表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五部 第六章 俺が後見人?
942/1008

9.貢献?

 肝心のルリシア王女(さん)はみんなに振り返られてもポカンとした表情だった。

 何も知らされてないらしい。

 完全な道具(コマ)状態。

 てことは、これってユマさんの独断じゃなくてむしろエラ王国主体の大がかりな仕掛けだな。

 思い出せ。

 ルリシア王女(さん)国王(ルミト)陛下に呼ばれて問いただされた。

 エラ王国のために役に立つ覚悟はあるかと。

 それは王族の義務だ。

 そんな当たり前の事を聞いたのはむしろ謎かけだったのかもしれない。

 間違いなく本人はもちろん誰も予想もしなかった事をさせるためだろう。

 そしてルリシア王女(さん)は承諾してしまった。

 いや、多分断っても結果は同じだっただろうけど(泣)。

 ていうか万一断っていたら廃嫡された可能性すらあるか。

 それを脅しネタにされて否応なく承諾させられるというのが定番(ストーリー)だろうな。

 つまり、ここで俺がルリシア王女(さん)を近衛騎士に叙任するのは既定路線てことね。

 ユマさんの大戦略に組み込まれている、というよりはユマさんが組み込んだんだろう。

 エラ王国の思惑にユマさんが乗った形で。

 しょうがない。

 そんな俺の思考を読んだのか、ユマさんが話し始めた。

 何となく芝居がかっているのはここにいる人達を証人にするためだね。

 いいですけどね。

 好きにして(泣)。

「ルリシア・エラ王女殿下は我が(あるじ)の北方諸国親善に付き添われ、各国の宮廷において我が(あるじ)は多大なる貢献を賜ったと伺っております」

 確かにそうとも言える。

 各国での晩餐会や舞踏会で令嬢(タマ)避けになってくれたからね。

 これはララエのアレサ公女(さん)も一緒で、お二人が俺のそばに侍ることでほぼ完璧に貴族令嬢やその親父の突進を(こば)むことが出来ていた。

 北方諸国とは桁違いの大国の王公族(貴顕)だからな。

 現地の貴族令嬢が敵うどころか前に立つことすら難しい高貴な存在だ。

 それがその国の王女だったとしても同じだろう。

 格が違う。

 でも、言って見ればそれだけだったりして。

「我が(あるじ)が北方親善から帰国後は、ルリシア殿下はヤジマ学園の王族(ロイヤル)コースの設立にご尽力下さり、コース発足後は自ら講師としてご参加下さいました。

 ルリシア殿下が主催される科目は非常に人気と聞いております」

 ロロニア嬢の仕掛けでうまうまと留学して遊んでいたんだろうな。

 担当科目って「野外生活サバイバル実習」だという話だし(笑)。

 確かにそんな面白そうな講義というか演習は人気だろう。

 そんな科目を人に教えることができるほどの技能(スキル)を持っている大国の王女というのも凄いけど(笑)。

 でも、言われてみれば確かにルリシア王女(さん)の貢献は結構でかいかもしれない。

 ヤジマ学園の設立当時から問題になっていたのは、学生と教師の身分をどうするかだった。

 軽小説(ラノベ)なんかではさらっと流されているけど、実際には講師より生徒の身分が高かったらまともな教育なんか出来ないんだよ。

 家庭教師ですらそうだ。

 貴族の子弟を平民出の教師が教える。

 生徒が「やだ」とか言ったらそれだけでもう駄目だ。

 だから家庭教師は教え子の(きぞく)の威を借りて生徒より上位に立つらしいと聞いている。

 貴族()に直接雇用されている家庭教師ならその方法でも何とかなるだろうけど。

 それって「学校」では不可能だからね。

 日本は一応身分がないことになっているからピンと来ないけど、インドなんかでは今でも身分(カースト)制度があって、上位身分(カースト)の人は何があろうと下位身分(カースト)の人には従わない。

 下手すると口もきかないし触った物には手も触れないと聞いている。

 こっちの世界での身分制度はそこまで酷くはないみたいだけど、それでも身分差はある意味絶対だ。

 特に学校なんかでは致命的だろう。

 貴族身分の生徒が平民の教師に従う?

 無理だ。

 学級崩壊なんていうレベルじゃなくなってしまう。

 だって生徒の方が偉いんだよ?

 会社で言うと平社員が部長に命令するようなものだ。

 仕事が出来るかどうかなんか問題じゃない。

 教師の方も大変だ。

 貴族の子弟を下手に叱ったりしたら不敬罪に問われてもおかしくない。

 そこまでいかなくても生徒の実家が何かしてくる可能性すらある。

 ヤジマ学園内では身分は停止されるという学則を作ったけど、学園の外に出たら関係ないからな。

 それだけでは不十分なのは明らかだった。

 もっともこの問題の解決策はある意味簡単だ。

 教師の身分の方が生徒より高ければいいのだ。

 本物の爵位持ちである必要もない。

 「学士」という称号はある意味爵位みたいなものだからね。

 ヤジマ学園が作った「学士」制度は半ばそのためのものですらある。

 教授になって貰った人には無条件で学士号を認定したし、すべての単位を終了して担当教授から合格を貰った人にも授与した。

 この「学士号」はソラージュの社会で既に認められている。

 一種の階級というか身分みたいなものになっているらしい。

 まあ、日本でも名刺に「博士」とか刷ってあったら敬意を持って遇されるからな。

 それと同じだ。

 だからヤジマ学園においては例え貴族家の子弟であっても、それは単に「貴族家の者」というだけで爵位持ちじゃないから「学士」である教師よりは身分が低くなるわけだ。

 それで大抵は何とかなったんだけど。

 問題は本物の爵位持ちの生徒がいる場合だ。

 「普通科」は王族や高位貴族専用のコースで、生徒は王子や王女、あるいは公侯爵家の公子や公女になる。

 公爵の子弟だったら准王族みたいなもんだからね。

 普通の貴族家の者と違って半ば正規の称号なんだよ。

 侯爵も似たようなものだ。

 そういう生徒たちを教える教師は学士とか近衛騎士なんかではとても御しきれない。

 では教師も王族だったら?

 そしてその王族が同僚の教師を対等に扱っていたら?

 ルリシア王女(さん)はまさしくその役目を立派に果たしてくれていたらしいのだ。

 ご本人は気づいていなかったみたいだけど、大国(エラ)の正当な王女が講師を務めるばかりか同僚の講師と対等に付き合う。

 それどころか教授連中に対してあからさまに(へりくだ)ってみせることで、称号持ちの学生たちも自然と教師を上位の者として接するようになる。

 しかもルリシア王女(さん)北方種(エルフ)だからね。

 俺の(ハスィー)には及ばないにしても、各国の王族の中では上層に位置する美形だ。

 さらにある意味天然な性格。

 うーん。

 改めて考えるとヤジマ学園はルリシア王女(さん)から多大な恩恵を受けているような気がしてきたぞ。

 少なくとも「普通科」はルリシア王女(さん)がいなければ発足がかなり遅れていたか、あるいは存在しなかった可能性すらある。

 出来たとしても最初から上手くいったかどうか。

「判りました。

 ルリシア王女殿下。

 貴方はソラージュ王国ヤジマ大公家近衛騎士の叙任を受けるお気持ちはございますか?」

 こういう言い方になるのはしょうがない。

 ここはエラ王国だしルリシア殿下はエラの王女だ。

 俺はエラでは何の身分もないからな。

 外国(ソラージュ)の大公というだけだ。

 ちなみに帝国皇子とかララエの名誉大公とか色々あるけど今は無視。

「あの……私にはよく」

 ルリシア王女(さん)は二つの干し草の山の真ん中に立った山羊のように固まっていた。

 状況判断は得意と聞いているけど、さすがにこの場面では呆然自失なんだろうな。

 それはそうだよ。

 いきなり外国の貴族になりたいかとか言われてもね。

 俺だって固まる。

「あまり深く考えなくてもいい。

 ルリは言われた通りにすれば」

 ロロニア嬢、それは駄目でしょう!

 これだけ証人がいる中でそれ言ったら、ルリシア王女(さん)が操り人形だというような印象を周りに与えてしまうぞ?

「でも……近衛騎士って何か凄い事をして認められた方が栄誉の印として贈られるご身分なのだと聞いています。

 私はそんな事はしていませんし」

 何と!

 純情過ぎるぞルリシア王女殿下(さん)

 ヤジマ商会の幹部連中なんか我先に飛びついてきたというのに。

 まあ、それだけの実績を上げた人たちばかりだったけど。

 でもフレスカさんも受けていたよね?

 アンタ、俺に何かしてくれましたっけ。

「それは今は考えない。

 ヤジマ大公家近衛騎士になれば、マコトさんの家臣……仲間になれる。

 ヤジマ商会でも出世出来るかも」

 ロロニア嬢の誘惑!

 丸聞こえですが(泣)。

 それでも「私なんかがそんな栄誉を頂いていいんでしょうか」と煮え切らない態度のルリシア王女(さん)

 ロロニア嬢の額に青筋が浮かびかけた時、略術の戦将(ユマさん)が動いた。

 すっとルリシア王女(さん)に寄り添ったかと思うと口唇を耳に寄せる。

 こっちは正真正銘の悪魔の囁きだった。

 ルリシア王女(さん)の白い頬がみるみるうちに紅潮したかと思うと、ユマさんの手を取って小さく叫ぶ。

「それは本当ですか!」

「はい。

 間違いございません」

「判りました!」

 ルリシア王女(さん)は俺に駆け寄って来ると息を弾ませて言った。

「マコトさん!

 私!

 ヤジマ大公家の近衛騎士になります!」

 ユマさん、何を言った?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ