表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第八章 俺が警備隊の名誉隊長?
156/1008

12.組織改編?

 それから俺とフォムさんは、当たり障りのない話をしてから解散した。

 フォムさんに先に店を出て貰って俺が会計しようとしていると、いつの間にかそばに立っていた教団の人に、奥の部屋に引き込まれたんだけどね。

 久しぶりにラヤ僧正様とお会いして、あれこれと近況をご報告してから、例の帝国の難民について判った情報をお互いに交換した。

 あの難民の大半は、教団の熱心な信徒で帝都から避難してきた人だったそうだ。

 別に帝国が教団を迫害しているというわけではないけど、利害が一致しない一部の勢力から色々と難癖つけられて、最後には反乱を企んだとか言いがかりをつけられて投獄される所だったとか。

 それを察知した教団が、いち早く対象者を逃がしたんだけど、敵対勢力はコネを使ってレストルテ領主に取り入って、逃げた人たちを捕らえようとしていたらしい。

 そこに、別件で反乱の嫌疑をかけられた例のリナ姫様が巻き込まれて、有耶無耶の内に指名手配されてしまい、仕方なく一緒に逃げたということだった。

 シルさんの知り合い、というよりは忠臣だった人、言われて思い出したけどハマオルさんは、もともと教団の熱心な信者だそうだ。

 教団からの依頼で、みんなを逃がすために帝国の警備隊を退職して同行していたと。

 もちろん領主に逆らうつもりなんかまったくなかったんだけど、行きがかり上仕方なくリナ姫様を含む反乱容疑者たちの集団の指揮を執っていたらしい。

「教団の者は、こちらで引き取って別方面に逃がしました。

 ハマオルは残りましたが」

「はい。

 ハマオルさんはシルさんの下で働きたいということで、アレスト興業舎に入舎しました。

 今はサーカス班で仕事して貰っています」

 実際には、ホトウズブートキャンプのトレーナーと化しているんだけどね。

 もっともホトウさんが言うには、自分のキャンプを卒業した人は、次にハマオルズブートキャンプでより高度な技能を身につける必要があるそうだ。

 ただ、そこまで行ける人はあまりいないとか。

 何せ、ハマオルさんは本格的な剣士であり、戦闘・護衛のプロらしいのだ。

 帝国中央護衛隊って、つまりそういう部隊なんだと。

 シルさんによれば、純粋な戦闘技術や護衛の能力では自分を遙かに凌ぐ達人らしい。

 シルさんの剣の師だからね。

 そんな人がアレスト興業舎に加わってくれるのはありがたいんだけど。

 でも、どうもハマオルさんは帝国にいる同僚を呼び寄せているらしいのだ。

 シルさんに仕えたい人が、まだたくさんいるとかで。

 あの時ちょっと触れたけど、シルさんが出入りしていた帝国の中央護衛隊や官僚の中に、シルさんに心酔している人がまだ大量に残っているらしくて。

 そういう人たちは、シルさんが行方不明になってからずっと心配していて、見つかったらその旗の下に駆けつけると誓っているそうだ。

 大丈夫かなあ。

 このままでは、下手するとアレスト興業舎って何か別の集団になってしまうかもしれない。

 まあ、いいけど。

「そういえば、帝国の姫君はどうなりましたか?」

「リナ・レストルテ様ですね」

 後で聞いたら、姫君と言ってもレストルテ領の領主の娘だからそういう言い方になるだけで、実際の貴族の格としてはソラージュでいうと子爵とかその辺りだということだ。

 領地的には大したことがなくて、アレスト市とどっこいどっこいらしい。

 でも、帝国は成立する前は王・公国だったり自治領だったりして、格式だけは高い領地が多いそうなので、帝国貴族令嬢の呼び方は「姫君」になるとか。

「ハスィー様とラナエ嬢に説得して頂いて、とりあえずユマ様の庇護下に入りました。

 今はどこにいらっしゃるのか、私にも判りません」

 なぜユマ閣下ではなくユマ様なのかというと、司法官として関わったわけではないからだそうだ。

 つまり、ララネル公爵名代の客として扱うらしい。

 リナ姫様は、お付きの人たちと一緒にどこかに匿われているとか。

 まだ油断は出来ないということで。

 多分アレスト市を出てはいないとは思うけど、どこにいるのかは俺も知らない。

 尚、巻き込まれたレストルテ領の村人たちは、行く当てがある人を除いたほとんどを、アレスト興業舎で引き取った。

 仕事はいくらでもあるからね。

 みんな、とりあえず現金収入が出来て喜んでいるらしい。

 今後は判らないけれど。

 そういうことを話してから奥の部屋を退出すると、やはりウェイターさんにご会計済みです、と言われた。

 嬉しいんだけど、やっぱ俺って教団にストーカーされているんじゃないのか。

 まあいいや。

 アレスト興業舎に帰ると、そこは戦場だった。

 実は、オープンが近いのだ。

 もちろんサーカスの。

 ギルドのニューイヤーパーティでの余興が認められて、いよいよサーカスの開団許可が下りたんだよ。

 場所はアレスト興業舎の隣の広大な空き地だ。

 そこも、実はギルドが塩漬けにしていた遊休地で、この度正式にアレスト興業舎に譲渡されて、常設のサーカス会場として使われることになったんだよね。

 シルさんが総責任者に就任し、サーカス班は正式にサーカス課に格上げされた。

 その中に、演劇係とか軽業係とかフクロオオカミ係とか、よく知らないけど色々と出来て動いている。

 一気に規模を拡大したために、もう俺なんかでは把握出来なくなってしまっているんだよ。

 リーダーというか、係長クラスがどっと増えて、アレスト興業舎内を歩くとまったく知らない人たちが挨拶してくる。

 女性は大丈夫なんだけど、男は覚えられずに困っているんだけどね。

 向こうは俺のことを舎長代理というよりはアレスト興業舎の事実上のトップとして扱ってくるんだけど、俺は業務どころかそれをやっている係長クラスの名前も顔も判らないんだから。

 社長の苦労が判った気がするなあ。

 俺の会社でも、時々廊下なんかで社長とすれ違ったりすることがあったんだけど、俺が挨拶しても曖昧な笑顔で頷くだけだったもんな。

 あれ、絶対俺のことを知らない顔だった。

 入社2年目のぺーぺーを全部覚えられるはずがないのは判っていたけどね。

 でも、相手はこっちを知っているわけで。

 自分がその立場になって、初めてあのアルカイックスマイルの意味が判ったよ。

 だから、俺も社長を見習って曖昧な笑顔で軽く頭を下げたりして凌いでいる。

 それで何とかなるんだから、いいではないか。

 実際の業務は他の人がやってくれるし、俺はシルさんやラナエ嬢から話を聞いたり、上がってくる報告書を読めばいいわけだし。

 でも、まだ難しい報告書は読めなかったりして。

 ただ数字は判るので、予算と経費がとてつもない額になっていることは把握している。

 知らないふりをしているけど、ハスィー様、本当に大丈夫なんでしょうか?

「ヤジマ舎長代理、こちらにおられましたか。仕事が溜まっておりますので、お願いします」

「……はい」

 アレナさんに見つかってしまった俺は、舎長室に連行されて書類のサインを強要されるのであった。

 もう慣れたけどね。

 それに、書類仕事はきついけどフクロオオカミに跨って山を登ったりするよりはずっと楽だ。

 そういえば、郵便班も正式に郵便課に昇格した。

 ロッドさんは騎士団からの出向のまま、課長に就任して張り切って働いている。

 本当は、他の組織に所属したままで管理職は出来ないはずなんだけど、ユマ閣下がうまくやったらしくて、郵便課は騎士団の組織外組織として認められたらしい。

 もちろん所属自体はアレスト興業舎だが、そこに所属する人員は騎士身分のままアレスト興業舎の舎員として登録できるようになったとか。

 そうしないと、ロッドさんが強引に騎士団を辞めてしまいそうだったらしいのだ。

 ユマ閣下も、ここで騎士団長の機嫌を損ねるのはまずいと判断して動いたらしい。

 そこら辺は、法的な操作らしいのでよくは知らない。

 ユマ閣下がいいようにしているので、任せてしまっている。

 俺の立場なんか、そんなもんだよね。

 実際、俺の身分は未だにギルドのプロジェクト次席で、給料はギルドの特別職員として出ているんだもんな。

 人のことは言えないって。

 警備班は、まだ班のままだ。

 警備隊との関係が、いまいちうまくいっていないためで、だからフォムさんも苦労しているらしいんだけど。

 でも、それも今回の茶番で何とかなるはずだ。

 珍しく、俺が役に立ちそうなのだ。

 アレスト興業舎舎長代理という立場って、そのくらいしか使いようがないみたいなんだよなあ。

 まあ、操り人形だね。

 パペットでもいいから、給料分の働きはしなくては。

 で、何するのか実はよく判ってないんだけど、ユマ閣下大丈夫だよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ