15.謁見?
過去の再現のようだった。
エリンサ犬類連合に守られてエラ王城に向かう。
あの時はエラ王城守備隊がパニックになったような記憶があるけど、今回は大丈夫らしい。
ユマさんの仕込みだもんね。
いつの間にか周りの野生動物の人たちが整然と隊列を組んでいる。
あちこちに犬の人がいて統制をとっているようだ。
凄え。
エリンサ犬類連合ってあれから相当発展したみたいだね。
俺たちの軍団は真っ直ぐ王城に向かって進む。
いやー、これもうパレードじゃない?
街道には俺たち以外いなくなっているし。
それどころか気がつくと道の両側が群衆で埋め尽くされていたりして。
むしろ凱旋?
いよいよ城門が近づいてくると、全面にエラ王国守備隊というか近衛隊というか、とにかく制服を揃えた兵隊さんたちが並んでいるのが見えた。
もちろん城門は開け放たれている。
先頭の帝国軍騎馬隊が門に差し掛かると兵隊さんたちが一斉に剣を抜いた。
「捧げーっ、筒!」
やっぱ、どうしても「筒」と聞こえるんだよなあ。
剣なのに。
まあいいか。
帝国軍部隊が足並みを揃えて城門を通過する。
すると周囲の野生動物連中が左右に分かれた。
そのままエラの守備隊と向かい合うように整列していく。
護衛部隊だから城内には入らないらしい。
でも何か、前から練習していたみたいに見事な機動なんですが。
「これは素晴らしいですな」
オウルさんも感心していた。
「ユマさん、これって」
「先触れを出してライラ殿と連絡を取りました。
エリンサ犬類連合はもともとこういった行動が得意とのことですので」
雇ったと。
凄すぎる。
俺が野生動物を何とかしろ、と言った瞬間にここまで考えたんだろうな。
やっぱユマさんがいれば世界なんか手の内だ。
俺たちの馬車が城門をくぐる。
これで帝国皇太子が公式に入城したわけか。
目的は果たした。
俺、もう帰って良い?
「駄目でございます。
エラ国王陛下より謁見するようにと」
さいですか。
しょうがないな。
まあ、確かにソラージュの大公にされたことは一度会って報告しておいた方がいいかもしれない。
何せ前に会った時は俺、子爵だったし(泣)。
軽小説でもこんな大出世ってないぞ。
俺たちの馬車がエントランス前で停まると楽隊の演奏が始まった。
制服を着た人たちが走り出てきて絨毯が敷かれる。
さすが。
エラって歴史がある王国だから、こういう所はしっかりしているんだよね。
後ろの馬車や御者席から降りた帝国騎士の人たちが絨毯の周りに展開する。
それを確認してからオウルさんが悠々と馬車を降りた。
フレスカさんが続く。
俺?
皆さんが離れるまでここに隠れていようと。
「主殿」
「はい」
しょうがない。
馬車を降りるとオウルさんに続く。
オウルさんは俺がいるのを確認してから歩き始めた。
何で俺の前にいるんですか?
「主上の先駆けでございます」
一歩下がったフレスカさんが囁いてきた。
こんなところでまで止めて(泣)。
でもしょうがないのでそのまま歩く。
見覚えがある廊下とかを進み、立派な扉を開けるとそこは謁見室だった。
いや「室」というレベルじゃない。
大広間だ。
遙か向こうの玉座に着く国王陛下が小さく見えた。
一直線に空いている絨毯の両側は貴族で一杯だ。
エラってこういうの好きだよね。
まあいい。
今回の主役はオウルさんだから、俺は目立たないようにしていればいいのだ。
「ホルム帝国皇太子オウル殿下。
およびフレスカ皇女殿下。
ご入場でございます!」
誰かの声が響く。
俺はここで待っていればいいのかと思っていたら違った。
「ソラージュ王国ヤジマ大公殿下。
ご入場でございます!」
駄目か。
仕方なく歩を進める。
きついなあ。
ユマさんもハマオルさん、ラウネ嬢もいない。
身分がないと入れないというよりは、ここまで来た以上俺たちがルミト陛下の庇護下にあるが故に護衛は許されないのだ。
でもそんなのナンセンスだよね。
誰かが俺の腹にナイフでも突き込んだら終わりだし(泣)。
諦めの心境でいると、前を行くオウルさんの身体から何か凄いものが発散された。
威圧だ。
そういえばこの人、俺の「従者」なんだったっけ。
いやむしろ先駆けというか護衛なんだよね。
帝国皇太子自らに守って貰う王国大公ってどうよ?
オウルさんのカリスマの影響で若干後退するエラ貴族の人たちを尻目に俺たちは進み、玉座の前で片膝を突いた。
頭を下げているとルミト陛下の声が響いた。
「エラ王国国王ルミトである。
来訪を歓迎する。
オウル殿」
相変わらず型破りだな。
そこは美麗賛辞なのでは。
「ホルム帝国皇太子オウルでございます。
こちらは我が副官のフレスカ皇女。
帝国皇帝より親愛のご挨拶をお預かりしております」
「それは重畳」
この辺は儀礼なんだろうな。
「面を上げられよ」
「は」
オウルさんが立ち上がる気配がした。
俺はまだだよ。
そこら辺はユマさんに言い含められている。
面倒くさいがしょうがない。
「マコト。
久しいな」
いきなりですか!
しかも名前を呼び捨てだよ!
周囲の貴族の人たちがざわめくのを尻目にルミト陛下は平然と続ける。
「面を上げよ。
なかなかエラに来ないものだから顔を忘れかけていたぞ」
何ですかその日常会話的なお言葉は!
俺はゆっくり立ち上がって礼をとった。
「ソラージュ王国無地大公ヤジママコト。
ここに」
他にどう言えと?
「おお、確かにマコトだ。
エラは貴殿の帰還を歓迎する。
ゆっくりしていけ」
ちょっと!
オウルさんを放り出して俺なんかに構っていていいんですか?
国際的な問題になりますよ?
でもオウルさんはむしろ嬉しそうだった。
もういや。
気を取り直して玉座のルミト陛下と相対する。
あいかわらずの超イケメンだ。
というよりは美人。
嫁みたいに人間を超越した美貌じゃないんだけど、少女漫画の王子様程度には輝く美貌だ。
しかも外見が若い。
これでカールさんとそんなにかわらない年齢ってのが凄い。
北方種ってマジ卑怯だよね。
「どうしたマコト」
「いえ。
ルミト陛下もご機嫌麗しく」
「おかしな事を言うな。
私と貴殿の仲ではないか。
ヤジマ大公」
そうきましたか。
そういえば俺、ルミト陛下とあまりかわらないくらいの身分になっているんだっけ。
でもそれはララエの名誉大公になった時からだから、あまり関係ないかも。
とにかくこの陛下にはおちょくられ通しだから、あまりカカワリアイになりたくないんだよね。
さてどうやって逃げるか。
そう思っていたらオウルさんが言った。
「陛下と主上はそのような仲なのでございますか。
私もあやかりたいものです」
「そうか。
ならば時間を取ろう」
な、なんだってーっ!
国王陛下はその場で予定を変更したらしい。
後ろにいた書記とか執事みたいな人達が一斉に肩を落とした。
多分、慣れっこなんだろうな。
慣れていてもガックリくることには違いがない。
ご愁傷様です。
謁見を終えたオウルさん、フレスカさんと俺はまた延々と絨毯の上を引き返して大広間を出た。
そこに控えていたハマオルさんたちと合流する。
既に執事の人とユマさんが話していた。
「ルミト陛下が私的でお話しされるということでございます」
さいですか。
拒否権はないよね。
「ユマさんたちはどうするんですか?」
「控えの間まではご一緒できるそうです」
なら安心か。
ハマオルさんと一緒にいた帝国騎士の人たちもほっとしたようだった。
ラウネ嬢と何か相談している。
そういえば同僚だよね?
「お役目が違います。
私はヤジマ皇子殿下の随伴騎士としてここにおりますが、これらは護衛です」
数人の帝国騎士の人たちが一斉に俺に頭を下げた。
全員が壮年の男で、いかにも強そうだ。
これが本当の帝国騎士か!
「この者どもと私がいる限り、どのような窮地に陥ろうが心配には及びません」
オウルさんが真面目に言った。
「主上の安全は命に換えようとも我等がお守りします」
いや、帝国皇太子が命を換えちゃ駄目でしょう!




