表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第五章 俺はギルドの臨時職員?
80/1008

10.就任?

 次席の机についてぼやっとしていると、だんだん人が増えてきた。

 アレナさんやマレさん以外にも、ギルドの制服を着た知らない人が結構いる。

 揃いも揃って、何か演劇の衣装みたいな飾りの付いた制服を着ているのが痛い。

 嫌な予感がする。

 ホトウさんたち『ハヤブサ』のメンバーや、ジェイルくんにソラルちゃんまで現れて、部屋が混んできた。

 いつの間にか隅の方に、教団のマント集団も見える。

 それから、騎士団と警備隊の制服が何人か。

 ヤバい。

「そろそろ集まったと思いますので、ホールの方に移動してください」

 アレナさんの声がして、みんなはゾロゾロと移動し始めた。

「マコトさん、行きましょう」

 マレさんが誘ってくる。

 俺はフラフラと立ち上がり、ゾンビのように従った。

 何も考えられない。

 こんなことになるとは、思っても見なかったなあ。

 俺って、どうなるの?

 どうにもならんか。

 階段を降りて、建物の奥の方に進むと、不意に広い場所に出た。

 広いだけじゃなくて、天井も高い。

 学校の体育館の半分くらいの広さはあるだろうか。

 体育館と違って、壁や天井は飾り模様付きの重厚な石材だ。市民会館なんかにある、大型のホールを豪華にしたような部屋だった。

 奥の方にひな壇があって、俺はマレさんにそっちに連れて行かれた。

 ハスィー様と、ギルド支部長のレトさんを含む数人が並んでいる。

 マルトさんの姿もある。

 おいおい、本当にどうなるんだよ?

 列の端に並ばされて、みんなの方を向くと、それぞれの集団ごとに固まった人たちが、不揃いながら整列していた。

 『栄冠の空』や僧正様を初めとする教団の人たち、騎士団と警備隊、そして十人程度のギルドの制服を着た集団。

 参った。

 で、俺は何とか挨拶を済ませた後、ギルド支部長から小型の楯のようなものを貰った。

 これは、ギルドの上級職に就いた証らしい。

 普通は、自分の職務机の上に飾るそうだ。

 それだけだった。

 後は、ハスィー様がプロジェクトチームの発足を宣言し、すぐに解散。

 ギルドのお偉方による演説などはなかった。

 助かったぜ。

 這々の体でプロジェクトの部屋に戻ってくると、アレナさんがお茶を入れてくれた。

 次席の席から部屋を見回す。

 今日は『栄冠の空』はいない。あれからすぐに帰ったらしい。まあ、冒険者のチームは非常勤らしいからね。

 騎士団と警備隊の人が一人ずつ、ハスィー様の近くの席で話している。

 教団の人はいなかった。

 それ以外は、全員ギルドメンバーだ。

 アレナさんとマレさん以外にも、十人以上いるようだ。

 大規模になってきたなあ。

「マコトさん、お疲れ様でした」

 ハスィー様が声をかけてくれた。

 隣に座っているんだけどね。

 いや、本当に疲れました。

 精神的に。

「驚きました。あれはプロジェクトの発足式だったんですか?」

「それと、マコトさんの就任式です。ギルドの上級職に昇格した時は、あのようにお披露目をするんですよ」

 心臓に悪い話だ。

「私は臨時職だと聞きましたが」

「臨時職でも、上級職は上級職です。それに伴う格式が必要とされます。そして」

 ハスィー様は、ちょっと声を潜めた。

「フィーのような態度を取る者が、また出ないとも限りませんから。

 最初にマコトさんの立場をギルド全体にはっきりと示しておく必要がありました」

 ああ、あれね。

 あれは俺の立場云々というよりは、フィーとかいう男の嫉妬が原因という気がするが。

「マコトさんは、今日からギルドの上級職員です。その立場に伴う権利を行使できます。

 でも、決してマコトさんを拘束するものではありません。

 もし不都合がありましたら、おっしゃってください。こちらで対策を考えます」

 ハスィー様、というよりはギルドの執行委員にここまで言わせるなんて、俺って何者だ?

 日本の会社で言ったら、出入りの業者のバイトがいきなり本社の次長か何かに任命されて、しかも取締役から色々便宜を図られているようなもんだぞ。

 俺は何をすればいいのか。

 あ、ハスィー様の相談役か。

 それだけで済めばいいけど。

 ハスィー様が立ち上がって、パンパンと手を叩いた。

「少しお時間を頂きます。注目してください」

 部屋中の雑談や騒音がピタッと止んで、全員がハスィー様を注視する。

「先ほどの式典でご存じでしょうが、新しくプロジェクトの次席に就任されたヤジママコトさんです。

 ヤジママコトさんは、このプロジェクトの要です。プロジェクトの遂行に、大いに助力してくれるはずです。

 では、マコトさん」

 いきなり振られた!

 仕方なく立ち上がり、ボソボソと言う。

「ヤジママコトです。ヤジマは家名ですので、マコトと呼んで下さい。

 若輩者ですが、ギルドとプロジェクトのために精一杯頑張らせていただきます」

 俺の会社で、研修を終えて職場に配属された時の挨拶が出た。

 あの時は、夜中に鏡に向かって何度も練習したからなあ。

 今よりひどいコミュ障だったし、ほとんど丸暗記したものだ。

 それがとっさに出て来たらしい。

 大したもんだぞ、俺。

 と、誰かが拍手したかと思うと、全員が手を叩いてくれた。

 まあ、群集心理だよね。

「ありがとうございました。それでは、仕事にお戻り下さい」

 ハスィー様が締めて、部屋は元の状態に戻った。

「お見事でした」

 ハスィー様が囁いてくれたが、俺はもうグロッキーである。

 帰りたい。

 でももう、俺の帰る場所は、(マルト商会には)ないのだ……。

 ア○ロかよ(違)。

「これで、マコトさんは名実ともにギルドのプロジェクト次席です。その件で、申し訳ありませんが、注意しておくことがあります」

 ハスィー様、俺はもう瀕死です。

 死亡フラグは勘弁して下さい。

「これから、機会を捉えてマコトさんに接近してくる人が増えるかと思います。

 お会いするか、お話しを聞くかどうかはマコトさんの自由ですが、言葉尻を捉えて権利を主張する方もいます。

 強引に接近してくるようでしたら、無視するか、適当にいなすかして下さい。

 権威ある人の名前を使ってくるような場合は、わたくしに相談していただければ、しかるべく処理します」

 美女が凄むと凄い。

 怖いよ!

 やっぱ、ハスィー様はただのお嬢様じゃなかった。

 絶対の忠誠を誓いますので、俺の敵にだけは回らないで下さい。

「ヤジマさん、少しよろしいでしょうか」

 ぼうっとしていると、アレナさんが改まった声をかけてきた。

 マコトって呼んでくれないのね。

「あ、はい」

「ギルド職員用の宿舎ですが、ご使用されますか? すぐにでもお使いいただけますが」

 あ、そうか。

 もう俺って、マルト商会に所属? しているわけじゃないから、いつまでもあの寮に居座るわけにもいかないんだ。

 別に出て行けと言われたわけじゃないけど、ここはギルドの宿舎に入るべきだろう。

 ていうか、そんな権利があるの?

「ギルドの上級職は、専用宿舎の使用権があります。もちろん、使わなくても問題ありませんが、大抵の方はご使用になりますね。

 最上級職の方は、また別ですが」

 そういえばハスィー様は、自分(というよりはアレスト家)の家に住んでいたな。

 他の人たち、例えばマルトさんなんかも同じだろう。もっともマルトさんは評議員で、ギルドの常勤じゃないみたいだけど。

 つまり、普通はそれが出来るだけの財産とか立場があるわけだ。

 で、ギルドの叩き上げや、俺みたいにぽっと出が昇進して上級職になった場合は、格式を保つために宿舎が貸与されると。

 上級職国家公務員みたいなものかな。

 まあどうでもいい。

 どうせ、俺には他に行くところはないのだ(泣)。

「使いたいと思います」

「それでは、これから案内させていただいてよろしいでしょうか」

「お願いします」

 えらく他人行儀になったけど、しょうがないか。

 ホトウさんたちはどうなのだろう。

 敬語なんか使われたりしたら、やだなあ。

 でも人前ではそうしないとならないのは判る。

 仕方がない。

 アレナさんは、ハスィー様にちょっと報告してから、俺を連れてプロジェクトの部屋を出た。

 「あの丘の向こう」か。

 奇々怪々な場所だったりして。

 ギルドの廊下を歩いていると、なぜかギルドの職員の制服を着た人たちが俺たちを避けていくのに気がついた。

 一般の人たちは、そういうわけでもないのだが。

「マコトさんが、上級職用の制服を着ているからですよ」

 アレナさんがちらっと言ってくれた。

 しまった!

 儀礼用制服を着たままだった!

 しかしどうしようもない。

 まだ、俺はこの制服しか持っていないのだ。

 ここに来るときに着ていた冒険者用の作業服を着てギルド上級者用宿舎に行くわけにもいかんしな。

「すみません。出来るだけ早く、通常制服をご用意します」

 ありがとうございます、アレナさん。

 マコトって呼んでくれて、ありがたいです。

 これからもそれでお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ