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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第一章 俺は顧問で非常勤?
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21.真相?

 あまりの話に呆然としたままの俺を引っ張って、ジェイルくんはアレスト伯爵邸を辞した。

 あの何とかいう人間の執事の人に、待機していた俺の馬車を呼んで貰ってホテルに向かう。

 貴族街を抜けた所で、俺達はお互いにほっとため息をついた。

 ジェイルくんが、何事かを御者に指示してから言った。

「結局、借金の話は出来ませんでしたね」

「それどころじゃなかったしな」

「まあ、とりあえずマコトさんとハスィー様の婚約の了承は得たわけです。

 というより、むしろ先方が押しつけてきたようなものですが」

「うん。

 ギルドへの言い訳には十分だろうね。

 ジェイルくん、連絡をお願い出来ますか」

「了解です」

 二人とも黙った。

 話したいんだが、なかなか言い出せないな。

 ええい、ままよ。

「ジェイルくん、気づいた?」

「何にですか?」

「俺の婿入りをあれほどまでに拒んだ理由だよ」

 ジェイルくんは、肩を竦めて見せた。

「もちろんです。

 あまりにもあからさま過ぎましたからね」

 やっぱり。

 まあ、ハスィーさんの家族だから悪くは思いたくないけど、なあ。

「でも、貴族としては当然のリスク管理ですよ」

 ジェイルくんが、慌てて言った。

「貴族は、家系の存続が何より重要ですから。

 子孫がいて、問題を起こさなければ、今の地位と財産を維持できます。

 それ以外に目的なんかないと言ってもいいかもしれません。

 貴族の本質は、そんなものです。

 あの方たちに、今更商売や現場の仕事ができるとも思えませんし」

 ジェイルくんも言うね。

 そうなのだ。

 アレスト伯爵家って、美形すぎるのだ。

 いや、それはあまり関係ないにしても、多分あの人たちって生活費を稼ぐとか、普通に働くとか、そういうことをやったことがまったくないんじゃないかな。

 実際、代官だったトニさんが若い頃にアレスト伯爵領で働いていたことから判る通り、少なくとも先代からアレスト家は自領の統治を代官に任せていたことになる。

 よって、もはや今のアレスト伯爵家には自領の統治能力すらない。

 それはつまり、自分の力で何とかしようとしても出来なくなっているということだ。

 お金がなくなっても、自分で稼ぐという発想が出てこない。

 ただ、先祖代々の財産を食いつぶすことしか出来ないのだ。

 それでもアレスト領のアガリはあるので、貴族としての体面を保つ程度の収入はあって、何とか暮らしていけている。

「ハスィーさんが異端視されるわけだよね」

「強い娘、という言葉は案外当たっているかもしれません。

 アレスト興業舎を立ち上げて運営するなどということは、あの方たちの理解の範囲外でしょうし」

「それでも、リスクには敏感だよね。

 アレスト興業舎の事業がうまくいけばいいけど、失敗して連帯責任を問われたら、アレスト伯爵位を失いかねない」

 そうなのだ。

 だから、ハスィーさんと俺を極力アレスト伯爵家から切り離しておきたいのだ。

 俺やハスィーさんが大借金を背負った時に、アレスト伯爵家に被害が及ばないように。

 世知辛いなあ。

「いいじゃありませんか。

 マコトさんもハスィー様も、むしろアレスト家というしがらみが外れて、自由にやれるということですよ」

「そう思った方がいいのかもな」

 まあいい。

 前向きに考えよう。

 アレスト伯爵閣下たちも、別に冷たいわけではない。

 むしろハスィーさんについては可愛がっていると思う。

 でなければ、どこでもいいからとりあえず欲しいと言ってきた貴族に嫁にやってしまっただろう。

 また婚約させるにしても、俺みたいなぽっと出の貧乏くさい近衛騎士じゃなくて、もっと大金持ちとか高位貴族とか、いくらでも選択肢がある。

 だが、アレスト伯爵家はハスィーさんの意志を尊重している。

 近衛騎士風情との婚約にも積極的だったし。

 まあ、何か気に障るようなことをしてハスィーさんが怒ったら怖いということもあるのかもしれないけどね。

 それにしても、ああいうシリアスなシーンでラノベみたいな状況になるとは思わなかったなあ。

 政略結婚とか、借金とか。

 ラノベの場合、チート持ちの主人公がドラゴンか何かをサクッと倒して、借金なんかすぐに返してしまうんだよね。

 でも、現実はそんなにうまくいかない。

 金がないのなら、コツコツと稼ぐしかないのだ。

 貴族も大変だな。

 今までに俺が出会ってきた貴族の令嬢や貴族家出身の人たちって、むしろ例外だったのかもしれない。

 特に代官に領地の統治を任せてしまっているような貴族は、みんなアレスト伯爵家みたいになっていると見て間違いない。

 ユマ閣下もラナエ嬢も実家は自分で領地を経営しているみたいだし、だからその令嬢たちも自分の手を汚すことを厭わないのだろう。

 ハスィーさんは、突然変異的な例外なのかも。

 だって、よく考えてみたら誰にも頼らず自力でのし上がった貴族令嬢って、ハスィーさんだけなんだよね。

 まあ、シルさんは規格外だけど。

 ハスィーさんは、ギルドに雇って貰う時には実家の名を借りたかもしれないけど、そこからは実力だ。

 ラナエ嬢にしたってハスィーさんの後押しがなければアレスト興業舎には入れなかっただろうし、入れたとしてもいきなり事務部長職はなかったはずだ。

 ユマ閣下なんか完全に実家の七光り、というのとは違うけど位階や部下まで持ち込みだもんね。

 ハスィーさんが、あの異能集団の中で一目置かれている理由が判るな。

 「傾国姫」の異名は伊達じゃない。

 同時に一人で暮らしているわけも。

 ご家族とは全然話が合わないんだろうなあ。

「ところでジェイルくん、明日はあの、何とかいう商人と会うんだっけ?」

「ムストですね。

 伝言は伝えておきました。明日の昼過ぎに会う予定です」

「そうそう、ムストだった。

 俺はどうする?

 立ち会おうか?」

「いえ、とりあえず私一人で会ってみます。

 マコトさんと一緒だと、商人としての反応が違ってくるかもしれませんから」

 そうなのか。

 あ、俺いつの間にかジェイルくんとの会話で「俺」を使っているな。

 それだけ距離が縮まったのかも。

 アレスト伯爵邸が衝撃だったからね。

 いいことかもしれないな。

「そう言えば、まだ伝えてなかったけど、そのムストに関係があるのかないのか判らないことがあったんだ」

 俺は、あのフレアちゃんのことについてジェイルくんに話した。

 シルさんの妹で正統の帝国皇女であるかもしれないことを含めてだ。

 ムストと何らかの形で繋がっている可能性があるからな。

 それにしても、改めて考えてみたら、本物の帝国皇女が平民の恰好をして(スカートとか履いていたけど)、ソラージュ王都の平民街を平気で出歩いているというのはおかしいのでは?

「そうですね。

 私も父から教わっただけで実際にはよく知らないのですが、貴族の方でもアグレッシブなタイプは割合に平気で外出するらしいですよ。

 お忍びという奴で、それ用の平民服なども用意してあるそうです。

 貴族同士の付き合いだけでは退屈してしまう人も案外多いのかもしれません」

「でも、帝国の皇女がなぜソラージュの王都にいるのかは謎だよね。

 しかもフレアちゃんは、シルさんと違って本物の皇族だろう。

 その辺り、それとなく探ってみてくれない?

 まあ、フレアちゃんも近いうちに俺に接触してきそうだから無理はしなくていいけど」

「そうですね。

 判りました」

 ジェイルくんは頼もしいなあ。

 クルト交易の御曹司ということだけど、やっぱり小さい頃からそういう訓練を受けているんだろうな。

 俺みたいななんちゃって役員と違って、ジェイルくんこそアレスト興業舎の経営に携わればいいのに。

 ジェイルくんは顔をしかめて手を振った。

「やめて下さい。

 私なんか、マコトさんの足下にも及びませんよ。

 経営はセンスです。それに運。

 この2つは生まれつきのもので、鍛えたり伸ばしたりできるものではありませんから。

 そしてその両方を、マコトさんほど豊富に持っている人を私は見たことがありません」

「そんなことはないだろう」

「ありますよ。だから」

 ジェイルくんは、俺の目をしっかりと見つめて言った。

「私はマコトさんについていこうと決めたんです」

 BL?

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