

 護衛がいなくなったわけだが、実はちゃっかり犬と猫の人たちがついてくれていた。

 エラは法整備が遅れているのか、まだ人間以外の(どうぶつ)の法的制限がかかってないようなのだ。

 ソラージュなんかだと野生動物でも人間並に止められてしまうんだけどね。

 エラではペットのふりをしていれば検問なんかも通過出来てしまう。

 俺についてくれている野生動物(イヌネコ)の人たちは実は精鋭だ。

 身辺警護に特化した実力の持ち主なんだよ。

 まあ、そんなことはいい。

 ここまで来てエラ王室が俺たちに危害を加えるとも思えないしな。

 多分、そんなことをしたらエラは滅ぶ(笑)。

「こちらでございます」

 執事の人が案内してくれたのは住み心地が良さそうな一角だった。

 石造りの城なんだけど、内装に木材が多用されていて軟らかい印象(イメージ)がある。

 つまり、王家の居住区だ。

 マジで私的(プライベート)な会見らしい。

 確かに公式に謁見するんだったらそう言ってくるよな。

 俺の服装は上品ではあるけど儀礼服じゃないし。

 エラ国王が公的に謁見するんだったら俺もソラージュの儀礼服を着る必要がある。

 ユマさんが用意しなかったということはそうじゃないんだろう。

「では」

 案内の執事さんはここまでのようだった。

 自分の手でドアを開ける。

 書斎?

 奥の方に重厚な事務机があるし、部屋の中央にはソファーセットが並んでいる。

「良く来た」

 国王(ルミト)陛下が事務机の向こうで立ち上がった。

 驚いた事に本当に一人のようだった。

 護衛もいないのか。

貴君(マコト)相手にそんなものは無用だ。

 その気になれば私が何をしようが防げんだろう。

 まあ、掛けてくれ。

 ユマ殿も」

「お心のままに」

 国王陛下直々のご命令だ。

 よその国のだけど。

 従わないわけにはいくまい。

 俺たちが腰掛けると野生動物(イヌネコ)たちも目立たないように近くに座ったり寝そべったりした。

 ルミト陛下は気にもせずに俺の向かい側に座る。

 あの、お茶とかは?

「おお、忘れていた。

 飲みたいのならそこに用意してあるぞ」

 確かにワゴンがある。

「では私が」

 ユマさんが立ち上がった。

 メイドも出来るのか。

「そのくらいは出来ます」

 ユマさんが珍しく赤くなった。

 いや、頭脳労働専門なのかと。

 だってユマさんが食事作ったりしている所なんか想像も出来ないし。

「我が(あるじ)が私の事をどのように見ているのかやっと判りました」

 なぜか怒らせてしまった。

 慌てて宥めたけど、でも(ハスィー)とか略術の戦将(ユマさん)が家事をしている姿って想像も出来ないんだよなあ。

 普通、貴族令嬢はそんなことしないでしょう。

 二人とも趣味でお菓子を作ったりするタイプじゃないし。

「確かに私もハスィーも家庭的な技能には欠ける所がございますが、やる気になれば出来ます」

 ユマさんはむくれながらも見事な手つきでお茶を配膳してくれた。

 いや、こういうのに技能とかあるのかどうか知らないけど。

「ほう。

 美味い。

 ユマ殿が万能の天才という噂は本当だな」

 ルミト陛下もちょっかいかけないで下さい!

 まだプンプンしているユマさんが俺の隣に座ってお茶を飲む。

 さすがに優雅だけど、この状況って一体何なのでしょうか?

「言ってないのか?」

 ルミト陛下が驚いたような顔付きで聞いた。

 もちろんユマさんに向かって。

 てことは、やはりユマさんの仕込みか。

 いやエラ王室(ルミト陛下)との共謀という所だな。

「我が(あるじ)にはお判りになりませんでしたか。

 ちょっとがっかりでございます」

 ユマさん、まだ怒っているようだ。

 いや、これはアレだね。

 俺の察しが悪かったというよりは自分に関心を持ってくれなかったことに対する失望か。

「すみません」

「いえ。

 戯れ言でございます。

 ところで陛下?」

「すぐ来ると思う。

 準備に手間取っているだけなのなら良いのだが」

 一体何が始まるんだ?

 すると控えめなノックの音がした。

「陛下?

 よろしいでしょうか?」

 この声は多分ユリス王子(さん)か。

「良いぞ。

 マコト達ももう来ている」

「失礼します」

 ドアが開いて、思った通りユリス王子(さん)が踏み込んでくる。

 その後ろからおずおずと顔を覗かせたのは俺がよく知っている人物だった。

「ルリシア王女(さん)?」

 するとユリス王子(さん)が咳払いして言った。

「ルリシア王太女でございます。

 ヤジマ大公殿下」

 何それ?

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