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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二章 俺は就業許可待ちのプー太郎?
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8.観光案内?

 ソラルちゃんは、ちょっと着飾ったのか、白いツナギのような服装だった。はみ出ている白くて細い足首が眩しい。

 でも、靴は革製のスニーカーみたいなドタ靴だったけど。まあ、この程度の文明ではハイヒールなんか履けないもんな。何せ、舗装されている道がない。

 あいかわらず生真面目そうで、緊張しているのか表情が堅い。

 なんで俺なんかに会うのにそんなに緊張する必要があるのか。イケメン、じゃなくてジェイルくんといい、ソラルちゃんといい、やっぱ何か誤解しているみたいだな。

 人畜無害そのものの俺なのに。

「お待たせしました」

「うん」

 ここで「俺も今来たばかりなんだ」とか言うのは無理だ。どっちにしても、魔素のせいで嘘がつけない。

 待たされて退屈していた、という感情は伝わってしまった。

「アレスト市を見て回りたい、とのことですので、できる限り案内させていただきます。どこがご希望ですか」

 なんかご大層なことになっているらしい。

 俺としては、ちょっと見て回りたいだけなんだが。どっちにしても金がないんで、何も買えないし。

 それにしても、ここってアレスト市というのか。初めて聞いた気がする。

 大抵の人は、自分の住んでいる街、としてしか認識してないんだろうな。

「うん、特に行きたい場所があるわけじゃないんだけど、まあ街の雰囲気を知りたいということで」

 そのくらいがせいぜいだろう。

 これから就活なんだし、街の様子も知りません、では雇って貰えても、すぐに解雇されてしまうかもしれないし。

「判りました」

「何も知らないからさ。聞きたいんだけど、どういう所を見て回ればいいかな」

「そうですね。住宅街、商店街、広場、それからお屋敷街や騎士団の詰め所などを一通り、というところでしょうか」

 おお、騎士団!

 ゲームみたいだ。

 やっぱあるんだな。

 でも、俺の耳にそう聞こえただけで、実際はどうか判らない。街の治安を守る機関というのなら、警察かもしれないし。

 いや、俺の耳に警察と聞こえなかったということは、警察じゃないんだろう。国や自治体の機関というよりは、私兵に近いのかもしれない。

 貴族とかいるって話だし。

 そこら辺を理解しておかないと、後で何か致命的な失敗をしそうで怖い。

 あ、そういえば忘れていた。

 ラノベ的に、重要なものが抜けているんじゃないのか。

「教会とかないの?」

「教会、ですか?」

 あれ?

 反応が鈍いな。

「神に祈る場所というか、治療所を兼ねていたりするというか」

 それはゲームの教会だろう!

「ああ、神への信仰の場ですね。ありますが……宗教に興味をお持ちですか?」

 なんでそんなことを?

 こっちの人は、神への信仰心がないというのか!?

「いえ、もちろん大いなるものに対する畏怖や帰依はありますが、体系的なものは主流ではないです。大地と空に感謝、というレベルですね」

 何と!

 強大な宗教組織とか、国家レベルで絶大な影響を及ぼす教皇とか、あらゆる場所に根付く教会支所とかもないのか!

「あ、いえ、ないことはないです。でも熱心な信仰者はごく少数ですし、あまり影響力もありません。あと、治療所と教会は別です」

 この情報は重要だぞ。

 だが、今はとりあえず置いておく。一度に全部やろうとしないことだ。「困難は分割して対処する」が、サラリーマンの基本だからな。

「わかった。とりあえず教会のことは後にしよう。それ以外は全部行きたいね。でも、時間は大丈夫?」

「平気です。夕食までは、お伴します」

 何てサービスがいいんだ。

 ソラルちゃんって、マルトさんの娘だと言っていたが、まだマルト商会? の正式な社員? じゃないのかもしれない。

 父親の指示で、色々やっているんだろうな。

 例えば異世界から来たおかしな奴の案内とか。まあ、そういうのはイレギュラーだろうけど。

 ソラルちゃんについてハロワを出る。下のホールは、どこから沸いて出たのかと思うくらい人でごった返していた。

 ていうか、ハロワなんだよね? ここ。

 ひょっとしたらギルドなのかもしれない。

 別に新人冒険者をいびってやろうと突っかかってくる奴にも会わずに、俺たちはハロワを出てまず街の中心部に向かった。

 ソラルちゃんの話では、定型的なラノベに出てくる通り、街の中心に城というか領主の館があるそうだ。これは別にラノベの専売特許というわけではなく、ヨーロッパあたりの街ではそういう構造が当たり前らしい。

 まず、貴族だか何だか知らないが、王様とかからその辺りを統治しろとか命令された偉い人が適当な場所に屋敷を建てる。

 その周りに部下や各種職人、商人などが家や作業場を構え、あとはその周囲にどんどん家が増えていく。

 気がついてみたら、領主の屋敷を中心にして同心円状に街並みが広がっているというわけだ。

 その時、道や広場の設計をうまくやると綺麗な街になるが、失敗すると目も当てられなくなる。

 でもまあ、例えば道が狭ければ広げるし、広場がなければその辺りの人を立ち退かせて作る、という具合にある程度は是正されるらしい。

 この街も、百年くらい前にそうやって出来たそうで、結構歴史がある。

 街はまだどんどん外側に広がっているが、中心部は領主やその部下、政府機関などの建物ばかりで、あまり面白くないらしい。

 庶民だと、ほとんど関係ないしな。

 だから、ソラルちゃんはある程度中心部に近づいて、そこにあった広場でとりあえず足を止めた。

「ここがまあ、広場です」

 いや、見れば判るから。

「あそこがギルドの出張所で、あの建物が騎士団の詰め所ですね」

「ギルドの出張所?」

「両替商や商談場所も兼ねてます」

 なるほど。

 ひょっとしたら、この街を実質的に動かしているというか、支配しているのはギルドかもしれない。

 少なくとも経済的な支配はギルドだ。銀行を兼ねているんだから。

 そんなギルドの幹部って、マルトさん大したもんだな。

「そういえば、この街の人口はどれくらい?」

「人口ですか? そうですね。3万人くらいではないでしょうか」

 おおっ、結構いるようだ。

 日本でも、3万人もいれば市が出来るからな。自前の役所や消防署とかがあってもおかしくない。

 警察組織だって、出来ないことはないだろう。ああ、それで騎士団なのか。

 つまり、日本みたいに国家の警察があって、各地方の警察がその配下、というわけではないのだろう。

 騎士団というのは、基本的には貴族の私兵だと聞いたことがある。王族なら近衛騎士団だが、この街の場合は貴族の配下だから普通の騎士団だ。

 そして、騎士団はほぼ警察組織と同じ役割を果たしていると。とはいっても、騎士団は私兵だから、その役目は貴族を守ることなんだけどね。

 ただ、街の治安が乱れると貴族の不利益になるから、副業として警察の仕事もしているのだろう。

 いやー、俺の知識を元にして「騎士団」と訳すとは、魔素ってパネェな。

 あれ? だとしたら、この街って領主の思いのままということ?

「いえ、徴税や取引記録はギルドが代行していますから、貴族といえども勝手にはできません。そもそも、ここの領主はほとんど王都にいて、代官がいるだけです。

 騎士団の規模も小さくて、治安維持は大体街の警備隊がやっていますね」

 なるほどなるほど。

 思っていたよりは、物騒というわけでもないらしい。

 これってつまり、江戸時代みたいなもんだな。

 当時を舞台にしたアクションゲームやってる時に解説書を読んだけど、武士ってもちろん徳川の私兵なんだが、奉行所というところでも一応江戸の治安維持を担当していたんだ。

 今で言う警察だけど、そもそも奉行所にいる武士って数十人で、それで百万人くらいいる江戸の治安の維持なんかできっこないから、実際の業務はほとんど民間人に委託していたらしい。

 銭形平次みたいなのは、みんな正式の武士じゃなくて、下働きだったと書いてあった。

 こっちの町民も、治安が乱れるのは困るから、貴族や騎士が当てにならない場合は独自の治安組織を作るわけだ。

 で、多分騎士団って警備隊がやった治安維持の結果だけをチェックしているんだろう。

 その警備隊もギルド配下か。

 相当の権限持っているというか、もうこれって立憲君主制による議会制民主主義なんじゃないのか。

 こっちでもマグナ・カルタとかあったりして。

 地球でいうと、どの時代かな。

 18世紀くらいか。

「ギルドの出張所って入れる?」

「入れます。行ってみますか?」

 行かいでか。

 広場の反対側にあるギルドの建物は、遠目にはこじんまりとして見えたが、近寄ってみると割合に大きかった。

 何階建てかよく判らない重層建築で、日本で言うと市民会館みたいなイメージだ。

 いやもちろん、ぱっと見は全然違うけど。

 普通のドアに見えたのは高さが2.5メートルくらいある巨大な開き戸で、入ってみると大銀行の本店のエントランスみたいだった。

 なるほど、やっぱ公的機関はこうなるのか。

 おまけに、電気がないもんだからその分上の方の壁が大きく開いていて、開放感がある。荘厳だな。

 壁際にカウンターが並んでいるのは、こういう場所の定型だ。そして、人がたくさんいた。経済の中心だからな。

 俺はしばらく見回した後、ソラルちゃんを連れてギルドの出張所を出た。

 いまはこのくらいでいい。いずれはここに来てあれこれしそうな気がするが、当分は駄目だろう。

 まだ職も決まってないしな。

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