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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第八章 俺が警備隊の名誉隊長?
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18.事業展開?

 やると決まったはいいけど、フクロオオカミが足りない状況ではいかんともし難い。

 結局、警備隊からの要求に応じられるようになったのは、それから2週間ほどたってからだった。

 その頃になると、アレストサーカス団の予約入場制度もすっかり周知されていて、お客さんは都合の良い日の入場券を買って来てくれるようになっていた。

 この方法ならこっちで入場者数をコントロールできるので、用意する弁当の数などをあらかじめある程度は確定できることになる。

 それに、昼食に加えてお茶と軽い食事のサービスを始めたところ、これがウケた。

 考えてみれば、入場する時は家族連れだが、はしゃいで走り回るのは子供だけだ。

 親たちは早晩体力が尽きてダウンするわけで、ゆっくり休めて軽く飲食できるスペースは貴重だ。

 最初は申し訳程度に設置したのだが、あまりの人気に急遽サーカスの敷地の一部にテントを張って、そこにテーブルと椅子を並べたら毎日満員の盛況になった。

 サービスのつもりで料金を安くしたのが良かったのかもしれない。

 ついでに迷子案内所をそこに設けることで省力化を図る。

 いや、最初は一度に十何人も迷子が出て大変だったらしいのだ。

 俺もすっかり忘れていたけど、こういう広い敷地だと必ずはぐれる子供がいるからな。

 後は、入り口のそばに案内所兼用の物販所を置いたら、これもウケた。

 お客さんにとっては観光地だということを思いついて、急遽作ったフクロオオカミの木彫りの像とかアレストサーカス団の記念ペンダントみたいなものを並べたら、飛ぶように売れた。

 それをラナエ嬢が見逃すはずもない。

 アレスト興業舎で雇用している皆さんのうち工作が上手な人がかり集められ、せっせと土産物を作る毎日である。

 例の帝国の難民の人たちは、もともと村人で色々なものを自作するのに慣れているためか器用な人が多く、アレスト興業舎に工作班が立ち上がるとすぐにそこに配属になった。

 また、物販所に記念品以外の物も置いてみたところ、これがまたよく売れているらしい。

 何気なく見てみたら、隅の方に絵本が並んでいて、その中に「傾国姫物語」があった。

 パラパラとめくってみると、あの劇を絵本化したもので、いつの間にこんなものを作ったのか。

「よく売れています」

 さりげなく俺の後ろに立っていたラナエ嬢が言った。

 何だよ、その黒い顔は。

「高価なものなので、特別券で入場なさった方にお勧めしているのですが、まず例外なくお買い上げ頂いております」

「でも、これは」

「もちろん、ハスィーには内緒です。

 いずれは発覚するとは思いますが、出来るだけ長く引っ張りたいと思いますので、舎長代理も気をつけて下さいませ」

 判りましたよ。

 知らなかったことにします。

 ハスィー様が知ったら間違いなく卒倒するだろうし。

 俺は、黙って本を置くとその場を離れた。

 ハスィー様、申し訳ありません。

 俺のせいじゃないので、そこの所をよろしく。

 そんなこんなで定休日がやってきて、リーダー以上は朝から集まって会議である。

 知らなかった。

 経営幹部って、土日がないんだね(泣)。

「今、サーカス課では新しい劇を計画中です」

 事務部長のラナエ嬢が報告していた。

「例の絵本の売れ行きが予想以上に伸びていますので、今後はフクロオオカミの劇をそのまま絵本化したシリーズを同時製作していくことを計画しています」

「そのことなんだが、フクロオオカミの増員が早急に必要だ」

 とシルさん。

「また、フクロオオカミ以外の野生動物からの雇用要請が来ている。

 試験的に受け入れたいが、どうだろうか」

 ハスィー様がいないので、ここでは俺が責任者として決断しなきゃならないんだよね。

 うん、いいよ。

 どうせやるのは俺じゃないし。

「進めて下さい。

 資材や人員は足りますか?」

「宿舎や食事くらいかな。

 その都度、予算申請するのでよろしく」

「了解ですわ」

 シルさんとラナエ嬢のキャッチボールになっている。

 俺はトリガーを引くだけか。

 経営者って、何か決めたら後は何もすることがないんだよ。

 実務がよく判らないので、そういうのは全部部下に任せてしまうのだ。

 シルさんもラナエ嬢も楽しそうだな。

 いいなあ。

「アレスト興業舎の事業事案はここまでです」

 ラナエ嬢が姿勢を正した。

「次の議題はギルド警備隊からの出動要請ですが、これ以上引き延ばせないところまで来ています。

 シル部長、フクロオオカミのスケジュールに余裕はありますか」

「余裕は、もちろんない」

 シルさんはあっさり言った。

「だが、こっちの都合でいつまでも誤魔化しているわけにもいかないだろう。

 次の定休日、フクロオオカミたちには悪いが出動して貰う」

「警備班も出勤になりますが」

「当然です。

 もともと我々の仕事ですから」

 ラナエ嬢の問いに、それまで所在なげに座っていたマッチョのフォムさんが勢い込んで答えた。

 隣に座っているサブリーダーのスラウさんも頷いている。

 この癒し系のお姉さんは、あまり自己主張することがないんだけど、シルさんによれば騎士団のロッドさんと同じくらいフクロオオカミにハマッているそうだ。

 出向してきて来てすぐ、警備隊を辞めてアレスト興業舎に入るというのを、事業部総掛かりでやっと止めたらしい。

 ハマる人が多いな。

 というよりは、ハマりそうな人が来たというべきか。

 最初から興味がない人は、そもそも出向して来ないからね。

 フォムさんが口ごもってから言った。

「ですが、間違いなく何かあります。

 チチとミルロに何か被害が及ぶのではないかと心配です」

 チチとミルロって、警備班に所属しているフクロオオカミだったっけ。

 警備班のフクロオオカミは増員されていないんだよね。

 それでなくてもアレスト興業舎のリソースをサーカスに集中してしまっているので、警備班は蔑ろにされているような気分なのかもしれない。

 でも、チチやミルロも助っ人としてサーカスには出ているんだけどね。

 立ち上げは総力戦だから。

 俺は、知らないうちに立ち上がっていた。

「フクロオオカミは間違いなく守りますから、安心して下さい」

 俺、時々誰かに身体を乗っ取られるんだよな。

 それでいて、責任取るのは俺なんだもんね。

 まあ、いいけど。

「……ありがとうございます」

 フォムさんはいかつい顔を綻ばせて言った。

 隣のスラウさんも、しきりに頷いている。

 しょうがないな。

 ぺーぺーのサラリーマンが出来る限りは、やりますよ。

 次の定休日、俺はアレスト興業舎の儀礼用上級職制服に身を固めて出勤した。

 これは前にラナエ嬢が導入した、アレスト興業舎独自の一般服(上級職用)に、ちょっとした飾りや紋章をつけたものだ。

 野外作業服だが、デザインや造りは凝っていて、それなりの風格がある。

 ギルドの服よりはずっといいので、最近は何かある時はこれを着ている。

 アレスト興業舎の正装といえるこの服を着たのは、本日いよいよフクロオオカミを擁するアレスト興業舎警備班が、ギルド警備隊との合同訓練に参加するからだ。

 当然、俺も参加する。

 訓練内容は、警備隊側の希望でアレスト市内の巡回に決まった。

 こちら側のまだ早いという抗議は受付られなかったらしい。

 サーカスでかなり広まっているとはいえ、アレスト市内ではフクロオオカミを見たことがない人が大部分だからなあ。

 いきなり体長3メートルの野生動物を持ち込んで、群衆がパニックになるかもしれないのに。

 だが、警備隊は一切の反対を受け付けなかったようだ。

 絶対、何かやる気だな。

 であれば、こっちも受けて立つまでだ。

「マコトの兄貴!」

「ご苦労様です」

 警備班のエリアに行くと、フクロオオカミのチチとミルロが迎えてくれた。

 二頭【人】とも、警備班が開発した装備をつけている。

 これはなかなかよく考えられていて、市内用と市外用があると聞いている。

 サンダー○ード2号みたいに、出動する場所によって装備を変えるらしい。

 今回は、比較的軽めの袋をいくつか背負っているだけだった。

「一応、想定される状況に合わせて装備を選びました」

 フォムさんが言った。

 こちらは警備隊の制服だ。

 特にアレスト興業舎特有の警備班の装備はないらしい。

「舎長代理、お願いします」

 スラウさんが頭を下げた。

 もちろんですよ。

「よおし。

 では警備班のフクロオオカミに命令する」

「ハイ!」

「俺の命令に従え。

 俺以外の命令には従わないこと!

 判ったか?」

「了解です!」

 大丈夫だよね?

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