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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三章 俺は冒険者チームのインターン?
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8.仕事内容は説得?

 そのまま馬車と並行して歩きながら、まずマイキーさんと話すことにする。

「御免ね、私だけ楽して。でも、街中では馬車には人間の御者が乗ってないと駄目だと決まっているの。人目がなくなったら、私も歩きだから」

 俺も乗せて貰えないかと聞かなくて良かった。

 でも、先輩社員が引く馬車に乗るなんて恐れ多いからな。許可があっても遠慮したい。

 ちなみに、靴はよく合っている奴に交換したし、ここんところ毎日出来るだけ歩くようにしていたので、歩くことについてはとりあえず心配はしていない。

 でも、どこまでいくのか判らないのは不安だな。

「あまり遠くないよ。あの丘の向こうくらい」

 マイキーが指さしたのは、街中からでも見える「山」だった。遠いよ!

「どれくらいかかりますか」

「3時間くらいかな。途中で坂になるから、スピード落ちるし」

 3時間くらいって、どのくらいなんだろうか。魔素の翻訳機能、この辺りが便利なようで不便だ。

 俺の体感で3時間と、マイキーさんの3時間は多分違っているはずだ。現役の冒険者と、ちょっと前までデスクワークのインドア派サラリーマンとでは、体力が根底から違うだろうし。

 俺が不安そうなのを感じたのか、マイキーさんが明るく言った。

「マコトのことも聞いてるから、大丈夫。ホトウさんは、メンバーに無理させないので有名だから」

 いや、残念だけど、俺はマイキーさんみたいな女子陸上部エースタイプのことをよく知っている。

 自分のレベルで考えるから、彼女たちが「大丈夫」というのは、普通の人にとってはクリアするのが大変なんていうレベルじゃないのだ。

 ホトウさんが本当に優しいことを祈ろう。

 しばらくマイキーさんと話しているうちに、周りに家がなくなり、畑ばかりになった。

 今日は働いている人が少ないな。

 さらに進むと、畑が突然途切れて草ぼうぼうの土地が続き、道は蛇行しながら山に向かっている。

 そこら辺で、マイキーさんが馬車から降りて歩き出した。先頭を行くホトウさんに駆け寄って、何か話し始める。

 俺は、次の目標として最後尾を歩いているケイルさんに寄っていった。

 取っつきにくい気はするけど、同じパーティなんだからいずれは話さないといけないだろう。だったらマイキーさんと話して気分がいいうちに、済ませておこうと思ったのだ。

 ケイルさんは、茫洋とした顔つきで歩いていた。何か考え事をしているのか、あるいは歩きながら寝ているのかもしれない。

 邪魔していいのだろうかと思っていると、ケイルさんの方から声をかけてくれた。

「マコトといったな。冒険者は初めてだと聞いたが、本当なのか」

「本当です。今日が初体験です」

 話が途絶える。

 もう切り捨てられたのかと思っていると、唐突に話し始めた。

「だったら、出来るだけパーティの中心にいろ。多分、ホトウがお前の世話をやくことになるだろうが、場合によっては庇いきれないこともある。その時は、とりあえずじっとしていろ」

 じっとしていたら、駄目なのでは。

 天敵の前で気絶するようなものだろう。

 俺の不満を感じたのか、ケイルさんは訥々と続けた。

「危ないのは、勝手に動くことだ。逃げた先に危険がないとは限らん。俺たちの誰かは必ずカバーに入るから、出来るだけ妙な動きはしないことだ」

 あのう、危ないことになる前提で話していますが、そんなに危険なんでしょうか。

「いや、万一の場合だ。今日の仕事は、まあ危険はないだろう。だが、どんな場合にもイレギュラーはある。予想もしなかった展開になるケースも多い」

 最初は口べたに思えたが、ケイルさんは結構饒舌だった。

 そして、一旦うち解けてしまえばかなり気安いタイプでもあった。

 良かった。

 ここで聞いておこう。

「今日の仕事は、どんなものなのでしょうか」

「何だ、聞いてなかったのか。説得だよ」

 説得?

 誰を?

「あの丘の向こう側に広がっている峡谷で、フクロオオカミが徘徊しているという報告があった。

 付近の村には、とりあえず遠出を避けるようにという指示が出ている。ワシたちは、そいつらを説得しに行くんだよ」

 あの、よく判らないんですが、フクロオオカミさんって説得できるような方達なのでしょうか。

「大丈夫だ。話は通じる。めったに人を襲うようなことはない。だが、協定で峡谷の方には入らないように決められているはずなのに、なぜ出てきているのかが判らん」

 説得って、それかよ!

 いや、魔素のせいで話が通じるとは言っても、相手は人間じゃないんでしょ?

 ラノベだと、魔族や上位の魔物なら人間の言葉を話すこともあるはずだが、こっちの世界には魔族も魔物もいないらしいし。

 しかも狼さんだよ!

 もちろん、俺の知っている狼とは違うとは思うけど。袋とか付いているし。

 そんな方達と協定を結んでいて、それが破られているかもしれず、さらにその理由が判らないって、結構込み入った依頼ですよね?

「当然だ。でなければ、ギルドも『栄冠の空』に依頼したりはせん」

 やっぱそうですか。

 まあ、もっと簡単な仕事なら中小や零細企業、じゃなくてチームに話が行くんだろうな。

 『栄冠の空』には、それだけの信用と信頼があるってことだ。

 説得とは言っているけど、つまり言葉で「説得」できなかった場合は、武力に訴えることも想定しているのだろう。

 もちろん、ホトウさんのパーティである『ハヤブサ』だけで相手を全滅させろとかは言われているわけではないはずだ。

 つまり、交渉が決裂した場合に、無傷もしくは軽度の損傷で撤退できるパーティに仕事が回ってきたということだろうな。

 でも、俺が入っているパーティにこの仕事が回ってきたということは、『栄冠の空』の上の方では大した危険はないと踏んでいるはずだ。

 だって、俺ってとりあえずはマルト商会からの預かり物なんだから、破損させたり傷モノにしたりしたら、『栄冠の空』の立場が弱くなる。

 なにかを預かるということは、そのモノに対する責任が生じてしまうわけだから、会社としては危険回避の方向に動かざるを得ない。

 重要な取引先の社長の息子なんかを入社させた場合、その男の配属は営業や総務なんかの激戦区ではなく、人事とかでお茶を濁すことが多いけど、それと同じようなものだろう。

 いや、俺とはちょっと立場が違うけど。

 俺に何かあっても、マルトさんとしては別にどうでもいいとも言えるわけで、その辺りはマルトさんの心次第だな。あとは、『栄冠の空』の上の方がどう思っているかで。

 そんなことより、差し迫った問題としては、そのフクロオオカミさんたちがどう出るかだ。徘徊しているのが目撃されただけで、周囲の村に警報が出るくらいだから、かなり危険ではあるのだろう。

 でも、狼ってそれほど危険か?

 群れならともかく、単体なら……ああ、そうか。こっちには鉄砲とかないからなあ。

 村人が弓とか剣か持ち歩くはずもないし。

 日本でいうと、住宅地の近くに熊が出たので、とりあえず付近の人たちには外出を控えるように通知して、近くの猟友会が対処に向かっている、という状況に近いわけだ。

 『栄冠の空』の場合は、見つけたら射殺じゃなくて、とりあえずは言葉による交渉を行うということが違うくらいか。

 それならまあ、大丈夫かもしれない。

 狼が一匹程度なら、このケイルさん一人でも制圧できるだろう。俺は隠れていればいいし。

「ただ、フクロオオカミは感情に走るところがあってな」

 ケイルさんが、低い声で続けた。饒舌なんだけど、言葉自体は訥々なので、違和感が凄い。

「頭がいい割には衝動で行動することがある。長老級になれば人間と変わらないくらいなんだが、若い奴らはなあ」

 ……人間と変わらないの?

 だから説得か。

「まあ、人間でも幼いうちはすぐカッとなったりわがまま言ったりするだろう。それと同じだ」

 いや……幼い人間なら、大した戦闘力もないからいいんですけどね。でも、狼でしょ?

「ああ。奴ら、成長が早いからな。3,4歳で体長が2メートルを越える。それでいて頭は幼児だからな。まったく困ったもんだ」

 ケイルさんは、そう言って顔に笑みらしきものを浮かべた。

 2メートル。

 それってもう、狼さんじゃないよね!

 虎とか、豹とかそういうレベルだよね!

 猫科じゃないけど!

 そんなのを「説得」しなきゃならないの?

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