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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三章 俺は冒険者チームのインターン?
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15.派遣?

 ハスィーさん。

 ギルドの職員で、俺の就労許可の適性検査を担当した人だ。

 物凄い美女でエルフ。

 いや、別に耳が尖っているわけではないのだが、確かにエルフだと言われれば思わず納得してしまう美女である。

 歳は判らない。

 美人すぎて、そんなものは超越しているんだよね。まあ、少女じゃないことは判るけど、俺より年上かどうかすら不明だ。

 あ、あと特徴としては、あまり色気はないな。

 美術品みたいな印象がある。

 美しすぎて、普通の人間とは思えないんだよね。

 実際には、とても人間味のあるいい人なんだけど。

 そのハスィーさんは、前の作業着みたいな制服とは違う、ちょっと正装的な衣装を身につけていた。

 ああ、これってギルド職員のフォーマルスーツなんじゃないかな。ちなみにスカートではなくてズボンだ。

 こっちの世界では、働く女性はほぼスカートを履かないらしい。

 まあ、それでも脚線美とかスタイルの良さは際だっていて、魅力が薄れるようなことは全然ないんだが。

 そのハスィーさんは、澄ましてお茶らしい飲み物を飲んでいたが、俺たちに気づくと優雅に会釈してくれた。

 おおっ凄いね。

 なんか、王女みたいな身分がある女性が挨拶したらこんな感じなんだろうな、という動作だった。

 こんな経験をしたのは、劇場で見たとあるミュージカルで、終わった後に役者が一人ずつ舞台に出てきて、中央で挨拶したとき以来だ。

 あの時、お姫様役をやった人が、両手を胸の前で組み合わせて首を傾げ、ちょっと膝を曲げるという演技をしたんだけど、俺はそれだけでその人に惚れてしまった。

 たったそれだけの動作で、見事にお姫様の気品や育ち、性格などを全部見せてくれたのだ。これが惚れずにいられようか。

 遠すぎて顔もよく見えなかったんだけどね。

 それと似たような状態になっている。

 俺は、その場で棒立ちになっていた。

 正直、ハスィーさんの存在が強烈すぎて、他の全員が霞んでいる。

 不意に咳払いの音がして、俺たちは我に返ってソファーに腰掛けた。

 なぜか俺がハスィーさんの真正面で、その両側をホトウさんとジェイルくんが固める。

 おい。

 何が始まるんだ?

 モス代表が、俺を睨みながら言った。

「マコト、こちらはギルドのハスィー様だ。お会いしたことはあるな?」

「はあ。適性検査の面接で……」

「すみません。『様』は止めていただけませんか」

 俺の言葉を遮って、ハスィーさん……いや、ハスィー様が言った。

 ああ、そうなんだよな。

 ハスィーさんより、ハスィー様の方がしっくりくる。

 なんか、生まれながらの高貴さというか、そういうものを感じるんだ。

 俺がモス代表の言葉を「様」と聞いているということは、モス代表がそういう風に認識しているということだな。

 やっぱこっちの世界でも、エルフは高位の存在なのか。単なる美人というだけでは「様」はつくまい。

「そうおっしゃられても、世間体というものがありますからな」

「今の私は、ギルド職員としてここにいます。そうではないと思えることは、謹んで頂きたいのです」

「……いたしかたありませんな。失礼しました、ハスィーさん」

 モス代表が言い負かされた恰好だが、どうもインチキくさいな。

 いや俺を嵌めようというんじゃなくて、何かモス代表とハスィー様って個人的な知り合いで、表面的な見かけより親しいんじゃないのか。

 で、代表が遊んでいると。

 生真面目なハスィー様がまともに反応して抗議しているのを、代表が意地悪くいなしているというか。

 シルさんやホトウさんも笑っているし。ジェイルくんは冷静な態度を崩していないけど。

 俺?

 ぼやっとしているだけだよ。

「では改めて、マコト。来て貰ったのは他でもない。ギルドから依頼があるのだそうだ」

 ギルドが?

 俺に?

「仕事のことでしょうか。でも、私は『栄冠の空』でパーティメンバーとしてインターンを始めたばかりで」

「いや、そっちはそのまま続けていい。通常のパーティメンバーとしての仕事に加えて、ちょっと変則的な勤務になるだけだ。

 ハスィーさん、後はよろしく」

 モス代表は、思わせぶりな所で言葉を切ってハスィー様に話を振った。

 ハスィー様は、眩い微笑みを俺に投げかけてから言葉を続ける。

「マコトさん、とお呼びしてよろしいでしょうか」

「あ、はい。もちろんです」

「それでは。先日、マコトさんの適性検査を行ってから、マルト商会からの依頼もあって、私の方でマコトさんに合うお仕事を調べてみたのです。

 でも残念ながら、すぐにご用意できるポジションはありませんでした」

 そんなことをしてくれていたのか!

 親切すぎないか?

 マルト商会って、そんな力を持っているのか!

 しかしまあ、俺に合う仕事はないってことだな。予想はしていたが。

 やっぱり俺に出来るのは、冒険者くらいしかないのか。

 それも怪しいけど。

「ですが、先日『栄冠の空』のモス代表より、マコトさんの手腕についての報告と、マコトさんのお仕事についてのご提案がありました。

 担当部署で検討した結果、長年の懸案事項となっていた問題に対する有効なアプローチになる可能性があるという結論に達したため、そのご提案を承けることに決定しました」

 ハスィー様は、言い切って俺を見た。

 何?

 俺?

 正直、何を言われているのか全然判らないんですけど。

「ハスィーさん、それではマコトが混乱します。最初から話していただけませんか」

 モス代表がやんわりと諭すが、ハスィー様は「あ、そうですね。でも困りました。どこからお話しすれば良いのか」などと混乱している。

 どうしちゃったの?

 あの面接の時の、冷静沈着でビジネスウーマンなハスィー様はどこに行った?

「判りました。ここからは私から」

 モス代表は、とりあえずハスィー様を切ると俺に向けて言った。

「つまり、ギルドの長年の懸案事項があって、今まで決の目処がたってなかったわけだが、何とかなるかもしれない、という可能性が出てきたわけだ。

 その原案は、私の方から提案させて貰った。

 具体的には、ギルドに問題の対処チームを作って、専任で解決に当たるというものだが、その実行チームに『栄冠の空』からも人を出すことになる」

「はあ」

 まだ判らん。

「つまりだ、マコトを中心とした数人の冒険者をギルドに派遣する、ということだな」

 ええっ!

 なんで俺?

 それも中心って。

「でも私は、まだインターンとして働き始めたばかりで」

「これだけの実績をあげた以上、インターンは完了したと考えてくれ。それに、別に行きっぱなしになるわけではない。普段は『栄冠の空』で活動し、要請があった時だけ、ギルドのチームに加わるという形になる」

 いや、訳が判りません。

 なんで俺が?

 まあ、それはそれとして、雇用形態的には頷けないこともない。

 日本の会社では、ごく当たり前の契約だからな。

 つまりだ。

 俺は、形式的にはマルト商会預かりのまま、冒険者チーム『栄冠の空』に派遣され、そこからまたギルドのどっかの部署に、呼び出された時だけ不定期で行くことになる。

 これって、覚えがあるなあ。

 普通のサラリーマンなら、ごく当たり前の出向とか長期派遣とかに分類されるものなんだろうけど……いや違うか。普通なら行きっぱなしになるからな。

 でも俺の場合、インターンが終了して一応契約だか派遣だかの社員になったと考えていいのか?

 しかし、やらされるのは派遣の派遣だ。

 しかも毎日じゃないらしい。

 つまり。

 日雇い派遣(違)かよ!

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