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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第二部 第一章 俺は顧問で非常勤?
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2.民営化?

「誤解しないで下さい」

 ハスィーさんが、慌てて言った。

 よっぽど酷い顔をしていたのかも。

 いや、でもね。

 突然解雇を言い渡されたら、サラリーマンなら誰でもそうなるよ。

「どのみち、そろそろアレスト興業舎とギルドの関係を整理する時期が来てはいるのです」

「つまり、ギルドからの独立ですわね」

 ラナエ嬢、それって無理がありすぎるんじゃ。

 だって、未だに予算を全部ギルドに頼っているんでしょ?

 決済書類を見ているから知っているけど、アレスト興業舎はまだ独立採算でやっていけるほどには儲けてないはずだよ。

 というよりは大赤字。

 毎月、普通の会社だったらとっくに倒産しているくらい損失を出し続けているのに。

 ここでギルドから独立するということは、これまでの運用経費が入ってこなくなるだけでなく、これまで積み重ねてきた赤字が全部のし掛かってくるわけで。

 それくらい、サラリーマンとしてはぺーぺーの俺にだって判るよ!

「しばらく前から準備は進めているんだ」

 シルさんが、まったく気にしていない様子で言った。

「具体的には、資本関係を含めてアレスト興業舎をギルドから切り離す。

 従って人事面でも関係がなくなるから、出向してきている人は元に戻るか、あるいはギルドを退職してアレスト興業舎に就職するということになるな」

 あ、それで俺はギルドの特別職をクビか。

 無能がバレて解雇じゃなくて良かった。

 でも、問題は全然解決していない気がするんだけど。

 アレスト興業舎自体が持っている流動資産なんかほとんどないに等しいだろうし。

 サーカスが流行っているといっても、入ってくる日銭はおそらくまだサーカス自体の必要経費にも満たないだろう。

 ここでギルドの予算が打ち切られたら、あっという間に倒産してしまう。

「それを防ぐためにも、マコトさんには王都に行って貰う必要があるのです」

 ラナエ嬢が言うと、なぜかハスィーさんが顔を伏せた。

 頬が赤らんでいる?

 なぜ?

「ララネル家もぜひ、出資に加わりたいところなのですが」

 ユマ閣下が言った。

「私が司法官職のままでそれをやると、公然たる癒着になってしまいます。

 本当を言えば、司法官を退職してからも一定期間は民間とは距離を置くべきなのですが、それは何とかします」

 この人の場合、本当に何とかするから怖いよね。

 いや、そんなことはいいのだ。

 問題は、ギルドをクビになった俺がどうなるのかということで。

「もちろん、マコトさんは新生アレスト興業舎の幹部としてお迎えしますわ。

 本体の経営とは関係のないところで活躍して頂きます」

 この件に関してはラナエ嬢が仕切っているらしい。

 確かに、ハスィーさんはギルドの執行委員で民間団体の経営には直接関われないし、シルさんは現場担当だ。

 ユマ閣下は言うまでもないとしたら、ラナエ嬢しかいないもんなあ。

 ラナエ・ミクファール舎長。

 うん、いいんじゃないの?

 で、俺はどの辺?

 言っておきますが、俺は何もできませんよ。

 事務も現場も専門技能持ってないし、出来ることと言えば地球のラノベや童話のストーリーを剽窃するくらいかなあ。

 それって技能?

 ラナエ嬢は、なぜかみんなの顔を見てから、言った。

「マコトさんには、非常勤の役員に就任していただく予定です。

 具体的には顧問か相談役ですね」

 良かった。

 クビではないらしい。

 でも顧問、もしくは相談役か。

 役員とは言っても非常勤だし、やっぱり正規職員じゃないんだよね。

 日本の会社だと、株主総会で承認されれば就任できるはずだけど、2年とか3年とかの期間雇用で、実質的な権限はまったくなかったと思う。

 まあ、仕方がないか。

 そもそも王都に行ってしまう奴なんか、これからのアレスト興業舎に役に立つとも思えないし、籍を置いてくれるだけでもありがたい。

「ちなみに、マコトさんにお願いしたいのは経営から離れた部分です。

 兼用可能なので、王都で何をなさるかは自由になります。

 何か新しいお仕事を始めてもよろしいかと思いますわ」

 ラナエ嬢。

 それって、再就職勧告(泣)?

「もちろん違うぞ」

 シルさん、ありがとうございます。

「私やラナエは、しばらくはアレスト市で足場固めと業務拡大に忙しい。

 ハスィー様も同様だ。

 ユマはどうか知らんがな」

「私も、司法官関係の整理でしばらくは動けませんから」

 ユマ閣下もそうですか。

「だから、マコトは王都で別の方向からのアプローチを試して貰いたいんだ。

 何でも好きなことをやればいい。

 出来る限りのバックアップはする。

 失敗してもいいぞ。

 ヤバくなったら逃げてこい。

 匿ってやる」

 シルさん、あなたは俺のことを何だと思っているのですか。

 もう何も言いたくないです。

 判りましたよ。

 つまり、俺は王都に行って何でも好きにやっていいんですよね?

「こちらからお願いして、いくつかやっていただくことがあるかと思いますが、基本的にはマコトさんの思う通りでいいですよ」

 ユマ閣下が意味ありげに付け加えた。

「そもそも、私たちはマコトさんを支援するために存在しているんですから」

 また意味不明なことを。

 生活費を支援してくれるのなら嬉しいけど、それだともう駄目なニートなのでは。

 あ、そういうことか。

 俺ってララネル家の近衛騎士じゃないか!

 つまり、ララネル家から俸給が出るんだ!

 ギルドをクビになっても、アレスト興業舎の非常勤役員になって今までより給料が少なくなっても、近衛騎士の収入だけでやっていけるんだよ!

 凄い。

 事実上何もしないで、毎月かなりの収入が保証されているのか。

 適当に作ってネットにアップした動画がウケて、定収入があるようなもんだな。

 もう、自宅警備員でもいいくらいだけど、やっぱりそうはいかないか。

 近衛騎士が引きこもっていたら、ララネル家がどうとか言われそうだし。

 つまり、当たり障りのない程度に、何か社会的に有益なことをやっているように見えればいいんだ。

 アレスト興業舎の非常勤役員も立派な仕事という気もするけど、何やっているのか判りませんではやはり通用しない。

 それより、王都で観光とかしつつ、いかにも新規の事業を企画しているようなふりをしていればいいと。

 うーん。

 美味しすぎる話に聞こえるけど、何か罠があるんだろうなあ。

 でもどうしようもない。

 俺が選べる問題じゃないしな。

 ここはひとつ、素直に従うべきだろう。

「判りました。

 王都で何ができるか、観光しながら考えてみようと思います」

 俺が言うと、全員がほっとしたように笑った。

 何で?

 俺が逆らえないことくらい、判っているでしょうに。

「ではそういうことで、マコトさんの承認も得られましたので、アレスト興業舎の民営化を進めたいと思います。

 よろしいですね?」

 ラナエ嬢が言うと、俺以外の全員から賛成の声が上がった。

 何で、俺が承認したことになっているの?

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