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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第四章 俺は派遣の冒険者?
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15.ギルド支部長?

 ハスィー様が落ち着かれた頃を見計らって、一応謝りに行った。

「騒ぎを起こしてすみませんでした」

「先ほども言いましたが、あれはこちらのミスです。マコトさんは、お気になさらないで下さい。

 それより、突然ですがこれから何か予定がおありですか?」

 嫌な予感がする。

 でもサラリーマンは、自分の感情では動けないからなあ。

「今日は大丈夫です」

「それでは、お手数ですがこれから少し付き合っていただけますでしょうか」

 男女交際の話じゃないのはもちろんだろうな。

 今度は何だ?

 でも業務命令とあれば理由はいらない。

 俺、社畜だから(泣)。

「喜んで」

 そういうわけで、俺はハスィー様に連れられてギルド内を進んでいる。

 もっとも、何キロも歩くほどではなかった。

 階段を上り、角を曲がって、廊下や調度品に重厚さが増してきたなと思った頃、ハスィー様はとあるドアをノックした。

「ハスィーです」

「どうぞ」

 低くて渋い声が聞こえた。ハスィー様は静かにドアを開けて入り、俺を招き入れてからドアを閉める。

 ギルドの執行委員がこれほど丁寧に対処するということは、この部屋の主はもっと偉いとみた。

 部屋の奥のデスクに誰かがついているが、逆光でよく見えない。

 俺は緊張しながら進み出て、頭を下げた。

「ヤジママコトです。ヤジマは家名ですので、マコトと呼んで下さい」

 この挨拶、もう条件反射になってしまっているな。

 頭を下げたままでいると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。

 ずいぶん可愛い声だ。

 ひょっとしたら、ギルド支部長ってロリババアか?

「マコトくん。頭を上げたまえ」

 さっきの重厚な声と口調だった。

 こういうの、大企業の経営者に多いな。

 命令と決断に慣れている人だ。

 判った。ギルドマスターとかいう人種に違いない。

 俺は覚悟を決めて、頭を上げた。

 正面のデスクには、想像した通りの偉丈夫がついていた。

 うちの社長、完全に負けているな。おそらく東証一部上場企業のトップか、アメリカの国際企業の重役レベルだ。

 ちなみに、アメリカの大企業の経営者って、必ずしもこういった威厳があるタイプだとは限らない。

 学生時代や20代前半でベンチャー企業を立ち上げて、十年くらいでエンタープライズ級に駆け上がってしまうこともあるので、下手すると30代だったりすることもある。

 一度、うちの会社にそういったIT企業のトップが視察に来たことがあるけど、見たところは若いアーティストみたいだった。

 ああいう人たちって、企業経営しながら実際にバンド組んでいたりするからなあ。

 天才ってホントにいるんだよ。

 それはいい。

 俺には関係ない話だ。

 それより、さっきの可愛い声は誰だ?

 すぐに判った。

 目の前のソファーに座っていたのだ。

 トカゲが。

 いやスウォークの人だったっけ。

「またお会いしましたね」

 アニメ声が言った。

「え、あ、ではあの時の」

「はい。『あの丘の向こうへ』、良い言葉でした」

 間違いない。

 あの店で会った、いやお会いした僧正様だ!

 今日はお付きの人はいないらしい。いつも囲まれて動いているかと思ったけど、割合自由なのかも。

 でも、こんな姿の人がフラフラ歩いていたら、物凄く目立つだろうな。

 まあ、マントを被れば子供に見えないこともないか。

 いや、そんなことより挨拶だ。

 社会人、じゃなくてサラリーマンとしての基本だぞ。

「その節は、ありがとうございました」

「いえいえ。あの出会いは、まことに運命というものでございました」

 お互いに芝居がかっているけど、向こうはアニメ声だからなあ。

 何か失敗した萌えアニメを見ている気になりそうだ。

 えへん、とハスィー様が咳をした。

 そうだった!

 この部屋の主は僧正様じゃないだろう!

「す、すみません。思いがけず僧正様にお会いできて」

「かまわんよ。そもそも、お引き合わせするために君を呼んだこともある」

 そうなのか。

 いや、「も」と言った?

「なるほど鋭いな。マコト、君の噂は最近あちこちから聞こえてくるんだが、人心掌握の天才だという話は本当だったらしい」

 男は、ゆったりと腕を組んでデスクに身を乗り出していた。

 かなわないな。

 これは大物だ。

 って、そうじゃなくて何?、その評価!

 間違いなく、誤解ですって!

「ああ、すまなかったな。私はギルドのアレスト市支部長を任されているレト・ライルというものだ。

 噂のヤジママコトくんに、一度会っておきたくてね。ハスィーくんやマルトから色々聞いてはいるのだが、ますます興味が湧いてくるだけだった」

 レト支部長か。

 派遣先のトップというわけだな。

 支部長とはいえ、おそらくアレスト市におけるギルドのほぼ全権を握っているはずだ。

 こういう地方都市の場合、あまり中央の干渉を受けないで独自にやっている場合がほとんどだろうからな。海外支社のようなもので、まずは独立国だと思っていいだろう。

 つまり、やっぱり俺とはまったく関係がない雲の上の人というわけだ。

 変な誤解をされているみたいだけど、ここで何か言っても解消されない。言うだけ無駄だ。

 とりあえず、この場を切り抜けることが最優先だな。

「私自身は、あまり面白い身の上ではないのですが。何かお聞きになりたいことがありますでしょうか」

 もちろん、ノーガードでは駄目だ。ある程度の防御はしておく。黙っていると益々変な方向に行きそうだから。

「いや、特にないよ。私の目的は果たせた。後は、僧正様のご希望だな」

 レト支部長自身は、それほど俺に興味を持っていないということか。

 そうすると、問題は僧正様の方だが、未だに俺と何の関係があるのかが判らん。

「私の方も、本日はご挨拶だけです。詳しいお話は、そのうちに」

 アニメ声で僧正様が言った。

 なんか凄いんだけど、この声と僧正様の顔? がマッチしつつある気がする。

 不自然さがなくなってきたというべきか。

 人間の適応力って凄いなあ。

 モンスターがヒロインという話は、ラノベにないわけではないけど、モロにトカゲというのは珍しいと思うぞ。

 ていうか、そんなの皆無だろ。

 まあ、これはラノベじゃないからどうでもいいんだけど。

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