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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二章 俺は就業許可待ちのプー太郎?
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11.運輸警備関係?

 一度広場に戻り、歩くこと10分。意外に近くにその冒険者の拠点とやらはあった。

 何のことはない、単なる民家である。

 といっても日本の家のようなものを想像してはいけない。

 どっちかというと、掘っ立て小屋というか、工事現場の仮設住居みたいなかんじの家だった。

 別に表札とか看板とかはないようだ。

 まだ、そういう店としての機能がないのかもしれない。

 冒険者のチームだからな。

 私立探偵みたいに、向こうから依頼が来るというわけではないんだろう。どっちかと言えば、ご用聞きに行ったり、呼びつけられて仕事を貰うというかんじか。

 あ、言い忘れていたけど広場やその近くには日用品などを売る商店が並んでいて、普通に看板があった。

 識字率は大したことがないとマルトさんが言っていたけど、まったく読めない人は少ないのだろう。

 だが、日本みたいに宣伝文句があるわけではない。

 「服」とか「野菜」とか、そういうレベルの看板だった。そっけないにも程がある。

 というか、一応絵もついているんだけど、服なのか野菜なのか判らないような稚拙なもので、あまり絵画文化は広まっていないらしい。

 ああいうのって、必要に迫られて伸びていくからな。

 資本主義経済が発達して、商店同士の競争が激しくなってくると、売らんがための宣伝に力を入れるようになって、その結果としてコマーシャルというものが重視されるようになる。

 と、確か社会心理学か何かの講義で習った気がする。経済学だったかもしれない。

 そういう無駄な知識はよく覚えているなあ。

 心理学の専門用語とか、卒論すらもう、記憶の彼方だというのに。

「ここです」

 いや、ソラルちゃん、見れば判るから。

 真正面に立って指さす必要はないから。

 その途端、ドアが開いて男が出てきた。

 ガタイがでかい。

 やっぱこういう仕事って肉体派じゃないと出来ないのだろうか。もっとも、マルトさんも同じくらい凄かったけどな。

 あの人は商人だけど。

「何か?」

 男は、自分を指さしている女の子と、その隣に立ってぼやっとしている若造に不信感を抱いたのだろう、険しい声で言ってきた。

 それはそうだろう。

 俺だってそうするよ。

「あ、私はソラルと言います。コルカ・マルトの娘です」

 ソラルちゃんは、まったく動じずに返した。

 この娘、結構度胸があるというか、周りが見えてないところがあるな。

 ラノベのヒロインほどじゃないけど。

「マルトさんの……お世話になっています」

 ああ、この人サラリーマンだ。

 なんて言うか、同類だから判るんだよな。

 丁寧さにかすかな卑屈さが入り交じった口調。切ないなあ。

 これが小なりといえど経営者の場合は、必ず尊大さが混じる。社長という立場には、それだけの重みがあるんだよね。

 崖っぷちに立っていて、後ろには誰もいなくて一歩下がれば奈落という状況が人を鍛えるのかもしれない。

 でもまあ、借金残して夜逃げするような社長も多いんだけど、絶体絶命になってもそうしない社長はサラリーマンだからな。

 その代わり自殺したりするけど。

「代表にご用ですか? 今ちょっと出ていますが、すぐに呼んできます」

「いえ、違うのです。お仕事の依頼ではなくて」

 ソラルちゃんが慌てている。

 まあ、取引先の社長の娘が尋ねてきたら、大抵のサラリーマンなら仕事の依頼だと思うだろうな。

 遊びに来たとか、見学とかは思うまい。

「今日は、こちらの方が御社に興味があるということで、お話を伺えないかと」

 ソラルちゃん、ちょっと待って!

 俺、そんなこと一言も言ってないから!

 それになに、その「こちらの方」って!

 俺が偉いさんみたいじゃないの。

「それはそれは。どうぞこちらへ」

 男は満面の笑みを浮かべながらドアを開けた。

 何か儲け話に繋がると思ったんだろう。

 違うからね。

 そんなの、何もないからね。

 そもそも俺、冒険者なんかに何の興味もないから。いや、興味はあるけど、関わる気はないから。

 そう思いながらもソラルちゃんに従って建物に入る。

 冒険者の拠点とやらは、ごく普通の家、いや店だった。どっちなんだか。

 街の便利屋とか、引っ越し業者の店に行ったことがある人なら判ると思うけど、あんなかんじだった。

 小さいカウンターと、チャチな応接セット。

 そこで何かを売るんじゃなくて、商談するためのスペースだ。

 冒険者の男は俺たちをソファーに座らせて、それから奥に引っ込んで、しばらくして飲み物を持ってきた。

 ああ、この感覚。

 俺が毎日やっているのと同じだ。

 ここ、マジで会社なんだな。

 冒険者だけど。

「お待たせしました」

「いえいえ、お構いなく」

 ソラルちゃんも堂に入っている。こういうやり取りに慣れているようだ。大したもんだなあ。見た目は17歳くらいなんだが、サラリーマンとしてきちんと働いているわけだ。

 とてもラノベのヒロインには見えないな。

 17歳でOLやっているヒロインって、物凄く珍しいんじゃないか。

「失礼しました。私はチーム『未来竜』の渉外担当でヒサヤと言います。今回は、何かお役に立てることがありますでしょうか」

 男、いやヒサヤ氏がにこやかに言った。

 ガタイはいいけど、落ち着いた感じが好印象のナイスガイだ。

 渉外担当か。

 つまり営業だな。

 しかし「未来竜」か。ダサいな。

 そんなことを思っていると、ソラルちゃんがこっちを見た。

 俺に話せってか?

 何を聞けばいいんだよ。

「あ、あの、私はヤジママコトと申しまして、マルトさんの所にご厄介になっている者です。お忙しいところを失礼します。今回は、未来竜さんの最近の事業について、少しお聞かせ願えればと思いまして」

 嘘は言ってないぞ、嘘は。

 「消防署の方から来ました」というのと同じで、こういっておけばマルトさんの関係者に聞こえるはずだ。

 社長令嬢が一緒にいるわけだしな。

 まさか、異世界から迷い込んできた得体の知れない風来坊で、しかも冒険者に興味はあっても関わりたいとはまったく考えていないなどとは思うまい。

 思わないよね?

 魔素って、そこまで翻訳したりしないよな?

「それはそれは」

 一瞬、ヒサヤ氏の目が泳いだ。

 そんな抽象的なことを言われても困るよな。

 商売に繋がるかどうかも判らないし。

 だが、マルト商会のお墨付きだ。ここで断っても何の益もないどころか、むしろ悪感情を持たれる可能性もある。

 俺の立場もよく判らないしな。

 ひょっとしたら、すごい有力などっかの商会の手先かもしれないわけだ。

 ここは、ご機嫌をとっておくの一手だろう。

 ヒサヤ氏はすぐに自分を取り戻すと、少し身を乗り出して言った。

「お役に立てることがありましたら、喜んで。どのようなことでしょうか」

 ボールを打ち返してきやがった。

 そう言われてもね。

 まあ、思いつくまま聞いてみようか。

「それでは。ぶしつけですが、未来竜さんのメンバーは何人くらいでしょうか」

「常勤メンバーが6名、後は臨時職員ですね」

 ふむ。

 意外に少ない。

 6人といったら、パーティをひとつか二つ作るのがやっとだぞ。

「専門業務は」

「運輸警備関係です。もちろん、ご依頼があれば適時対応いたします」

 これって、あれか。

 商隊の護衛とかか。

 それで、マルトさんの会社と関係があるのか。俺を拾ってくれた時も、荷馬車隊で動いていたからな。

 なるほど、判った。

 俺には関係ないか。

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