表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三章 俺は冒険者チームのインターン?
36/1008

5.兄貴?

「それでは、と。マコトくんは何歳なのかな」

 ホトウさんが聞いてきた。

 こっちの暦がまだ判らないんだけど、まあいいか。

「23です」

「そうか。僕は27だ。マコトと呼んでいいかな」

「はい。ホトウさんでいいですか」

「それでいい。一応リーダーなんで、権威はなくちゃね。本当は呼び捨てて欲しいんだけど、他のメンバーの反感を買う恐れがあるし」

 良かった。

 まともそうだ。

 それにしても27歳か。地球でいうとどれくらいなんだろう。

 一年が何日かで変わってくるからな。

 まあ、俺の上司でリーダーということで、年齢に関係なく「さん」付けは妥当か。

 サラリーマンだと、役職が上なら歳に関係なく敬語になるからな。

 親しくなれば別だけど。

 ホトウさんは、俺を誘って受付を通り抜け、外に出た。ちなみにあのネコミミ髪の娘はいなかった。

 『栄冠の空』は庭? が広く、裏に回るとちょっとした空き地のようになっている場所があった。

 ベンチがいくつか置いてある。

 何もない場所は、多分訓練したりするためのものだろう。

 ホトウさんは、俺をベンチに掛けさせると、わざわざ事務所に戻ってカップを2つ持ってきた。

 サービスいいな。かえって恐縮してしまうけど。

 水だった。

 生ぬるい。

 まあ仕方がない。ここは日本とは違うのだ。

「ありがとうございます」

「いや、いい。ところで、マコトは今まで冒険者をやったことがないと聞いたけど?」

 いきなり来ますね。

 ここは、最初から行った方がいいだろう。

「ホトウさんは、俺のことをどれくらいご存じなんですか?」

 あんた、どれくらい知らされている(上から信頼されている)んだ? という無礼な質問だったが、これをはっきりさせないと俺も答えられない。

 ホトウさんは、のほほんとして言った。

「マコトが『迷い人』だってこと? 知ってはいるけど、それだけだよ」

 こっちでは『迷い人』というのか。

 異世界人という言い方ではないんだな。

 つまり、俺みたいなラノベ好きから見たら異世界というのは当たり前だけど、こっちみたいにそういう概念があまりなくて、ただ時々迷い込んでくる異邦人、という認識なら『迷い人』という単語になるのだろう。

 もうひとつ判ることがある。

 迷い人、つまり迷子であって、何か目的があってやってきた人ではない、とされていることだ。

 もし侵略とか偵察とか移住とか、何かやることがあってこっちの世界に来るのなら、呼び名は異邦人などになっているだろう。

 いや、むしろそう定義する方が自然な気がする。普通、人は何も目的がないのに動いたりすることはないからだ。

 しかも、世界を違えるという大事だ。

 下手をすれば、国をあげての大事業になる。

 だが『迷い人』なんだよな。

 明らかに、これまでこっちの世界にやってきた人たちには、目的がなかったのだ。あるいは、偶然の事故でやってきたわけだ。

 俺と同じで。

 昔話になるほど前から、そういう存在がいたというのに、一度も侵略や大規模移住、その他の意図的な侵入などは発生しなかったと。

 その経験から、迷い込んでくる異世界人はこっちの人に敵対する存在ではない、と認識されているのだろう。

 だが、ちょっと不思議ではある。昔からそのような者が確認されているのに、妙に落ち着いているな。

 地球だったら、むしろ異端の存在として排斥されたり、悪魔の使い的な扱われ方をされているぞ。

 昔、何かあったんだろうか。

 というよりは、何もなかったという方が有り得る気がする。

 サンプル数が少なすぎて、社会に影響が出るほどではなかったのかなあ。

 まあ、たった一人で誰も知った人がいない場所に、何の準備もなしにやってきたとすると、大したことは出来ないのは当然だろうけど。

 頑張ったとしても、食っていくのが精一杯だろうし。

 つまり、その程度の存在だと思われているわけで、これは安心材料の一つだな。

 しかし、どうでもいいけど、ホトウさん目が怖いんですが。態度と言葉を裏切っているよ!

 俺は、ホトウさんの目を見ないようにして言った。目さえ見なければ、穏やかで気さくなお兄さんなのだ。

「そうですね。つまり、冒険者をやったことがないどころか、どんな仕事なのかすら知りません。どうもすみません」

 新しくやってきた部下が、完全な役立たずだと知らされるのはリーダーとしては辛いだろうな。

「謝る必要はないよ。それに、上からはインターンだから、むしろ仕事ぶりを見学させるように言われている。

 あまりひどい仕事は回ってこないと思うしね。

 それに僕自身、『迷い人』に会うのは初めてなんで、色々聞きたくてたまらないんだ」

 あー、いい人だなあ。

 魔素翻訳が効いているから、これがこの人の本心なんだろうな。

 しかし、俺ってずいぶん優遇されているな。インターンどころか、お客様扱いじゃないか。

 俺が加わったことで、このパーティには楽な仕事しか回ってこなくなるのか。

 まあ現実的に、何も知らない『迷い人』を連れたパーティが、ダンジョン探索とかドラゴン退治とかにかり出されるはずもないし。

 そんなもんは、もともとないらしいが。

 まあ、そのあたりはどのくらい本気か判らないけど。何せ、俺は冒険者という仕事の内容すら知らないのだ。

「それに」と、ホトウさんは声を潜めて言った。

「マコトは、何か凄い技術とか分野とかの専門家なんだろう? その技能が仕事に役立たないか、チェックしろと言われている」

 おい!

 マルトさん、やっぱ誤解してるぞ!

 IT用語を連発したのがまずかったか。

 何も知らないであれを聞くと、魔法の呪文のように聞こえるのかもなあ。

 実際、コンピュータって魔法みたいなものだし。箱の中に、物凄い数のこびとが入っていて、命令されたらプログラム通りに忠実に実行するんだもんな。

 いや、実際は違うけど、魔素翻訳でそういう風に受け取られていても不思議じゃない。

 ああ、確かに俺はプログラミングやインストールやデバッグの初歩は知っているけど、そんなのまず、コンピュータがなかったら何の意味もないんだよ。

 スマホならあるけど、バッテリーが切れたらおしまいだし。

 とにかく、冒険者の仕事に使えるようなもんじゃないって。

 そう説明しようとすると、ホトウさんは手を振って遮った。

「まあ、そんなにうまいこと行くわけないよね。上の方も、冗談交じりだったし。僕としては、マコトがこっちの世界でやっていけるように、基本的なことから体験して貰えるようにするつもりだから、心配しないで」

 おう!

 何ていい人なんだホトウさん、いやホトウ兄貴!

 俺、ついていきますから!

 まあ、ラノベじゃないんだから、その辺りは適当だけど。

 それから俺は、ホトウさん自身のことと、冒険者の仕事について色々と教えて貰った。

 ホトウさんは、12歳くらいから冒険者をやっているそうだ。といっても、その年齢ではパーティ加入どころか荷物運びも出来ないので、もっぱら臨時雇いの使い走り(という表現でいいのだろうか)をやりながら、冒険者の技術を盗み取ることに専念していたらしい。

 ホトウさんは、これでもかなり裕福な家の出で、だけど四男だったために将来は家を出て自力で生きろと言われていて、だったら身体が資本の冒険者になろうと。

 そのあたり、日本の常識で考えちゃいけないんだろうな。

 まず、こっちの世界(というよりはこの国)では、義務教育を終えた後に上の学校に行って、それから就職というコースがない。

 国政や地方の行政・司法なんかに関わる官僚にしても、それ専門の学校があって資格を取るというようなコースはなく、もっぱら家庭教師や実務経験を積んで専門家になるらしい。

 つまり、官僚や専門家の養成体制が出来ていないんだよね。

 それどころか義務教育制度すらない。

 日本でいうと、明治維新前の幕藩体制の頃に似ている。

 あの頃にも当然官僚はいたはずなんだけど、それは世襲で大抵は親について実地で経験を積んでいたと習った覚えがある。

 いや、大学で雑学科目みたいな単位があって、暇つぶしに講義を取っていたんだよね。

 その中に、昔の日本の政治体制を学ぼう! というようなコースがあって、平安時代から現在の議会制民主主義までの政府の在り方について色々と教えて貰ったんだよ。

 ついでに、ヨーロッパの方のギリシャやローマの民主制/帝政(ローマって最初は民主主義だったらしいぞ)やオスマントルコとか、中世の王権神授制なんかについても詰め込まれたっけ。

 いや、実に面白くて、なぜかというとラノベに出てくる国家や体制ってここから来たんだなあと。

 とまあそんなわけで、こっちの世界は江戸時代に似ていると思ったわけだ。

 国としての統一した教育制度や資格制度がまだ出来ていないんだな。

 例えば弁護士とか教職とか、日本だったら従事するのに資格が必要な仕事についても、専門の教育コースがないからなあなあでやっているらしい。

 そういう仕事につく唯一の方法は、すでにその仕事をしている人にくっついて教えて貰うか、あるいは下働きをしながら技術を盗むことだそうだ。

 そして何より、コネがないとどうにもならない。血縁や地縁が一番だが、長年尽くして信用して貰うというのも有効な手段だ。

 ホトウさんの場合は、とりあえず食って寝るところは確保出来ていた(実家)ので、お金を稼ぐより仕事を覚えたり、コネを作ったりする方に力を入れることで、かなり早く見習い冒険者として受け入れられたらしい。

 それが『栄冠の空』だったのは、多分ホトウさんの実家からの影響もあったのだろう。どうも、『栄冠の空』って何のコネもなしにホイホイ入れるチームじゃないらしいから。

 日本でも、○菱重工とか野○証券とか、一流の会社に入るのは、単に成績がいいだけでは難しいのと同じことだな。

 俺って良運?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ