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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第一章 俺は不法入国の外国人?
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12.インターミッション ~コルカ・マルト~

 マルトは、とりあえずの雑事を片付けると身振りで腹心と娘を誘った。

 執務室に入り、ドアをきっちり閉める。商隊が着いたばかりで、みんな出払っているはずだか、念のためだ。

 自分の椅子に腰を下ろし、目の前に腰掛けた二人を見る。

 娘のソラルは、まだ少し動揺しているようだった。印象が混乱しているのだろう。

 腹心のジェイルは、穏やかな表情でこっちを見返した。こいつは大丈夫そうだ。

 今のところ、完全に信用できるのはこの2人だけだ。だが、すぐにでも連絡しなければならない相手が何人かいる。

「で、どう思った?」

 とりあえず娘に聞いてみると、心ここにあらずといった表情を浮かべる。

「まだ、信じられない。どうやってあの障壁を無視できたの? 私なんか、近寄ることもできなかったのに」

 あの禁忌か。

 仕方がなかったとはいえ、娘には酷だったかもしれない。あの時は、追ってきているのが何物なのか判らなかったからな。

 視線でジェイルを促す。

「そうですね。スウォークの喉切りは禁忌です。通常の相手なら、どう考えても追跡を断念したはずです。だが、通常の相手ではなかった」

「彼と同席させた連中から、何か聞き出せたのか」

「大したことは。ですが、この辺りの地政に関する圧倒的な無知、未知の概念を問わず語る様子、そして平常心」

「『迷い人』か。禁忌など無視するわけだ」

 マルトは宙を見上げて考えを整理した。

 重要すぎるアレを移送中に、後ろから追ってくる者がいると、見張りから報告があった。

 始末することも考えたが、この時期に荒事はまずい。だから、禁忌であるスウォークの死骸、それも異端の喉切りを道の真ん中に放置して進んだ。

 だが、追跡者は無視して追ってきた。

 相手は徒歩なので、荷馬車の速度を上げて振り切ろうと考えたが、よりによって馬車の一台の車軸が折れてしまったのだ。

 大急ぎで修理させたが、直る前に追いつかれそうだった。

 別の荷馬車に移そうにも、それだけの余裕がある馬車がない。

 事が露見するのを覚悟で追跡者を切り捨てようとしたが……一足先に追跡者を確認しに行った娘が気になることを言い出した。

 尋常な相手ではない、と。

 自分で見て確信した。

 これは、通常の対応で済ませて良い状況ではない。対処を間違えると、とてつもない禍根を残す可能性がある。

 危険は大きかったが、受け入れて懐柔することにした。

 幸い、とりあえずは危険もしくは敵対する相手ではないことは判った。

 水を向けてみると、思った通り『迷い人』だった。今回の荷と無関係であることも間違いないだろう。

 だが、『迷い人』というだけで別の危険がある。彼にはぼやかして伝えたが、過去には『迷い人』の対処を誤って、国レベルで災害が発生したこともあったのだ。

 ギルドの評議員として、マルトはそれを知っていた。

 彼を放置するなど問題外だ。

 マルト一人の判断でどうこうできる問題でもない。

 緊急に、しかるべき立場の者に伝えて、対策を協議する必要がある。

 だが、これがマルト商会にとって、とてつもないビジネスチャンスであることも確かだ。

 うまくやれば、ギルド内部での発言権どころか、国政レベルでの影響力にも手が届くようになるかもしれない。

 そういうことだな。

 マルトは、にんまりと笑みを浮かべた。

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