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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第六章 俺が舎長代理?
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10.ノンアルコール?

「ようこそいらっしゃいました」

 ハスィー様が自ら、出迎えてくれた。

 もう秋も深まってきていて、日が沈みかけているのだが、時刻にすればまだ早いんだけどな。

 まあ不定時刻制を採用しているので、日没が定時と言えないこともない。

 ギルドを早引けしてきたわけでもないのだろう。

 一応ディナーに招かれたわけなので、礼儀として昼に中心街で買ってきた贈答品を渡そうとしたが、受け取っては貰えたものの、以後は固辞されてしまった。

 もっと気の置けない付き合いをして欲しいそうだ。

 仕方がないな。

 後で、失礼にならないものを捜そう。

 ハスィー様は俺たちを入れると、奥に去った。

「ハスィーは張り切ってますのね」

 ラナエ嬢が呟いた。

「そうなんですか?」

「ええ。普段のハスィーは仕事の虫で、帰りを待っていると夕食が冷めてしまうこともしばしばですのに」

 何で張り切るんだろう。

 ひょっとしたら、また俺に何か面倒事を押しつけ……いや、依頼しようとしているのかもしれない。

 そういえば、ラナエ嬢の就職問題の時もそうだったっけ。でも、後から考えたらラナエ嬢は来るべくしてアレスト興業舎に来たと思うんだよね。

 現時点では、もうラナエ嬢なしでのアレスト興業舎は考えられない。

 事務方のトップという話だったのに、最近では渉外もやって頂いているのだ。

 アレスト市には、ギルド以外にも有力な商会や圧力団体、金持ちなどがいて、それぞれ競い合っている。

 そんな中に、アレスト興業舎という新興勢力が割り込みをかけたのだから、反発を産まないわけはない。

 もちろんギルドの後ろ盾はあるし、ハスィー様が色々カバーしてくれているのだが、時にはアレスト興業舎単体での対応ということが必要になってくる。

 有力者と会ったり、ディナーパーティに呼ばれて説明したり、色々な既得権益者と打ち合わせしたりといったことだ。

 舎長代理は俺だから、本来なら俺がやるべきなんだろうけど、無理だから。

 だって、既得権益者の対処なんか、どこの馬の骨ともしれない俺になんか出来ないよ。

 実力がないとかいう以前に、相手にして貰えない。ああいうのは既存の権威に認められていない者では、駄目だ。

 ハスィー様の後ろ盾があるだけでは、納得しない人も多いのだ。

 その点、もともと侯爵令嬢で王妃候補だったラナエ嬢なら、例え相手が貴族だろうが大商人だろうが引けを取ることはない。

 頭は切れるし知識は豊富で、その上に美少女だから、向こうもやりにくいだろうな。

 だから本来俺がやるべき渉外の仕事を全部、ラナエ嬢が代行してくれている。

 ラナエ嬢には公式に「副舎長」を名乗って貰ってもいいと俺は思っていて、というかもう舎長代理を交代して貰ってもいいのではないかと。

 まったく、最初からアレスト興業舎というよりは、ハスィー様の野望のために用意されていたかのような人材である。

 ハスィー様の野望が何なのか知らないけど。

「何を考えていらっしゃいますの?」

「いえ、大したことでは」

 ラナエ嬢って、人の心が読めるんじゃないかと思えるくらい、鋭いからな。

 ホトウさんとかシルさんとか、そういう人が多すぎると思うんだよね。

 その点、ハスィー様は切れるようでいて抜けたところもあり、可愛いんだが。

「そういうことは、顔に出さずにお考えになるべきですわ」

 人の心を読まないで下さい!

 ラナエ嬢は、ドレスを着替えてくると言って家の奥に去った。

 そっちは多分寝室などかあるので、俺は入ったことがない。

 いずれは入りたい……いやいやいや! 今のは無かったことに。

 リビングで勝手にくつろいでいると、例の執事風の服装のメイドが来てお茶を入れてくれた。

「ハスィー様とラナエ様が、もう少しお時間を頂きたいとのことです」

「ああ、かまいませんよ。時間は気にしないで下さいとお伝え下さい」

 俺にだって、女性の支度に時間がかかるってことくらい判るんだよ。

 お茶を啜りながら、リビングを見回してみた。

 趣味がいい部屋だ。

 前にテレビで見た、ヨーロッパの貴族の館の書斎とかリビングに似ているな。

 世界が違っても、こういうのは同じ方向に発達するのかもしれない。

 それにしてもお茶か。

 こっちに来てから、そういえば酒を飲んだことがない気がする。

 人類が存在する限り、酒というものはなくならないはずなので、こっちにもないはずはないんだけどな。

 ハスィー様とラナエ嬢は女性な上に未成年、いやこっちではあまり関係ないので肉体的な未成年であるから、食事時に殊更に酒が出なくても不思議ではないんだが、ホトウさんやマルトさんすら、酒を飲んでいるのを見たことがないんだよね。

 何か禁止令があるのだろうか。

「アルコールは、一人で飲むものだからですわ」

 ラナエ嬢、人の心を読むなとあれほど。

 ていうか、いつの間にいたのですか。

 もう着替えたのか。

 それにしては、仕事中とあまり変わらないフリフリのドレススカートですけど。

「私がお酒のことを考えていると?」

「そんなにお茶をしみじみ眺めていらしたら、誰でも気づきますわよ」

 いや、気づかないよ。

 普通の人は。

 ラナエ嬢って、どれだけ人のことを観察しているのか。

 やはり『迷い人』ということで、警戒されているのか。

 これも読まれたか、と首を縮めたが、ラナエ嬢は顔を伏せて俺の隣に腰掛けただけだった。

 近いんですけど。

「マコトさんは、お酒はお好きですの?」

「嫌いではないですが、無くて困ると言うこともありません。それに、アルコールは人を無防備にしますからね。

 私は『迷い人』ですし、必死でこっちに適応しようとしている今は、遠慮すべきでしょう」

 何、本当は酒を勧めてくれる人がいなかっただけだ。

 お酒は付き合いだからね。

 俺は、実はそこそこ飲める。ただ、積極的に飲みたいとは思っていないだけだ。

 あまり美味いと思ったこともないしな。

「マコトさん、それだけ判っていらっしゃるなら、こちらでアルコールが流行らない理由もお判りでしょう」

 ラナエ嬢が笑みを含んだ顔を向けてきた。

 酒が流行らない理由?

 てことは、ないわけではないのか。

 酒は一人で飲むものだ、と。

 そうか。

「なるほど。内心が駄々漏れになるんですね」

「正解です。学校で教えられましたし、実演もさせられました。アルコールを飲んだ状態では、何を話しても魔素で本音が出てしまいます。

 わたくしどもは、普通にお話しする時でも、魔素による本心の暴露を警戒するように訓練されておりますが、その箍が外れてしまうのです」

 なるほど。

 そういうわけか。

 一緒に酒を飲むと、普段は抑制していることが出てしまうかもしれないと。

 地球より、そういった問題は深刻なんだろうな。

 もっとも下層階級? では、みんなで集まって当たり前に酒を飲むことが多いらしい。

 本音も建て前も同じな人たちにとっては、それでもいいのだろう。

 だが、本心が暴露してしまうと仕事や人間関係に支障を来しそうな階級にとっては、誰かと一緒にアルコールを嗜むのはタブーだそうだ。

 もちろん人にもよりますが、とラナエ嬢は笑った。

 その王都の学校の教師たちって、ずいぶん有能だったんだな。本当に将来の王妃や側近を育てるつもりだったのだろう。

 それにしても、この人は本当に美少女だなあ。

 キャラ付けが難しいけど。

 おそろしく有能で指導者タイプではあるけれど、自分がトップに立つ気はないらしい。

 生徒会書記というところか。

 会長を裏からコントロール、いやサポートする役割の。

「また何か、考えておられますのね」

「いえいえ、大したことは」

「マコトさんのお考えは、読めるようでいて異質な概念が多すぎて、うまくまとまりません。

 それは、交渉においては大きなアドバンテージですわよ」

 そうなんですかね。

 ラナエ嬢にはあまり通用していない気がするけど。

 いや、それ以前にやっぱり心を読んでいたと?

「それはマコトさんが言わば、わたくしに対して無防備でいらっしゃるからでしょう。

 本気になったマコトさんは、おそらく誰にも心を読ませないと思います」

 これだけ駄々漏れに読まれているのに、それはないよ。

 まあ、ラナエ嬢の能力が人外に高いことは判った。

 ハスィー様もある意味人外に近いからな。エルフだし。

 まさにラノベだ。

 主人公はどこにいるんだろう。

 俺なんか、脇役すら難しいぞ。

「お待たせしました」

 ハスィー様がリビングに入ってきた。

 おお、着替えていらっしゃる!

 ハスィー様もヒラヒラのドレスを持っていらっしゃったのか。

 今までズボンとかスパッツみたいな姿しか見たことがなかったから、てっきりスカートは履かない派かと思っていたぜ。

「いかがですか?」

「よくお似合いです」

 ホントによく似合っていた。

 というよりは、どう考えてもファッション雑誌の表紙から抜け出してきたモデルのようにしか見えない。

 それも、正統派の美女モデルだ。

 豪奢な金髪に澄み渡った碧眼、白い肌に小さなタマゴ型の顔。そしてメリハリの効いたボディ。

 日本人が思い描くヨーロッパ人の美女そのものである。

 こっちでは、これがエルフなんだろうな。

 実際、アレスト市で今まで会った人の中ではハスィー様が桁違いに美しいからね。

 美少女というだけならいっぱいいるんだけど、ここまで神秘的な美女は他にはいない。

 俺が出会った限りでは。

「それでは、お夕食にしましょうか」

 でも言うことは散文的だなあ。

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