表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二章 俺は就業許可待ちのプー太郎?
21/1008

7.コンサル?

 イケメンは、それから帳面みたいなものをめくっては俺に質問し、色々と書き込んでいった。

 商人だけあって、読み書きスキルはあるらしい。

 それはそうだ。

 マルトさんの部下なんだから、飛び抜けて優秀なはずだ。あの人、仕事では容赦なさそうだしな。

 質問に答えているうちに、何となくデジャ・ビュが出てきたのだが、これって大学で就職課の人に相談したときの再現なんだよね。

 あの時、俺は自分でも何が向いているのか、何が出来るのか判らなくて、就職のエントリーシートも書けなかった。

 それで、同級生から大学の就活コンサルティングについて教えて貰って、相談しに行ったんだよね。

 コンサルタントと称するおじさんが出てきて、今イケメンがやっているのとまったく同じことをやってくれた。

 何をしたのかというと、コンサルというよりは消去法だったんだよな。

 つまり、俺に出来ることや、やりたいことではなくて、出来ないことややりたくないことを上げていって、そういう仕事を就活対象から外すわけだ。

 よく考えたら、これって正解なんだよね。

 甘えた大学生が、やりたいこととか出来ると思っていることなんか、実際には無意味だし。

 それより、駄目な事を全部潰して、それ以外から選ばせた方が成功確率が高いだろう。

 出来る出来ないではなく、絶対やりたくないものを外せば、それ以外はまあ、何とか耐えられるということになる。出来るかどうかは別にして。

 もちろん「働いたら負け」とか言っている奴は問題外だが。

 実際、その時に俺が受けたコンサルで、自分では思っても見なかったIT関係企業に就職できたからな。

 あのコンサルがなければ、俺は多分高望みとか勘違いで無理な就活を続けたあげく、就職浪人していたと思うよ。

 うん。

 客観的に自分というものを見て貰うのは重要だよね。

「なるほど……大体、判りました」

 しばらくそれを続けた後、イケメンは顔を上げて言った。

「それでは、この結果に基づいてこちらで少し考えてみます。ハロワの担当に上げる前に、ヤジママコトさんに改めてご相談しますので、少しお待ちいただけますか」

 なんでこんなに丁寧語なんだよ。

 居心地が悪いだろうが。

 でも、実にありがたい。

 マルトさんと、このイケメン様々だ。

「重ね重ね、ありがとうございます」

「とんでもありません。ヤジママコトさんのお役に立れば幸いです」

 なんかもう、サラリーマン同士の社交儀礼そのものになってきている。

 実際にそうなんだろう。このイケメンって、有能なサラリーマンだ。ひょっとしたら、マルトさんの右腕とか直属の配下なのかもしれない。

 しかし、俺の名前はヤジママコトで通ってしまっているのか。言いにくそうなのは気の毒だし、俺も気持ち悪いから訂正しておくか。

「実にありがたいです。……ところで、八島誠は私のフルネームですので、出来ればマコトと呼んでいただけますか」

 矢島は家族名です、と言うと、イケメンはちょっと目を見開いたが、すぐに頷いた。

「判りました。私はジェイル・クルトですが、私のことはジェイルと呼んで下さい」

 おおっ!

 このイケメンの名はジェイルくんか!

 やっと判った。

 どうしても思い出せなくて、どうしようかと思っていた。

 良かった良かった。

 今度は忘れないようにしないと。

 ジュエル……じゃなくてジェイルくんね。

「今後とも、よろしくお願いします。ジェイルさん」

 俺が思わず手を差し出すと、ジェイルくんはちょっとためらってから握り返してくれた。こっちに握手の習慣はなかったか?

 だとしたら、ジェイルくんって恐ろしく頭が切れるな。

「それで、と。私はこれからハロワの担当と会って話を詰めますが、マコトさんはどうなさいますか?」

「そうですね。少し、こちらの街を見て回りたいですね。もちろん一人では無理ですが」

「判りました。案内役を手配しますので、こちらで少しお待ち願えますか」

「了解です」

 気安くなってしまったな。

 まあ、こっちの方がいいけど。

 ジェイルくんは、それではと言って去って行った。俺はとりあえず生ぬるい水を啜りながら待機する。

 ラノベの場合、こういう時に一人になると荒くれの冒険者とかが難癖つけてきて、チート能力とかで撃退して一目置かれるとか、あるいはあわやという時に美少女ギルド職員か高レベル冒険者である美女が割って入るというパターンだな。

 でも、現実には有り得ないよね。

 実際に社会に出て仕事してみて判ったんだが、いきなり初対面の相手に突っかかるような奴なんか、まずいないぞ。少なくともまっとうに働いている人たちには。

 冒険者だから、というのなら、その冒険者ってほとんどチンピラレベルの民度しかないことになる。

 大体、ギルドのホールとかで日常的に刃傷沙汰が起こっていたら、誰もそんな所には行かなくなるだろう。ギルドがまともな運営をしているのなら、実力で阻止するはずだ。

 そもそも、相手が弱そうに見えるからといって、いきなり突っかかるような奴が長生きできるはずがない。

 人の力は、個人の力量はむしろサブで、実際にはバックのパワーで優劣が決まる。具体的には、所属している組織の強さだ。

 だから、学生時代はともかく社会に出ると、いかにも弱そうな軟弱者に見えてもそいつが孤立無援かどうか判らないうちは、うかつに手を出せない。

 サラリーマンやっていると、つくづく思い知らされるもんなあ。20代のペーペーに、いい歳した経営者がへいこらしているんだもん。

 俺の会社はそれほどの大企業というわけではないけど、仕事で協力する企業には物凄い超一流の会社もあって、そんな所の正社員なら入社一年目でもそこら辺の零細企業の管理職より力が上だ。

 本人がどうなのかは別として、社会ではそういう風に扱われる。だから、ラノベに出てくるような、冒険者が王女とか騎士団員と気安く話すなんてことはまず、ないな。

 敵対したらおしまいだからね。

 後ろ盾が違いすぎる。

 人間って、いかに力があっても単体では組織に対抗できないんだよ。

 まあ、特別な力があれば別なんだけど。

 いやチート能力じゃなくて金ね。

 どっかで読んだけど、金というものは人間が個人で持てる最大の力なんだって。

 資産家なら、それに見合った待遇は受けられる。でも、小金持ち程度では駄目だ。それこそチートクラスの資産がないと。

 そして、それだけの資産があるのなら、当然その資産の周りに色々なパワーが集まるわけで、つまりそれが組織の力と言い換えてもいい。

 ただし、実はその人の外見からではその力は判らないことが多い。

 一千万円持っている人と、10億円の資産家って、普通にしていたらあまり違いが判らないんだよ。

 それはもちろん、金持ちはいい服を着ていたり豪華な飯を食ったりするかもしれないけど、資産の差ほど顕著な違いは出ないんだ。

 そこら辺を歩いているオヤジが、実はビルを何棟も持っていて家賃収入が月に数百万とかいう例ってあったしな。

 ああ、もちろんこれは平和な日本での話だから、こっちの世界ではどうか判らない。

 だけど、今までの様子では、それなりに法的な秩序が保たれているというかんじだから、あまり差はないんじゃないかと思う。

 もっとも、ジェイルくんも言っていたけど、冒険者という連中は、むしろはぐれ者らしいんだよね。

 だから、そういう連中と出くわしたらラノベ的な展開がないとは言えない。

 ちょっと心配だけど、まあ大丈夫だろう。なぜかというと、ここがハロワの休憩室だからだ。

 冒険者がハロワに来るとも思えないが、もし来るとしたら職を求めてのことだろう。そんな立場で、わざわざ暴力沙汰を起こすはずがない。

 一発で敬遠されるからな。

 だから大丈夫だ。

 俺はそう考えつつも、一応用心のためにじっとしていた。

 ジェイルくんが俺をここに置いていったのは、それなりに安心感があったからだろうし、案内をつけるというのならその案内とやらを待つしかない。

 そもそも、勝手にフラフラ出歩くなんて、それこそ揉め事を引き寄せるようなものではないか。

 だけど、まったく知り合いがいない、どういう場所なのかも判らない状態で取り残されたのには堪えた。

 心細いんだよ。

 俺は結構、マルトさんやジェイルくんに依存しているらしい。それがあっちの戦略だとしたら、大したもんだけどな。

 まあ、放り出されて困るのはこっちなので、従うしかないんだけど。ここで俺を放り出しても、マルトさんたちはまったく困らないわけだし。

 というよりは、むしろ厄介払い?

 だから俺は、とりあえずは何をされても従うしかないのだ。

 水を飲み干して、自分で汲んできてまた飲み干して、を3回ほどやった。その間、案内どころか誰一人として来なかった。

 時間的にもう、昼休みは終わっているはずだ。昼休みがあったとしてだが。

 実際、下の階からはそれなりの喧噪が感じられる。午後の部が開始されているらしい。

 ハロワって、基本的には一日中賑わっているからな。それはこっちの世界でも同じか。

 不安はつのるばかりだったが、俺は待ち続けた。下手すると命がかかっているのだ。ここで焦ってどうする。

 そして、4杯目の水を汲みに行こうかと考えた時、やっと誰かが階段を上がってきた。

 ほっとする反面、チンピラ冒険者だったらどうしようと思って思わず身構えたが、来てくれたのはソラルちゃんだった。

 助かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] やっと誰かが「会談」を上がってきた。 →やっと誰かが「階段」を上がってきた。 の誤記だと思います。 [一言] 誤字報告機能を有効にして頂けると助かります。
[気になる点] 本台21部では「矢島」ですが、別の部では「八島」となっていました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ