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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二章 俺は就業許可待ちのプー太郎?
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13.呼び出し?

 その日はマルトさんの会社の寮に帰って、汚れたものを洗濯したり、ソラルちゃんの指導で日常の細々としたものを買い集めたりした。

 もちろん俺は金を持っていないので、マルトさんから支度金ということで貸して貰った。

 いやー、いい人にめぐりあった。

 夕食をまた食堂で食った後は、することもないので自室に引き上げて、これまで判ったことを整理してみた。

 ランプの光が暗くて書きにくかったし、居候の身で消耗品を大量に消費するのも何なので、すぐやめてしまったけど。

 でも、大まかな方針は立てることができた。


①日本に帰る方法は、今のところ不明。

②当面は戦争に巻き込まれたり、ドラゴンに襲われたり、魔王が襲来する危険はほぼないとみていい。

③衣食住については、当面はマルトさんに頼るとしても、いつまでもこのままでは駄目だ。

④引きこもっていても、問題は解決しない。


 つまり、何とかして仕事を見つけるか、金を儲けて自活できるようにするしかない、ということだ。

 そして、金を稼ぐということについては、俺は完全に無知だ。こっちの世界の常識が判らないし、技術も持っていない。

 神様からチートを貰ったわけではない。

 ウィンドウも開かない。

 しかも、俺はラノベの異世界ものに、そんなに詳しいというわけでもない。

 領地経営とか、料理革命とか、魔法開発なんかできないから、つまり一介の平民として生きていくしかない。

 いや、平民よりひどいかもしれない。

 俺の立場は、例えてみれば何の当てもないのにいきなり日本に移住してきた外国人のようなものだ。

 信じられないほどの幸運で親切な人に拾われて養ってもらっているけど、そんな不安定な立場に安住していいはずがない。

 何としても、近いうちに仕事をみつけて自活できるようにならなければならないのだ。

 現実逃避するという手もあるけど、日本と違って生活保護があるわけでもないし、そのうちに当局の厄介になるか、最悪は飢え死だろう。

 そうならないためにも、何とか頑張ってみるしかないか。

 ちなみに、自分でも意外だったが日本に対する未練や望郷の念は驚くほどなかった。

 社会人になってからは、仕事が大変すぎてアニメやゲームにもほとんど触れてなかったしな。

 ネットの常識も古くて、今時「キター!」とか言っている奴はいないだろう。

 さらに、両親とも折り合いがあまりよくないので(別に喧嘩しているわけではないが、向こうもこっちも個人主義であまり関わろうとしないのだ)、今のところ会えなくて寂しい、ということもない。

 友達もいないしな(泣)。

 強いて言えば会社のことだけど、どうしようもないからなあ。

 まあ、俺が突然失踪しても、会社の業務に支障がでることはないだろう。

 その点は安心している。

 最後の仕事になってしまった、顧客に資料を届ける使い走りも終わっているし。

 突然失踪した形になるので、上司は怒るだろうけど、仕方がない。

 まあいいさ。

 そう考えているうちに眠ってしまったらしい。

 気がついたら、窓から日が差し込んでいた。

 よし、頑張るか、と張り切ってみても、よく考えたらギルドの証明書とかが来ないうちは何もできないわけで。

 出ることは判っているので就活していいですよ、とか言われた気がするが、右も左も判らないこの状況で、そんなことができるはずもなく。

 仕方がないのでスマホを弄りながらソラルちゃんがくるのを待っていたのだが、しばらくたってから知らない若い男が来て「今日はソラルは来ないので、自由に過ごして下さい」ときたもんだ。

 恐る恐る例の食堂に行ってみると、別に断られることもなく、食事にありつけた。どうも、この敷地内にいるということが飯を食う権利になっているらしい。

 それでもソラルちゃんがいない分、周りからジロジロ見られたけど、声をかけてくる奴はいなかった。

 怪しまれているという視線ではなかった気がする。むしろ、こいつ何だ、というような好奇心が感じられた。

 でも、誰も何も言わない。

 まあ、得体が知れない奴であることは確かだしな。しかも、ここにいるのはマルト商会の従業員であって、社長令嬢と一緒に飯を食うような奴に下手に手を出して火傷するのはまずい、ということなのだろうか。

 飯の後、とりあえず部屋に帰ってじっとしていたが、本当に何もすることがない。

 こっちの字とか常識を覚えたいけど、誰に聞けばいいのか。ソラルちゃんにしても、あのイケメン……やばい。また名前忘れた……にしても、いつまでも俺に構っていられるほど暇じゃないだろうし。

 仕方がないので、ちょっと街をぶらついてこようかと思って部屋を出ると、ちょうどイケメンがやってくるところだった。

「ヤジママコトさん。マルトが呼んでいるんですが、時間ありますか?」

 このイケメン、何という名前だったか。

 俺って、人の名前とか覚えるのが超苦手なんだよね。美少女とか偉い人とかはすぐ覚えられるけど、自分に関係ない人や、苦手な人はむしろ積極的に忘れてしまう。

 このイケメンとか。

「時間ありますが」

「良かった。来て下さい」

 イケメンに従って宿舎を出る。

 こないだの執務室? に行くのかと思っていたら、そのまま敷地を出て歩いていく。

「どこに行くんですか」

「ギルドの支部です。マルトが、ご紹介したい人がいるということで」

 ギルドか。

 冒険者ギルドじゃなくて、どっちかというと市役所みたいな場所なんだよな、多分。

 もっとも日本と違って役所というわけではないようだが、内容は似たようなものだ。ただし、マルトさんが幹部やっているくらいなので、むしろ商工会議所みたいなものなのかもしれない。

 行政機能もありそうだけど。

 イケメンに聞こうかと思ったが、早足で進んでいくのでそんな暇はない。急いでいるのか。

 そういや、ギルドって行ったことなかったよね? ハロワで会ったエルフのハスィーさんはギルドの職員らしかったけど、どうも出張してきていたらしいかったし。

 でも、イケメンが向かっているのはハロワ方面だった。

「ギルドの支部って、ハロワの近くにあるんですか」

「違います。ハローワークがギルドの支部の中にあるんですよ」

 何と!

 俺がハロワだと思っていたのは、ギルドの支部だったのか。

 広場にあった方は、出張所と言っていたっけ。

 あれは、文字通り出張所であって、この街における本拠はハロワの建物だったわけだ。

 考えてみれば、行政機関の本部を広場に作る意味はないもんな。

 ギルドと直接関係する庶民はあまりいないから、広場にあっても仕方がない。

 土地代も高そうだし。

 だから、ハロワがあるようなちょっと外れた場所に支所を置いたと。

 まあ、確かにあの建物はハロワにしては大きかったもんな。この規模の人口で、ハロワがあんなにでかいはずはないだろう。

 しかも、正面から観たときと違って中に入ると意外に奥行きがあったし。

 あ、するとあの休憩室もギルドのか。

 ハスィーさんも出張してきたわけじゃなくて、ギルドの支所内を移動しただけか。

 しばらく歩くと、見覚えのあるハロワ、じゃなくてギルドの建物が見えてきた。いや、これはギルドの支部だと言っていたな。

 ギルドって、多分この街だけじゃなくて、国全体でひとつの組織だと思うから、支部なんだろう。外国人の滞在許可証を発行できるんだから、国の業務をやっていることになる。

 それは大組織だろう。

 イケメンは勝手知ったる他人の家というかギルドに遠慮無く入ってゆく。一般市民にはあまり関係がない場所だが、ギルドの幹部の片腕なら当然かもしれない。もっとも、入るだけなら特に資格とかはいらないだろう。

 警備はしていると思うが。

 エレベーターのたぐいはないようで、イケメンと俺は大きな階段を上り、しばらく廊下を進んでから受付のような場所にいた人、これは可もなく不可もないような制服を着た職員だったけど、その人に挨拶してから会議室らしい扉が並んでいる場所に入った。

 顔パスというか、ひょっとしたこのイケメンも半ば職員のようなものなのかもしれない。

 しかし、どうしてもイケメンの名前が思い出せない。顔やスタイルがいい男のことなんか、むしろ積極的に忘れたいんだろうな、俺の脳は。

 俺がそんなことを考えていると、イケメンは一つの扉をノックして言った。

「ジェイルです。ヤジママコトさんをお連れしました」

 そうだ、ジェイルくんだった!

 よし!

 今度は忘れないようにしよう!

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― 新着の感想 ―
[一言] >イケメンの名前 きっと次も忘れる(確信
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