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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三章 俺は冒険者チームのインターン?
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2.新人の心得?

 『栄冠の空』の拠点? は一軒家だ。まあ、こっちの世界、というよりはこの街だとあんまりビルというものがない。これは、技術的に遅れているというよりは、必要がないためだと思われる。

 前にローマ帝国時代の小説を読んだことがあったけど、紀元数世紀のローマにはもう、4階建てとか5階建てとかのビルが建ち並んでいたそうだ。

 もちろんエレベーターなどはないから、高層階ほど家賃が安かったとか。貧乏人は高いところに住んでいたのだ。

 地震がない地方では、建築技術が低くても高い建物を造りやすいが、やっぱり何をするにも階段を上り下りしないといけない建物は嫌われる。

 2階や3階ならともかく、5階以上になるとね。だから、俺はディズ○ーのシンデ○ラ城などを見るたびに、あそこに住む人は大変だなあ、と思っていた。

 もちろん今のじゃないよ。電気設備がない時代のお城なんか、居住性は最低ではないか。

 風呂に入るのにも、まず下の方でお湯を沸かして、それを使用人がえっちらおっちら上の方まで運ぶわけだ。

 浴槽一杯に溜めるには何往復もする必要があって、そうしているうちに最初に運んだお湯は冷めてしまうから、王様とかはみんなぬるま湯にしか入れなかったと書いてあった。

 話が逸れたけど、ローマに高層ビル(笑)が多かったのは、単純に場所がなかったかららしい。狭い場所に大量に住んでいたわけで、上に伸びるしかなかったということだ。

 この街(そういや、まだ名前知らない)は、山裾から開けた場所にあるので、いくらでも広がっていける。

 だから、貧乏人は高い所に上がるよりは郊外に向かうようで、高層ビルと呼べるような建物はあまり、というかほとんどない。

 領主の屋敷だって、大邸宅らしいけどお城というわけじゃないみたいだしな。

 日本みたいに、雑居ビルに色々な会社が入っているというのは、エレベーターが普及して初めて可能なんだろうな。もちろん、俺が間違っているかも知れないけど。

 ヨーロッパの中世の教会や修道院なんか、すごく高い建物があったみたいだし。

 まあそれはそれとして、俺の当面の勤務先である冒険者チーム『栄冠の空』は、日本だったら高額所得者が住んでいそうな邸宅だった。

 ここら辺は街の中心に近いので一等地だろうし、そこにでかい家と広い庭がある拠点を構えているということは、かなり成功したチームといっていいだろう。

 まあ、俺の経験だと取引先の中小企業の中には、無理して豪華なオフィスを構えるところもあったけどね。

 それも一理あって、あまりにも貧乏臭いオフィスだと、顧客に舐められたり信用されなかったりすることもあるからな。

 売り出し中の冒険者のチームなら、ある程度のハッタリは必要なのかもしれない。

 昨日来たばかりなので、受付の場所は判っている。

 誰もいなかった。

 そうそう、冒険者のチームなんだから、朝からオフィスでくすぶっているはずはないんだよね。

 昨日は俺の面接のために、珍しく結構集まったらしかったけど(それでも仕事で来られない人が何人かいたらしい)、大抵の場合はみんな外に出ている。

 冒険者チームの仕事って、事務作業じゃないからな。『栄冠の空』の場合、仕事の大半は数日かがりで、現地集合・現地解散も多く、割と集まるのはリーダーくらいなものだそうだ。

 とはいっても、仕事が入っていない時は待機していたり、訓練しているそうで、今誰もいないのは朝早いからもあるだろう。

 手続きの時に言われたけど、『栄冠の空』には住み込み制度がないので、従業員はそれぞれアパートを借りたり宿屋に泊まったりしているらしい。

 ラノベかよ。

 大体、日雇いレベルでそんな余裕がある奴がいるのかと思ったが、大部屋に雑魚寝ならかなり安く泊まれる宿があるそうだ。

 それに、『栄冠の空』が雇う程の人なら、とりあえず住むところに困っているほど困窮している者はいないとか。

 つまり、ある程度のバックボーンや信用(金)がないと、そもそも雇用対象にはならないのだろう。

 日本のバイトでも、コンビニやファミレスなんかは信用第一というところはあるからな。それがないと、そもそもバイトも出来ないわけで、こっちの世界もなかなか厳しい。

 いやー、俺ってラッキー。

 マルトさんと出会わなかったら、今頃道端で寝ているか、飢えて盗みでもやって投獄されていたかもな。

 将来を考えても、ここで失敗するわけにはいかないか。

 いや、失敗するくらいはいいとしても、マルトさんの顔を潰すようなことは絶対に避けるべきだろう。

 サラリーマンの端くれとして、それだけは守らなければ。

 組織人は信用第一。

 俺はマルトさんの会社の社員じゃないけど。

 今日から俺がお世話になる組織は、朝早くからシャカリキに働くようなところではなさそうだったので、俺とジェイルくんは受付の前のソファーに座って待つことにした。

 このソファーも、かなり高級品である。

 儲かってるのかな『栄冠の空』。

 あ、ちなみに今の俺は顧客や商売相手ではないので、立って待つようなことはしない。

 同じ会社の社員がそんなことをしたら、かえって不自然だろう。

 まあ、こっちの世界の常識がどうなっているのか判らないが、ジェイルくんが平気で座っているのでよしとしよう。

 頼りにしてます、ジェイル兄貴。

 しばらく待っていると、奥に続くドアが開いて、シルさんが現れた。

 朝から綺麗ですね、シル姉貴。

「おはようございます」

「おはよう。早いな」

「遅刻しないように、と」

 この辺りは、去年入社して研修受けて配属されたときに経験している。

 上司より先輩より早く出社して、やる気をアピールするのだ。

 とりあえず、配属直後としばらくは。

 慣れてくると、ギリギリ出社も可能なんだけどな。

 シルさんは、ちょっと慌てた風に身なりを整えてから受付の机の上を整理した。

「うーん。

 あの娘、また忘れているな」

 ぶつぶつ文句を言うシルさん、素敵です。

「そういえば、どうやって入ったんだ?

 ドアの鍵は開いていた?」

「はい。ですが、誰もいませんでしたよ」

「そうなのか。

 またどっかに行っているみたいだな」

 しかめ面を曝すシルさん、うちの会社の先輩女性社員にそっくりです。

 こうしてみると、最初にシルさんを男と間違えたのが不思議なほどだ。

 メチャクチャ綺麗でかっこいいではないか、シルさん。

 ドワーフの女性って、みんなこうなのだろうか。体型も凄いし、見ようによってはエルフより人気が出そうだけど。

 ハスィーさんがエルフの標準だとしたら、美人過ぎるが故に恐れ多くて言い寄るどころではないからな。

「みんなが来るまではまだちょっとある。

 お茶でも飲んで休んでいてくれ」

 言いながらシルさんは辺りを引っかき回していた。

「お茶ってどこにあったっけ」

 あー、つまりそういう業務は本来シルさんの仕事ではないと。

 行方不明になっている受付の娘とやらの役目なんだろうな。ドアの鍵を開けて、つまり開店準備は済ませたはいいけど、どっかでサボッているのか。

 どうでもいいけど、異世界とは思えない普通の会社ぶりだ。まあ、業務内容は冒険者なんだけど。

 その時、誰かがドアを開けて入ってきたと思うと、叫び声が上がった。

「あー!

 もう来てる!

 準備終わってないのに!」

 振り向くと、猫娘がいた。

 マジか。

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