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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二章 俺は就業許可待ちのプー太郎?
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17.インターミッション ~コルカ・マルト~

 ノックの音がした。

 マルトは書類を置くと、「入れ」と声をかける。

 腹心たるジェイルがドアを開け、滑り込むように入室し、ドアを静かに閉める。一連の動作が流れるようだ。

「ただいま戻りました」

「で、どうだった」

「無事にお引き合わせが済みました。先方も乗り気のようです」

「それはそうだろう。あの渉外は切れ者だ。今後の展開には期待しているはずだ」

「いえ、そうではなく」

 ジェイルは、ちょっと口ごもった。

 マルトは驚く。この腹心がためらうなどという事態がそうそうあるとも思えない。

「どうした?」

「先方、というよりはシル・コットが、どうもマコトを気に入ったようで」

「ほう」

 予想していなかったわけではないが、早すぎるのではないか。

「会ったばかりなのにか」

「はい。あんなによく話すコットは初めて見ました」

「それは『栄冠の空』の渉外としてではなく?」

「と、思えます。それに、ギルドのハスィー様からも好意的な回答が届いています。依頼があれば、今後も全面的にバックアップするということで」

「ふむ」

 マルトは宙を見上げて思考を整理する。

 ヤジママコトは『迷い人』だ。『迷い人』に関する情報は錯綜していて確かなことは言えないが、共通して伝わっていることもいくつかある。

 そのひとつが、異様に周囲の好感を得やすいということ。これは様々な『迷い人』の伝承にほぼ共通している。

 原因は判っていない。

 『迷い人』本来の機能だという説もあれば、『迷い人』になる者の特質だとも、あるいは主人公補正なる謎の作用が存在するとも言われている。

 マルト自身は、そんな戯れ言を信じたことがなかったが、考えてみればなぜ最初に出会った時に、すぐさま保護する方向に思考が向いてしまったのか不思議ではある。

 あの段階では、得体の知れない男を迎え入れる積極的な理由は何ひとつなかったのだ。

 禁忌を犯してまで遠ざけようとした相手を、ただ出会っただけで受け入れてしまった。

 ああ、そういえばあの禁忌はどうなったのか。

 口に出していたようだ。腹心がすぐに答えた。

「あれは帰還した直後に未来竜を送って対処させました。ついでに噂話を集めさせましたが、禁忌が行われたという話は出ていないようです」

「きちんと弔っただろうな」

「こちらで直接手配して、無事に済みました。略葬になりましたが、教団の方々にも納得して頂けました」

「そうか。ご苦労」

 今思えば、どうかしていた。事故で亡くなったとはいえ、ご遺体をあんな目的に使ってしまっていいはずがない。

 それを許して下さったスウォークの方々には、慚愧に堪えない。

 このご恩には、何としても報いねば。

 それにしても運が良かった。

 あの山道は、主要な街道ではあるのだが、そんなに人通りが多いというわけではない。そもそも個人もしくは少人数であの距離を踏破するにはいささか危険が伴うから、ある程度まとまった規模の商隊で使うことが多い。

 禁忌が転がっていたというような噂話が出ていないということは、あの後誰も通らなかったのだろう。

 これも『迷い人』の導きか?

 いや、考え過ぎか。

「わしからも伝えておくことがある」

「はい」

「ギルドの上層部には話を通した。マコトの存在は、極力秘密にしておいてくれるそうだ。接触も最低限に抑える。ただ、事が事だけに、いずれは動きがあるだろう」

「すると、ハスィー様が?」

「そうだな。あと、何人か接触してくるかもしれないが、それは仕方があるまい。我々としては、マコトの身柄を確保していることで十分有利だ」

 スタートで好意を勝ち得たのは大きい。あとは、彼の機嫌を損ねないように注意することだ。

「『栄冠の空』は大丈夫なのだな?」

「知っているのは上の方と、直接当たる者だけです。現場では、ある程度荒っぽくなると思いますが、あまり楽させすぎるとマコトが怪しむかと」

「そうだな。だが、万一のためのバックアップは確実にしておけ」

「了解しました」

 それだけだ、と告げると、ジェイルは一礼して出て行った。

 面白い。

 周囲の状況を、あれだけ冷静に観察しているくせに、自分自身については気づいていないと見える。

 マコトと呼び捨てにするなど、あいつも……ということか。

 マルトはひとしきり笑うと、書類を取り上げた。

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