表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第六章 俺が舎長代理?
105/1008

13.マナー教育?

 ハスィー邸でのディナーは、心配していたような気まずさはまったくない上に、結構楽しかった。

 飯も美味かったしな。

 おまけに同席者は絶世の美女と美少女だ。

 このお二人が同い年というのは違和感ありまくりだが、二人でじゃれ合っているのを聞くと納得できてしまう。

 年頃の女の子らしい、というわけではない。

 二人とも17歳の会話とは思えないほど、内容的に高度だったり仕事の話だったり、あるいは国際的な政治経済の議論だったりするんだよね。

 聞いているだけで、勉強になるほどだ。

 思うに、お二人が出たという「学校」って、ソラージュの知識人や文化人、あるいは学者なんかを教師として総動員したものだったんじゃないかな。

 物凄く贅沢だけど、王太子を教育するためと思えば納得は出来る。

 そして、そんな高度な教育(に必要な経費)を、王太子一人のために使うのはもったいない、と誰かが考えたと。

 具体的には、ラナエ嬢が話してくれたけど、「学費」は生徒たちの家にも求められたそうだ。

 王宮は、そうやって経費節減しつつ、将来の王太子の側近や王妃候補を教育しようとしたのだろう。

 実にうまいこと考える奴がいるものだ。

 ラノベでも、ここまで用意周到な宰相だか参謀だかは珍しいぞ。

 だって、その「学校」に子弟を送り込まなければ、その貴族家は次世代の王宮から閉め出されてしまうかもしれないのだ。

 少なくとも、子弟が王の側近になれる確率は格段に下がる。

 王妃については、もっと政治力学的なパワーバランスが関わってくるので、確定というわけではないだろうけど。

 多分、高位の貴族家には娘しかいない家もあるので、男子だけを募集するわけにはいかなかったのだろう。

 王妃候補と言っておけば、無視も出来なくなるだろうからな。

 そして、その経費の一部を生徒たちの実家に負担させることで、王宮だけが一方的に疲弊することを防ぐ。

 まるで中世ヨーロッパの何とか家の陰謀のようだ。

 まあ、俺に言わせれば戯れ言のたぐいだけどね。

 学校なんかに通って頭角を現す奴は、通わなくても出てくるはずだ。

 ラノベじゃないけど、やっぱり主人公ってのは生まれながらのものだと思うんだよ。

 例えばラナエ嬢は、あの「学校」がわたくしを変えた、とおっしゃっていたけど、違うだろうな。

 そんなものがなくても、ラナエ嬢はいずれ問題を起こし……いや、頭角を現したはずだ。

 ハスィー様だってそうだ。

 これほどの美女で頭が切れ、カリスマが溢れんばかりの方は、誰が何をどうしようが、いずれは台風の目になっただろう。

 ただ、お二人とも十代のうちにすでに世に出てしまったのは、これはやはり「学校」のせいと言えるかも知れない。

 その結果として、これほどの逸材がお二人ともアレスト市という辺境にいたわけで、それが俺にとって良かったのは間違いない。

 むしろ、居なかったら即詰んでいたな。

 特にハスィー様は。

 まあ、いいやね。

 俺としては、美少女たちと会食できるというだけで、全部質に入れてお釣りを出してもいいくらいなんだし。

「マコトさんは、普段のお夕食はどこで済ませておられますの?」

 ラナエ嬢、なぜそんなことを聞く?

 何か魂胆があるのか?

「特に決まっていません。その都度、ですね。ほぼ外食ですが」

「まあ。それでは栄養が偏りかねませんよ。夕食くらい、自宅でお済ませになられたらよろしいのに」

「そうしたいのは山々ですが、料理も出来ませんし。料理人を雇うのも面倒で」

 これは本当のことだ。

 でもラナエ嬢とハスィー様の間で、一瞬目配せか何かが走らなかったか?

「それでは、わたくしどもと一緒に摂られてはいかがでしょうか。毎日ではないにしても、機会があれば」

 ラナエ嬢、あなたはこの家の主ですか?

「わたくしたちも、いつも二人では話題も尽きてしまいますし。マコトさんにいらっしゃって頂ければ、嬉しく思います」

 ハスィー様、さすがに経費とか手間のことはおっしゃらない。

 貴族だからな。

 それにしても、どうするべきか。

 いや、難しく考えてはいけない。

 これは、上司が独り身の部下の食生活を案じて、食事に誘っているだけだ。

 考える必要もないけどな。

 こんなチャンス、断る奴はいないだろう。

「それはありがたいですね。機会があれば、よろしくお願いします」

 ま、俺たちの終業時刻がぴったり合うことはあんまりないだろうから、週に1日か2日というところか。

 それでもありがたい。

 実際、これから夕食をどうしようかと悩んでいたんだよね。

 アレスト興業舎にはまだ制服がないし、俺はギルドのプロジェクト次席でもあるので、出社(出舎?)する時はギルドの上級職用一般服を着ている。

 ちなみに、あれから何着か替え用の服が届いたので、それをローテーションで着ているんだが。

 洗濯は通いの家政婦さんに頼んでいる。

 朝飯は前日に買って置いたパンなどで済ませ、昼飯は大抵シイルたちがやっている食堂で食うので、ギルドの制服でも問題はないんだけど、夕食は別だ。

 どっかに食いに行こうにも、ギルドの上級職の制服で行ける場所は限られているんだよね。

 高級レストランの他は、大衆食堂みたいなところしかないし、そこにギルド服で行くのはちょっと。

 かといって、帰宅して着替えてからもう一度出かけるというのも面倒だし。

 仕方なく、無理してレストランに行ったり、帰る途中で買ってきた冷えたサンドイッチみたいな奴を食っているんだが。

 夜が長いし、夜中に腹が減るのも虚しい。

 だから、たまにハスィー邸で食事しながら時間を潰すことができれば、それに越したことはないんだよな。

 そう思っていたんだけど。

 次の日から、なぜかラナエ嬢が俺と同時に退勤するようになってしまった。

 どんなに忙しそうでも、俺が帰りそうになるとつじつまを合わせてくる。

 たまにラナエ嬢が出張していたり、俺が外出したりすると、なぜかアレナさんなどが俺を迎えに来て、ハスィー邸に送り届けられてしまう。

 つまり、俺は毎日ハスィー邸のディナーに参加するようになってしまったのだ。

 もちろん、文句などはまったくない。

 ハスィー邸を辞す時には、使用人のタフィさんが翌朝の飯を持たせてくれるし。

 そういうわけで、俺の食生活問題は一気に解決してしまった。

 ハスィー様は、ギルドの仕事でお忙しいので、毎日ディナーの時刻に間に合って帰ってくるとは限らない。

 その時は、俺とラナエ嬢が二人で飯を食うわけだが、ある日突然、夕食がディナーでなくなった。

 つまり、正式なコース料理ではなく、もっと簡易な食い物が並ぶようになったわけだ。

 食事場所もディナーテーブルではなく、ソファーがあるリビングに変更された。

「こちらの方が、マコトさんには合っていらっしゃいますでしょう?

 ディナーの礼儀については、これまでの練習で大体お判りになったようですので、これからは食事時間をもっと有効的に使いたいと思いましたの」

 ラナエ嬢の仕業か!

 ハスィー様、あなたの家は乗っ取られてますよ!

 ていうか、今までのディナーは俺の練習だったのか。

 そういえば、マナーについてちょこちょこと注意されて、俺も直すようにしていたからな。

 ようやく、合格が出たということらしい。

 俺のマナーがアレスト興業舎の舎長代理としてふさわしくないとお考えになられて、「教育」してくれていたのか。

 涙が出ちゃう。

 まあいい。

 俺としても、ギルドを首になった後の生活設計を考えなければならないしな。

 こっちの世界に適応するための知識は、多いほどいい。

 そう考えれば、ソラージュでも最高の教育を受けた人に直々に指導して貰えるわけで、俺としては文句どころか感謝してもしきれない。

「ありがとうございます」

 礼を言うと、ラナエ嬢はなぜかそっぽを向いてしまった。

 ツンデレか?

 まあ冗談だけど。

 二人だけの日は、リビングのテーブルでラナエ嬢と向かい合って座る。

 シチューなどを啜りながら、俺が何か質問すると的確に答えが返ってきたり、時にはラナエ嬢に俺の知識を披露したりしてたのだが、ある日ハスィー様にそれがバレてしまった。

 ハスィー様は物凄く不機嫌になり、次の日からハスィー様が居るときも夕食がディナーではなくなってしまった。

 もう居酒屋だ。

 酒は出ないけど。

 時にはソファーにだらしなく座ってサンドイッチ風のものを摘みながら、だらだらと過ごすのは本当に楽しかった。

 だって、お相手は美少女2人だぞ。

 ラノベそのものではないか。

 ゆっくりと飲み食いしながら馬鹿話をして笑い転げる夕食タイムが定番になり、ハスィー様は何としてでも夕食に間に合うように帰宅するようになった。

 確実に、堕落している気がする。

 お二人とも、貴族らしからぬ態度なんだけど、いいのかね?

 これ、本当にラノベじゃないよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ