7.魔素?
キター!(古いって)
魔素だよ!
あれだね。もうオ○ラ力そのものだね。
「魔素ですか」
「もちろん今君が言ったMAesooというようなものではない。
君が、私の持っている概念である魔素を『魔素』という言葉で表す概念で認識した、ということだ」
それから、マルトさんは感心したように続けた。
「というより君は魔素という概念を現すものを知っているのか。
魔素が存在していればそもそもさっきの質問など出てこないはずだから、魔素などない世界から来たと思ったのだが」
あー、それは俺が小説やアニメを結構読んだり見たりしているからです。
これは日本人の特性かもしれないな。
俺よりもっと上の世代でも、アニメやゲームで魔法の概念を知っている人は当たり前にいる。
多分日本人だったら魔法とか魔素とか、そういう概念を理解するのは難しくないと思う。
俺の上司みたいなガチガチのリアリストは駄目だろうが。
アニメなんか子供が見るもんだとか言っていたし。
しかし、こんなことでマルトさんに怪しまれても困る。
少し明かしておくか。
「魔素とか、そういうものは存在しませんが仮定的に想定されているんですよ。
俺の世界……というよりは国では」
嘘は言えない。
日本人は変態だからな。
もっとも欧米でも魔法使いとか魔女とかのお話は当たり前にあるし、こういう童話的な概念の理解は別に日本人だけというわけではないと思う。
でも魔素とかそういうアレな方向性は日本の、それも少年向小説だけのような気がする。
最近は外国のオタクにも広まっているらしいが。
萌えやカワイイと一緒に。
しかしめんどくさい言い方になってしまったが、果たして俺の言葉はどんな風に伝わっているんだろう。
マルトさんの言い方だと、俺が何を言っても『俺が考えている意味』が伝わるみたいだし。
魔素とか言われても、俺自身そんなのはっきりとした認識があるわけではないからな。
魔法に至っては「万能の力」とかになりかねない。
「ほお。
ヤジママコトは、そういった方面の研究者か何かかね?
見たところまだ若いようだが」
やはり誤解されているっぽい。
「いえいえ、私は単なるソフト技術者です。
仕様書に従ってコーディングするだけで。
あ、あとテストとかインストールとかセッティングとかもやりますが」
いかんいかん。
何を言っているんだ。
そんなIT系の専門用語を使っても、どうしようもないだろうが。
それにしても、今の台詞はマルトさんにどう聞こえたのか。
恐る恐る伺うと、マルトさんの顔色が少し変わっていた。
何か、ヤバいことを言った?
「……よく判らないが。
ヤジママコト、君がそういう方面の専門家であることは判った」
うーん、やっぱり何か誤解があるな。
だがどういう風に誤解されているのかよく判らん。
魔素とかの専門家っぽく思われていたりして。
「釈迦に説法かもしれんが、話を戻すとこちらの世界では意志の伝達は必ずしも言葉に頼っていない。
だが、言葉が必要ないわけではない」
マルトさんは説明を続けてくれるようだった。
最初に「俺の世界には魔素なんてもんはない」と言ったことを覚えていてくれたらしい。
やっぱこの人頭がキレるわ。
それにしても「釈迦に説法」か。
そんなようなことわざが、こっちにもあるんだろうな。
とりあえず相づちを打っておく。
「音に乗せて意志が伝わるということでしょうか」
「その通りだ。
だが有史以前には魔素がなかったか、あるいは意志伝達機能が働いていなかったとされている。
でなければ言葉などというものが発達するはずがないからな。
だがいつの頃からか、何を言っても思ったことが相手に伝わるようになっていた」
「……」
「それはつまり、別の言葉を使っている人とも意志が通じ合うようになったということだ。
また言葉を発することができない赤子や幼児でも、声さえ出せれば自分の意志を相手に伝えることが可能になった」
おお、テレパシーの世界だ。
だけどそんなに便利になったら、言葉なんか廃れてしまいそうなものだけど。
「凄いじゃないですか。
でも言葉は残っている?」
「魔素による意志の伝達には、いくつかの制限があるんだ。
うまいことにと言っていいのかどうか判らないが、研究によれば声が届いたからといって、意志が伝わるとは限らない。
つまり、距離制限がある」
へー。
それはまた、便利なような不便なような。
「しかも話す内容に整合性がないと、意志がうまく伝わらない。
理論的には出鱈目な発音でも、意志がはっきりしていれば伝わるはずなのだが、会話がきちんとしていないと訳がわからない話に聞こえる」
ますます便利だ。
というか、まるで話し言葉を廃れさせないための設定のようだ。
やはり設定か。
「つまりある程度離れたら言葉でないと意志が伝わらないし、そもそもきちんと話さないと会話にならないと」
「そうだ。
ちなみに今我々が話しているように、お互いに自分の話し言葉がしっかりしていれば、意志は伝わる。
お互いに違う言語を話していても、そうなる」
これって、やっぱり魔法だよね?
「それで話し言葉は廃れなかったと」
「話すだけでなく書いたり読んだりする方もだ。
とはいっても実は文盲の者は少なくない。
なまじ意志が伝わるもので、肉体労働者は生活する上で文字の読み書きが必要なくなってしまっているからな」
ああ、そういえば地球でも、産業革命以前の時代は庶民のほとんどが文盲だったと聞いたことがある。
話し言葉が判れば、仕事や生活するのに文字を知っている必要がないからだ。
ましてこっちの世界では言葉を知らなくても会話できるわけだからね。
ますます文盲率が上がりそうだ。
だがちょっと待てよ。
話し言葉があれば、種類は何でもいいということか?
いや言葉になってなくても、例えば鳴き声とかでも大丈夫なのでは。
「だったら、ひょっとしたら動物とも会話できるんですか」
「出来る。
とはいえ、ごく一部とだがね。
大抵の野生動物はカタコトになる。
会話というほどのものではないな。
だが意志というか感情に乗せた断片は伝わってくる。
ある意味、人間より分かり易い」
うわー!
それって最悪かもしれない。
家畜の感情が判ったら、屠殺とかできなくなりそうだ。
それとも慣れるのだろうか。
マルトさんは俺が顔をしかめたのを見たのか、苦笑して言った。
「良いものではないな、確かに。
だから我々はめったに野生動物を害さない。
ドラゴン殺しなどは、ほとんど禁忌に近い」
は?