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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第七章 俺の副業は近衛騎士?
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5.同窓会?

 多少トウが立っているとはいえ、若い女性が司法官閣下とは。

 まあ、こっちの世界では性別や肉体年齢と階級はあまり関係がないからな。

 ハスィー様やラナエ嬢だって、十代で大きな組織の幹部やっていらっしゃるし。

 でも、この人が司法官というのはちょっとないんじゃないか、と思いながら、俺はソファーに座っていた。

 ちなみに、ここは司法官事務所の奥にある応接室だ。

 大きな窓から中庭が見える。

 さすがに政府の高官ともなると、オフィスも立派だな。

 ソファーの中央には大きくて高級そうなテーブルがあって、全員分の飲み物が出ていた。

 テーブルを挟んで反対側には、ユマさんと紹介された司法官閣下が座っておられる。

 その隣にはお目付役らしく、偉丈夫がピシッとした姿勢で控えていた。

「司法補佐官のノール・ユベクトです」

 短く自己紹介した以外は、一言も口をきかずに目を閉じている。

 この主従、どうみても外見上は司法官閣下と女性秘書なんだけどね。

 実際には立場が逆だ。

 俺の方は、なぜか座っているのは俺だけで、ロッドさんは言うに及ばずシルさんやラナエ嬢までソファーの後ろに立っていた。

 何か作法があるのかもしれない。

 ユマさん、いやユマ閣下はさっきのおどおどした態度とは打って変わって、テキパキと話を進めていた。

 といっても、手元にある書類を見ながら質問してくるだけで、俺が答えられるものなら答えるし、判らなければ後ろに控えている誰かが即座に俺の耳元に囁いてくれるので、まごつく暇もなかった。

 それにしても、質問は多岐に及んだ。

 司法官事務所は、アレスト興業舎について結構詳しく把握しているようだった。

 もちろんそのデータは個々の舎員にまでは及んでいないが、組織構成や目標、現時点での進行度、フクロオオカミの雇用や街の悪ガキ共を採用して私兵化している所まで掴んでいるのには感心させられたな。

 ノールさんは司法補佐官と名乗ったけど、この人がさっきのロッドさんの話に出てきた、複雑で重大な要件を扱う特捜官なのかもしれない。

 いつどうやって、これだけの情報を集めたのかは判らないけど、司法官事務所が侮れない組織であることはよく判った。

 やっぱ、出来るだけ逆らわず、絶対に敵対しないようにしよう。

 特に俺個人は。

 尋問、じゃなくて質問は結構長く続いたが、ついにユマ閣下が書類を揃えながら言った。

「……はい。

 間違いないようです。

 司法当局はアレスト興業舎の活動について合法かつソラージュにとって有害ではないことを確認しました」

 疑われていたのか。

 まあ、形式上のことなんだろうけどね。

 そこら辺は、ハスィー様やラナエ嬢が手を抜くはずがない。まして、騎士団からロッドさんたちが出向してきているのだ。

 何か問題があれば、もっとずっと前に乗り込まれるか、是正要求が来るなりしていたはずだ。

 やれやれ。これで終わりか。

 そう思って腰を浮かせかけた俺だが、突然ノール司法補佐官が目を開いてユマ閣下を伺うような仕草を見せた。

 ユマ閣下が頷くと、ノール司法補佐官は立ち上がりながらロッドさんに声をかける。

「ナムルキア・ロッド正騎士。

 騎士団のことで伝えることがある。

 別室へ」

「了解です」

 ロッドさんも緊張した面持ちで即答すると、二人は機械式の人形のような動作で一列になって出て行ってしまった。

 ロッドさんも、ああいうことが出来るんだなあ。

 いつもボロボロの作業着でフクロオオカミと戯れている姿しか見ていないので誤解しがちだが、ロッドさんもちゃんと叙任を受けた正騎士なのだ。

「座ってくださいな」

 突然、ユマ閣下が言った。

 いきなり口調が緩くなったぞ。

 これでは軽小説(ラノベ)だ。

 驚いたことに、ラナエ嬢とシルさんが、それぞれため息をつきながらあっさりと俺の両側に腰掛けてきた。

 何これ?

「マコトさん、公式会見は終わりましたのよ。

 ここからは、プライベートな場となります」

 ラナエ嬢が言うと、シルさんも返す。

「やれやれ。

 変なところで会うな。

 ユマ」

 え?

 シルさん、知り合いなの?

 ユマ閣下は、力を抜いてソファに寄りかかっると、目の辺りを揉みながら答えた。

「私も予想外ですよ、シルレラ」

 何か、さっきと全然違うよ!

 おどおどした受付嬢でも、毅然とした司法官閣下でもなくなっている!

 よく知らない友達に誘われて女子会に出てきたOLみたいだ。

 そこで、久しぶりに思いがけない相手と出会った状態か?

 いや、俺は女子会に出たことはないけど。

「司法官なのにか?」

「そうですね。

 ラナエのことは把握していましたが、あなたがアレスト市にいることは知りませんでした。

 司法官失格かも」

「まあ、仕方ないだろう。

 私はここではシル・コットで通している。

 冒険者、いや今はギルド配下のアレスト興業舎の舎員としてだ。

 別に名簿を提出しているわけでもないから、個々の職員なんか把握できるはずがない。

 しかしソラージュの司法当局にも知られていないとは、私もうまくやったことになるわけだな」

 シルさんまで!

 何、みんなどうしちゃったの?

「シル部長もユマも、いい加減になさい。

 マコトさんが困っていらっしゃいますわよ」

 ラナエ嬢が助けてくれた。

 ユマ閣下は、身体を起こすと俺に向かって頭を下げた。

「申しわけありませんでした。

 つい、仲間内の本音が出てしまって。

 そういう意味ではヤジママコトさんももう、仲間と認識されているのかもしれませんね」

「あ、ヤジマは家名ですので、出来ればマコトと呼んで下さい」

 いつもの自己紹介が出て、その場にほっとした空気が流れた。

 しかし本当に何なの、これ。

 男は俺一人で、あとの三人は女性、それも美人ばかり。

 いやそうじゃなくて、何でみんな知り合いなんだろう。

「改めて自己紹介させて頂きます。

 私の名はユマ・ララネル。

 アレスト市筆頭司法官の立場にあります。

 シルレラとは幼なじみ、ラナエとは学友ということになりますね」

 な、なんだってーっ!

 ラナエ嬢と学友ってことは、ユマ閣下も「学校」に行っていたわけか。

 え?

 じゃあ、ユマ閣下ってハスィー様やラナエ嬢と同年代なの?

 俺がまじまじと見つめているとユマ閣下はそそくさと髪を直し、頬を撫でた上で俺に向かって微笑んで見せた。

 たったそれだけで、数歳は若く見えるようになっている。

 今はもう、二十歳前後にしか見えないぞ。

 あ、この人演技していたな?

 司法官なんだから、実年齢より年上に見せたかったのかも。

 あまり成功してなかったけど。

 いや、それはいい。

 問題はそれではない。

 ユマ閣下も貴族か?

 いや司法官というだけで、まず間違いなく貴族の出ではあるだろうけど。

 特にこの若さで筆頭司法官ということは、平民が叩き上げで出世したということは有り得ないし。

 何より、「学校」出というだけで平民のはずがない。

「ララネル家はソラージュの公爵家ですわ。

 王宮に行けば、ユマ姫と呼ばれるご身分ですのよ」

 ラナエ嬢が補足してくれた。

 やっぱり貴族か。それも公爵。確か王家に連なる貴族の最高位だったっけ。

 つまり、伯爵公女であるハスィー様や、侯爵家の令嬢であるラナエ嬢よりも宮廷序列では上になる。

 軽小説(ラノベ)の知識だけど。

 しかし、だとするとなぜシルさんと知り合いなんだ?

 しかも幼なじみ。

 冒険者のシルさんと、姫と呼ばれるほどの令嬢が幼なじみって、有り得ないでしょう。

 軽小説(ラノベ)じゃないんだから。

「シルレラはマコトさんには話していないのですか?」

「ああ。

 私はシル・コットだからな。

 シルレラ・何たら・かんたら・ホルムというような長ったらしい名前は忘れた」

「まだ残ってますよ」

 ユマ閣下、いやユマ姫が頬杖をついて言った。

「少なくとも現時点では皇族名簿から抹消はされてはいません。

 ソラージュの外交部が確認しています。

 どこぞの修道院か大貴族のお城で花嫁修行しているという噂ですが」

「知ったことか」

 シルさんが言い捨てて、うーんと伸びをした。

 ちょっと待って!

 今のは何?

 ホルムって帝国の名前でしょう!

「わたくしも知った時には驚きましたが」

 ラナエ嬢がずずっとお茶を啜った。

「シル部長、ではなくてシルレラ様はホルム帝国の皇族に連なる姫君です。

 帝国に行けば、皇女と呼ばれるご身分なのですよ。

 いえ、ソラージュの宮廷でも正式に名乗りを上げた場合はそう扱われるでしょうね」

「いや、だから私の正式な身分は帝国男爵・コット家の娘だよ。

 それも今ではどうなっていることやら。

 従兄弟が爵位を継いだはずだが、もともと絶縁状態だから今更のこのこ出て行っても無視されるだけだろう」

「でも帝国の皇族名簿にはまだあなたの名前が載っているのよ、シルレラ」

 ユマ司法官が困ったように言った。

「帝国はあなたのことを忘れていないみたいね」

 軽小説(ラノベ)だ!

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