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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三章 俺は冒険者チームのインターン?
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1.初出社?

 結局、労働許可証が出るまでジェイルくんが色々捜してくれたらしいが、すぐに俺を雇ってもいいと言ってくれる所は見つからなかったようだ。

 『栄冠の空』を除いて。

 まあ、こっちで就活なんて俺一人ではどうしようもなかったから、採用してくれるというところがあっただけでも僥倖なんだけど。

 仕方がないので、マルトさんの商会の寮に居候してニートをやっていたのだが、その間にソラルちゃんやジェイルくんにこっちの世界の常識を色々と教わっていた。

 二人とも忙しいので、あまり進まなかったけど。後は自習していたが、何せ文字が読めないので全然捗らない。

 困るんだけどなあ。

 だって、現代人がいきなり江戸時代に飛ばされたようなものなんだよ。

 生活一般だけでも、結構覚えなきゃならないことが多かったし。

 まあ、衣食住の心配しなくていいのは大助かりだったけど。

 でもこれって、飼い殺しみたいなものだよね。

 ただ飯を食らっているってのは、けっこう居心地が悪い。

 いいかげんうんざりしているところにやっと許可証が出て、シルさんが言うところの「形式的な」面接を受けた。

 久しぶりの面接はきつかった。

 すでに採用が決定している出来レースだったけど、情け容赦なく品定めされる悲哀を久々に味わってしまった。

 いや、就活ってのはどんな場合でも辛いもんだよ。

 こんな時代だから、俺も定年前にリストラされたりして、再就職しなければならなくなるかもとは覚悟していたけど、入社1年ちょっとでまたバイトから始めなければならないとは。

 しかも、『栄冠の空』は冒険者のチームだ。まさかラノベそのままとは思えないが、多分、いや間違いなくガテン系の仕事だし、警備員や道路工事より危険度が高いことも確実だ。

 だから、バイトとはいえ雇われるためには主立った幹部の人たち全員に面通しされて、ああだこうだ言われてみんなが納得するまでさらし者にされるのも、仕方がないのかもしれない。

 だって冒険者だよ。

 下手な奴を仲間にしてしまうと、マジで命が危ないかもしれないからな。

 しかも、今回は大人の事情で俺を雇うことは決定済みときている。

 あの面接が茶番だと知らない人は平気で脅してくるし、知っている人でもそんな決定自体が気にくわない人なら、本気で心を折りに来る。

 それが判っていたから、何とか冷静でいられたんだけどね。

 死ぬからとか、笑いながら言うなよ!

 本当かもしれないけどさ!

 こっちはいくらビビッても、辞退もできないんだし。

 ということで『栄冠の空』の圧迫面接を何とかクリアした俺は、いよいよ初出社の日を迎えていた。

 ちなみに、まだマルト商会の寮に居候している。

 『栄冠の空』には住み込み制度はないそうだ。ましてバイトではなあ。ああ、インターンっていってたっけ。

 そういえば、いくら貰えるのか聞いてないな。

 インターンってかっこいいけど、つまりは研修生ってことだよね。

 どっかで読んだけど、日本には研修生制度というのがあって、中国から研修生と称して労働力を呼んでいるらしい。

 その人たちは、最低時給以下で働かされているのだが、ビザの関係で誰でも簡単に日本に働きに来られないことから、我慢しているのだそうだ。

 今の俺って、それじゃない?

 研修生制度では、住み込みで面倒みてくれるらしいんだけど、俺の場合はマルトさんが日本政府みたいなものだから、いくら嫌でも逆らえないんだよなあ。

 これが社会人ということだ。

 とにかく、飯が食えて寝るところがあるんだから、ラッキーと思うべきだろうな。

 就職祝いというのか、マルトさんはジェイルくんに命じて、俺の仕事用の装備や着替えなども用意してくれた。

 実際に持ってきたのはソラルちゃんだったけどね。あの娘も、なりゆきで俺の担当にされたのか、細々としたことを注意してくれるのが実にありがたい。

 何せ、こっちは右も左も判らない外国人研修生だ。

 まあバイトなんだから、フォーマルな恰好をする必要はないと思うのだが、それでもソラルちゃんは最初に渡してくれた作業服よりはマシなものを選んでくれたらしい。

 いや、労働者用の服であることは間違いないけど、何というか少し上等な上下に靴だった。

 多少、荒っぽいことをしても破れたりしないそうな、ゴワゴワした生地で作られていたりして。

 そういえば、学生時代にガテン系のバイトをした時は、服は自前だったんでかなり苦労したっけ。

 着ていった服は一日でボロボロの泥まみれになり、ジーパンはすぐに穴が開いた。そこで働いていた先輩に教えて貰って、ワーク○ンで一通り買いそろえたものだ。

 あ、そういう野外肉体労働者用の服の専門店チェーンがあるんだよね。

 丈夫で安くて、夏なんか通気性がいい服を売っていて助かった。でも、そういう服を着て学校とかに行くと、あからさまに避けられたなあ。

 まあ、そういうバイトしていた時は筋肉痛であまり外出できなかったけど。

 そういや、あの服どうなったっけ。就職が決まった時に、もう必要ないと思ってどっかにしまい込んだと思うけど。

 まだ、アパートの押し入れの奥の段ボール箱に入っているんだろうな。あの服、持ってくれば良かったか。

 だって、ソラルちゃんが用意してくれた服って、やっぱり着心地が悪いんだよな。いや、ワークマ○の既製服に比べてだけど。こっちにはポリエステルとか合成樹脂とかないからなあ。

 文句を言ってみても始まらない。

 俺は、ソラルちゃんが起こしに来る前に起きて顔を洗うと、新品の労働服に着替えて待った。

 ちなみに、朝シャワーなんてしゃれたものは、こっちの世界にはない。風呂だって、かろうじて冷たくない水が溜まっている湯船での水浴びなんだよな。

 多分、夜に沸かしてそのままになっているんだろう。誰かが掃除しているんだとは思うけど、俺は昼間は色々と外出しているから、そういう人たちを見たことはない。

 あ、寮の管理人とかはどうだろう。

 危険はないし、俺にも出来そうだし。

 でも、マルトさんは俺を雇う気はないとか言っていたしな。それに、多分ガス湯沸かしなんてのはないだろうから、薪を作るところから始めるんだとしたら、俺には無理っぽい気がする。

 そんなことを考えていると、ジェイルくんがやってきた。

「おはようございます」

「おはようございます。いよいよ、今日からですね」

 嬉しそうだな、おい。

 君が就職するわけでもあるまいに。

「朝食後、一緒に行きましょう。私も色々とご挨拶がありまして」

 勤務先についてきてくれるらしい。過保護な気もするけど、俺に何かあったり、何かしでかしたりしたときのストッパーが必要なんだろうな。

 心配しなくてもいいのに。

 ジェイルくんと一緒に飯を食って、そのまま出勤である。あ、トイレは済ませておいた。社会人って、これが意外と重要なんだよ。自分の都合で席を外すなんてことが出来ない場合があるから。

 まあ、トイレを我慢しろ、とかいう職場は聞いたことないけど、偉い人が話している時とかにトイレに行きたいとか言い出しにくいじゃないか。

 それに、偉ければ偉いほど、かつ現場から遠ければ遠いほど、人の話は長くなるんだよね。

 さらに言えば、そういう話は中身は空っぽだけど、聞き逃すと後々面倒になってくる場合が多いし。

 サラリーマンは、油断できないのだ。

 寮を出て、いつものように街の中心に向かう。考えてみれば、マルトさんの会社というか拠点は街の端の方にあるから、何をするにもとりあえずは中心方向に向かうことになるのか。

 あ、そういえば道がよく判らないや。昨日行った面接会場、じゃなくて会社にはシルさんに連れて行って貰ったし、帰りはジェイルくんが迎えに来てくれたからな。

 距離的にもよくわからん。ぼーっとしてたし。

 これじゃ、一人で出勤なんか出来ないじゃないか。道を覚えなければ。

「あの、明日からは一人で行きますから、何か地図のようなものはありますか」

「ああ、そうですね。今日中に作ってお渡しします」

 そうか、地図はないのね。

 日本の常識で考えたら駄目だ。

 印刷技術も製紙技術も多分未熟なこの世界では、街の地図なんかあっても相当高価だろう。

 ホテルや旅館のカウンターにいくらでも積んであるのとは違うのだ。

 ついでに恥を忍んで聞いておく。

「どれくらいかかりますか。昨日は少し、ぼんやりしていたもので」

「ギルドのすぐ近くですから、大したことはないですよ。ただ、ギルドからの道筋が少し複雑ですから」

 ジェイルくん、有能な上に親切。

 やっぱこの人、マルトさんの腹心なんだろうな。後継者候補かも。

 すると、将来的にはソラルちゃんと結婚して婿入りして跡継ぎか。

 身分は高くなさそうだけど、頭と行動力でのし上がっていくタイプだ。

 主人公くさいな。

 いやいや、ラノベじゃないんだから。

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