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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第八章 俺が警備隊の名誉隊長?
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4.警備隊の問題?

「ユマもその辺で止めておけ。

 嫌われるぞ」

 シルさんが言ってくれたので、ユマ閣下は素直に謝ってきた。

「ごめんなさい。

 つい調子に乗ってしまいました」

「いえ、いいんですが」

「そもそも、ユマの話では代官から『相談したいことがある』ということだろう?

 別に文句をつけようという話じゃない」

「そうですよね。

 つい過剰反応してしまいました」

 俺がへらへら笑ってみんなを見回すと、ハスィー様が何か思案するような顔つきで視線を遊ばせているのが見えた。

 何だ?

 お気に障るようなことを言ったっけ。

 そういえば、さっきから一言も口をきいていらっしゃらないな。

「ハスィー様、何か」

「あ、いえ。

 考えていたのですが、警備隊の方から少し上がってきた話があったような覚えがあるので」

「警備隊?

 そういえば、代官自身じゃなくて警備隊の話だと言ってなかったか?

 ユマ」

「そうですね。

 だから司法官や騎士団とは無関係ということで、私の方にも情報が上がってこなかったのですが。

 警備隊からも出向してきている人がいるのでしょう?

 ラナエ」

「警備班ですわ。

 でも、アレスト興業舎内では特に問題と言えるようなことは……ああ、ひょっとしたらアレのことでしょうか」

「ラナエ部長、心当たりがあるのか?」

 どうも、俺をそっちのけで話が進んでいるようだ。

 こういう時は貝になってじっとしているに限る。

 女性たちの会話に加わるなど、男には不可能だからな。

 これは、地球でもこっちでも同じ、大原則だ。

 あ、今思い出したけど、こっちでも地球は『地球』と言う名前になる。

 それはそうだよね。

 何とか星とかいう名前は、よその星に住んでいないと出てこない言葉だ。

 自分が住んでいる惑星の名前を直訳すると、やっぱり地球になるよね。

 だから、俺が地球という時は日本がある方の地球で、こっちは「こっちの世界」といういい方になる。

 ということは、まだ俺は自分を日本人だと、じゃなくて日本がある方の地球人だと思っているわけだ。

 多分、それは一生変わらないだろうな。

 俺がぼやっと夢想にふけっている間にも、議論は続いていた。

「警備班から、最近フクロオオカミの舎外運用申請が多数出ているのです。

 最近では、毎日のように上がってきています」

「それは郵便班でも同じなのでは」

「郵便班は、既に実用試験を経て仮運用に入っています。

 そうでしたわよね? ユマ」

「はい。

 騎士団の一部部隊が、市街地の外でですが、アレスト興業舎の郵便班と共同で警邏などを行っています。

 結果が良好なら、近いうちに正式運用に移行することになるでしょうね」

 もうそんなところまで行っていたのか!

 凄いなロッドさん。

 ひょっとしたら前に言っていた通り、1年以内にフクロオオカミを加えた騎士団業務の本稼働が可能になるかも。

「話は逸れるが、ここで報告しておく」

 シルさんが口を挟んだ。

「サーカス班は、ひと月以内にアレスト興業舎の隣の土地で、サーカスの本稼働を行う予定だ。

 現在、出し物の最終確認と試演を行っている。ギルドへの申請は済んでいますよね? ハスィー様」

 シルさん、ハスィー様には「様」付けなんだよね。

 確かにアレスト興業舎の上司ではあるんだけど。

 直属の上司であるはずの俺は呼び捨てなのに。

 まあいいけど。

「はい。受け取っております。

 プロジェクトの審査は完了して、現在ギルド評議会で根回し中です。

 わたくしの感触では、問題なく通ると思いますよ」

「ありがとうございます。

 司法官閣下はどうだ?」

「大丈夫ですよ、シルレラ。

 特に違法性は認められません。

 というよりは、前例がない事業ですので判例が見当たらず、適法かどうかすら確認できない状態です。

 まあ、仮運用という形でしばらくは回して下さい。

 アレスト興業舎の実績を元に、法律が制定されることになると思いますよ」

 色々やっているんだなあ。

 俺の知らないところで。

 ていうか、やっぱりここって夕食会じゃなくて業務報告とか事態認識を共有するための会議になってしまっているのでは。

 ビジネスディナーとか。

 実際、今シルさんが言ったサーカスとか、フクロオオカミと騎士団の共同運用とかは、正式なルートを通る前にこっちで予め根回し済みだもんね。

 司法当局と行政の幹部が民間企業と癒着しているのだ。

 独占禁止法とか何とかにひっかからないのか?

 まだ、こっちにはそういう法律はないか。

「ということで。

 済まないな、マコト。

 話が逸れた」

「それはいいんですが。

 で、その警備隊の問題というのは?」

「いえ、問題ということではなくて、そろそろフクロオオカミと警備隊の関係が進展する時期なのではないかと。

 警備隊はギルドの所属ですが、指揮権は代官にありますから、何か決める場合は代官の決裁が必要ですので」

 ああ、なるほど。

 ユマ閣下が俺を呼び出したのと同じ事か。

 あの時は、アレスト興業舎で雇用しているフクロオオカミを、騎士団の作戦に緊急に使いたいということだったっけ。

 俺は、ふと思いついて尋ねてみた。

「そういえば、警備班の運用テストはどこまで進んでいるんでしょうか」

 本当なら、舎長代理たる俺が一番に知っておかなければならないことなんだけどね。

 で、舎長たるハスィー様にご報告申し上げるのが仕事のはずだ。

 何という無能なのだ俺は。

 でも、俺としてはあまりみんなの仕事に割り込みたくないんだよね。

 俺なんかいなくても上手くいっているみたいだし。

 というより、俺が現場に出たら邪魔? という雰囲気すらある。

 だから、ラナエ嬢やシルさんから上がってくる報告を聞くだけで満足していたんだけどね。

 この二人が二人とも、独断専行の体現者だからな。

 ラナエ嬢もシルさんも、俺を情報遮断した前科があるし。

「事務班としては、予算くらいしか把握出来ておりません。

 特に突出した所もなく、何か新しい事を始めたような感触はありませんが」

「事業部としても、特にないな。

 警備班はフォムに任せておけば大丈夫だと考えている。

 奴は、そうは見えないかもしれないが実に深慮遠謀が出来る男だ」

 ああ、警備班のリーダーの名前ってフォムさんだったっけ。

 この夕食会の間だけでも忘れないようにしないと。

「正直言うと、サーカスの開園準備で忙しくて、それどころじゃないんだ。

 すまないな、マコト」

「いえ。本当なら私が確認すべきことですから」

 でも、事務部門も事業部門も特に問題を認識していないとしたら、一体何なのか。

 というよりは、そもそも警備班に問題はあるのか?

 代官の問題じゃないのか。

「あの、アレスト市の現在の代官って、どんな方なのでしょうか」

 まさか、また美少女とか、ハスィー様たちの同窓生とかじゃないよね?

「トニ・ローラルトという方です」

 ハスィー様が言った。

「お父様の古くからの知り合いで、わたくしも幼い頃から存じ上げております。

 今回アレスト市の代官として赴任されたのは、先々代の領主代行官の補佐としてアレスト市におられたことがあって、領地のことをよくご存じだということもあるかと」

 ちなみに、ローラルト男爵家の次男でいらっしゃいます、とハスィー様は付け加えた。

 そうか、貴族か。

 いや違った。次男ということは、爵位は継いでないわけだ。

 ラノベでもよく出てくるけど、ということは地球の実際の歴史にもあるけど、貴族家は大抵長男が爵位を継ぐわけで、次男以下は平民扱いになる。

 次男は大抵の場合、万一長男が継爵する前に亡くなったり、あるいは跡継ぎを残さずに死んだりした場合の予備要員として扱われることになる。

 スペアだから平民扱いだけど、いつ貴族になるかもしれないという不安定な立場だ。

 上手く(違)代理人の役目が回ってくればいいけど、駄目だったら平民として一生を過ごすわけで。

 長男の予備だからといって実家でゴロゴロしていていいわけではなく、やはり何らかの仕事につかなければならない。

 手に職をつけておかないと、万一の場合は高齢ニートになってしまうかもしれないからな。

 いやいずれにしても、長男に跡継ぎが出来て継承問題が解決したら、実家を出て行けということになるわけだ。

 従って、この代官の人は行政省とやらに入って順調にキャリアを積んだんだろう。

 そして、下っ端として働いたことがあるアレスト市に、今度は代官となって戻ってきたと。

 前にハスィー様が「現在の領主の屋敷は代官が使っていて、自分がそこに住むと誰かに出会う度に最敬礼されるのでウザい(意訳)」と言っていたけど、それか。

 それはそうだろうな。

 領主のご家族を昔から知っていて、ハスィー様など幼い頃からご存じなんだから、成長したお美しいご令嬢と出会ったら、それは最敬礼したくもなるというものだ。

 俺なら土下座するね。

 で、繰り返すけど何でその代官が俺に会いたいと。

 何で?

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