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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第一章 俺は不法入国の外国人?
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4.ギルド?

 ギルドって言ったよ!

 本当にギルドってあるんだ。

 もちろん冒険者のじゃなくて商業ギルドくさいけど。

 それにしてもギルドか。

 あれっててっきり日本の異世界小説の中だけの話だと思っていた。

 だってギルドだよ!

 笑っちゃうだろう。

 それもあるけど、ツッコミどころ満載の返事だった。

 中央市って何なんだよ!

 今時ゲームでもそんなの出てこないぞ。

 そういうゲームなんじゃないだろうな。

 固有名詞がないとか?

 だったらどうして日本語が通じるんだろう。

 ていうか、日本語だよな?

 内容はともかく、さっきから会話としては成立しているし。

 聞いてみるか。

「中央市ですか」

「いや、本当は▲○●▽だけどね。

 このあたりには他にろくな街がないから、どうしても中央◇◇的な意味になっちまう」

 わからん。

 何を言いたいんだろう。

 本当の名前があるんなら、そう言えばいいだけ……いや、ひょっとして▲○●▽という言葉が俺に通じない?

 いやいや、待てって。

 ちょっと考えたいから、ここで話を打ち切ろう。

「そうですか。

 なるほど」

 そう言って、何か考え込んだふりをしていると、ガキ……いや少年も察したらしく黙り込んだ。

 年寄りはうつらうつらしているし、若い男も会話が終わったとみたのか力を抜いたようだ。

 ほっとして考える。

 ひょっとしたら、俺は何か大きな勘違いをしているのではないか。

 日本語が通じると思っていた。だが、さっきの会話を思い出してみたら、俺はもちろん日本語を話していたんだけど、相手が何語なのかよく判らないことに今更ながら気づいたのだ。

 会話というものは、お互いに言いたいことを相手に伝えるための手段だ。

 当然、相手に理解できる言葉を話さなければならない。

 普通は。

 だが会話って別に言葉に頼らなくても出来なくはない。

 ボディランゲージとか、手話とか、とにかく相手にこっちの意志が伝われば会話は成立するのだ。

 信じられないけど、今俺がやったのはそういうことなんじゃないのか。

 日本語ではない言葉を聞いて、それが理解できた。その言葉を知らなくても、そこに込められた意志というか内容を理解できたからだ。

 だから、固有名詞である街の名前は意味不明な発音に聞こえたのではないか。

 あるいはさっきの『中央市』みたいに、その街の概念的な名称として聞こえた、というよりは俺に理解できたということか。

 もうSFじゃなくてラノベ、いやアニメだな。

 確か○ーラ力とかで、そんな現象が起きていたような。

 いやいやいや!

 あれは作り事だろう!

 そんなに都合がいい力があってたまるか!

 ちょっとした丘を越えると、いきなり視界が開けた。

 といってもまだ山の中なのだが、今いるところは丘になっていて、下った先にかなり大きな街があるのだ。

 その先は地平線まで平野が広がっているようだった。

 荷馬車はてくてくと道を進んでいく。

 言い忘れていたけど、乗り心地はかなり悪い。

 荷馬車というイメージそのままだ。

 クッションなんかゼロ。

 会話するのも舌を噛まないようにするのがやっとだ。

 だが俺はそれどころではなかった。

 なぜ言葉が通じるのか。

 いや意志が通じるというべきか。

 言語に頼らない会話が成立しているとしたら、ひょっとして嘘がつけないんじゃないのか。

 考えたことがストレートに伝わってしまうとしたら。

 もちろん思考自体を嘘で固めれば人を騙せないこともないだろう。

 確か昔読んだSFにそういうのがあった。

 テレパシー能力者を誤魔化すのに、催眠術か何かで自分の思考を全然別のものにしてしまうとか、そういう方法だ。

 だが俺にそんなこと出来るはずもないし、出来たとしても意味があるかどうか判らない。

 大体、俺に隠す必要がある事実ってあるかどうか。

 まあ異世界から来ました、というのは結構リスクがある気はする。

 それってこいつは後腐れなしに料理してもいいってことだもんね。

 例えばここで俺が奴隷にされたりしても、文句を言う奴は俺以外にはいない。

 異世界小説ではそういう話が結構あるし。

 いや地球だって、近代以前は似たようなものだったはずだ。

 そもそもここが法治国家かどうかも判らない。

 法律なんかないのかもしれない。

 今まで会った人たちは、みんな理性的というかいきなり人を襲うようなタイプではなさそうだけど、俺にバックボーンがまったくないと判ればどうなるのか見当もつかない。

 しかも、俺には嘘がつけないのだ。

 いや待て。

 俺に嘘がつけないということは、逆に言えば相手も本当のことを言うしかないということだ。

 ギルドのこととか、結構有益な情報をポロッと漏らしていたのはそういうわけか。

 つまり聞けば何でも話してくれるということになる。

 だって隠せないんだから。

 もちろんこっちの情報もただ漏れになるわけだが、もうこうなったら仕方がない。

 嘆いていても始まらない。

 とりあえずサバイバルを優先しよう。

 駄目だったらまた何か考えるとして。

 そう考えている内に荷馬車隊は丘を降りて街に入ったようだった。

 異世界ものによくあるようなヨーロッパの中世風の街を囲む壁とか、検問所とかは見当たらない。

 街の周りは畑らしくて、色々な人が働いているのが見えた。

 人だよね?

 あのガタイが凄い人はドワーフとかじゃないし、あの細っこい人はエルフとかじゃないよね?

 とりあえず顔が犬とかトカゲとかの人はいなさそうだし、シッポや猫耳が生えている人もいなかった。

 だが目に見える範囲にいないからといって、存在しないとは限らない。

 異世界小説(ラノベ)だと、そういう人はギルドの受付とか宿屋の看板娘として出てくることが多いし。

 そうこうしている間にも荷馬車隊は大きな通りに入っていく。

 と思ったら、すぐに折れて街の端の方に向かっているようだ。

 そっちが商業地域なのだろう。

 考えてみれば荷物の輸送でいきなり街の中心に乗り入れる意味はない。

 どこか荷下ろしできる場所があるのだろう。

 そういえばあの親切? な人は街まで乗っていけと言ってくれたが、どこまで俺を連れて行くつもりなのか。

 この辺りで下ろして貰っても「街まで」送ったことにはなるだろうし。

 何か思惑があるんだろうか。

 まあ、こっちもこんな所で放り出されてもどうしようもないからいいけど。

 通りを歩いている人を眺めていると、意外にも違和感がない。

 つまり日本の現代人である俺の目で見ても、奇抜な恰好をしている人はほとんどいない。

 ある意味定番な鎧甲の人とか、でかい剣を背負っている人なんかは皆無だ。

 大半の人が荷物を担いでいたり、リヤカーみたいなものを引いたり押したりしていて、服装も作業着のような地味なものだった。

 いや、制服じゃないよ?

 それぞれ個性的ではあるものの労働に特化した服装であって、日本にも普通にいそうな恰好というだけだ。

 もっとも裁縫技術はやはり現代日本というか地球に比べたら遅れているみたいで、きちんと整った服はあまりない。

 それに見たところ動力車両のたぐいがまったくなかった。

 馬車か人力だ。

 馬は俺がテレビなんかで見たことがある馬と同じだった。

 人間も一緒で、あの凄いガタイの人とかでもプロレスラーならありそうだし。

 だが文明の発達度は現代よりかなり遅れているようだ。

 明治維新前の日本といったところだろうか。

 いやむしろ江戸時代?

 通りの両側に並んでいる店らしい建物が、大抵木造であることもアジアに似ている。

 ヨーロッパなんかだと、こういう場合は石造りの建物が並ぶんじゃなかったっけ?

 ちなみに俺が読んだり見たりしたラノベやアニメではほとんどが石の建物だった気がする。

 キャラも西洋人だったしな。

 金髪碧眼のお姫様を出すのに東洋風の舞台では違和感があるからかもしれないが。

 携帯どころか自動車や汽車がまったく見当たらないということは、つまり産業革命が起こっていないということになる。

 まだ電力やガソリンエンジン、いや蒸気機関すら発明されていないのだろう。

 当然ながら動力はすべて動物や人間なので、恐ろしく効率が悪い。

 機械化農場とか工場は存在しないとみていい。

 奴隷制度を導入すればプランテーションみたいな農業は出来るかもしれないが、大量輸送が出来ない(動力がない)ため、あまり意味がなくなる。

 ということは、ここは結構牧歌的な状態なのではないか。

 あの男が自分のことを商人と呼んだのも、つまりは何でも屋ということなのかもしれない。

 旅の巡回商店というわけだ。

 そういう人たちは、人と人との繋がりを大切にすると聞いたことがある。

 何が商売に繋がるか判らないからな。

 しかも遠距離の通信手段がないとしたら、面と向かって会話して、とりあえず無害そうだと判れば馬車に乗せてやるくらいのことはするかもしれない。

 ちょっと安心?

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