21.設立総会?
嫁を見ると肩を竦められた。
そういえば娘がまだ乳児だった頃から「王家の嫁に」とか言われていたんだよな。
その時はまだリネト殿下の存在どころかミラス殿下とフレアさんは婚約してすらいなかったのに。
その時は立ち話程度で終わってその後は何も言われなかったから忘れていたんだけど。
リネト殿下が生まれたことで再燃したと。
「ルディン陛下にしてみれば規定路線でしょうね。
ヤジマ大公家の長女を嫁にとれば、その者は確実にソラージュ国王を継ぐことが出来ます。
というよりはもし取れなければ戴冠が難しいかもしれません」
ジェイルくんが平然と言うけど、それほどのもん?
俺、たかが大公だよ?
いや大公を「たかが」というのも何だけど。
でも絶対権力者である国王陛下が気にするほどの事でもないような。
「貴方はそういった駆け引きに疎いというよりは、御自分の真価を判っていませんから。
いいですか。
娘が嫁入りする時の持参金は、おそらく北方諸国の国家予算を超えます。
それほどの富が国外に流失することはソラージュにとっては大きな痛手であると同時に、嫁入りした先の国の国力が跳ね上がることになります」
嫁が説明してくれた。
さいですか。
まあそうなんだろうな。
実感はないけど。
「シーラ様の持参金が流動資金になるということも大きいですね。
普通の高位貴族の財産はそのほとんどが不動産なので、持参金も無理がない程度に抑える事が出来ますが。
ヤジマ大公家には領地や領民といった足手まといになるモノはありません。
財産の大部分は有価証券や株券といったすぐにでも換金可能な流動資産ですので」
ジェイルくんがしたり顔で言った。
つまりアレか。
公爵家とかの娘がどっかに嫁入りしても、その持参金には紐がついているということだ。
領地の一部だったり財宝だったり。
それはそれで財産ではあるんだけど、管理するにも手間がかかるし、おいそれとは売れないし使えない。
特に領地には領民がくっついてきて、その人たちを食べさせていかなきゃならないからね。
下手すると持ち出しになったりして。
でも娘の場合は全額を現金もしくは換金可能な流動資産で持ってくるのだ。
しかも金額が桁違い。
なるほど。
そりゃルディン陛下も囲い込みたがるわけだ。
「それで娘をリネト殿下の嫁にと?
でも娘の方が年上だけど」
「そんなことは問題ではないのでしょうね。
十歳年上というのならまだしも、数歳の差は適齢期になれば解消されます」
うーん。
俺としては娘には好きな相手と結婚して欲しいんだけど。
ていうか嫁になんかやりたくない(泣)。
「今すぐというわけではありません。
国王陛下もすぐに婚約させたいという事ではなく、幼いうちから親しくお付き合いさせるおつもりなのでしょうね」
幼馴染みという奴ね。
王子と大公息女だから不自然じゃない。
その弟の大公子息や護衛の近衛騎士の娘、あと大公の重臣の子爵公子なんかと一緒に育つ事になるわけか。
何か将来的にアレな展開になりそうだな。
娘は悪役令嬢のポジションで。
ティラナちゃんはともかく息子やジェイルくんのお子さんが王子様の取り巻きで。
帝国皇帝の息子さんたちが留学してきていて。
みんなでヤジマ学園の生徒会役員とかをやっていると、そこに光の魔力を持つ平民の美少女が入学してきて。
「このお話を進めてよろしいでしょうか?」
ジェイルくんが聞いてくるので俺は適当に応えた。
「いいんじゃない?
子供たちも友達が多い方が楽しいだろうし」
「お心のままに」
それにしてもルディン陛下も姑息だ。
そんなことくらい俺に直接命令すればいいのに、俺が逆らいにくいジェイルくん経由で話を持ってくるとは。
「ソラージュ王家にとっても貴方がそれだけ気を遣わなければならない存在だということです。
貴方は既に世界の王なのですから」
止めて(泣)。
子供たちについてはジェイルくんに丸投げして、俺は忘れることにした。
どうせ何かあるとしても15年くらい先の話だ。
どうでもいいし、どうすることも出来ないからね。
光の魔力を持った平民の娘が現れない限り、どうにでもなるだろうし。
数日後、ついに最後の国連大使が到着したということで「すべての国と組織の連合」の設立総会の日程が発表された。
「全世界が注目しております。
真の意味での既知世界統一ですので」
止めて下さい(泣)。
ユマさんにお願いして、俺の出席は勘弁して貰った。
俺、別に国連大使でもなければ設立委員会に所属してもいないからね。
無関係なんだよ。
ユマさんも「それがよろしいでしょう」と言ってくれたので、俺は総会当日もヤジマ屋敷に引きこもっていた。
ユマさんがいるから失敗しようがないだろうし。
そもそもトルヌで「すべての国と組織の連合」の設立が承認された時点で詰んでいたんだよ。
ユマさんの大戦略の完成だ。
反対者がいたとしても圧倒的多数の賛成で押しつぶされるからな。
そもそも列強諸国が全部賛成に回っていたんだから、抗いようがなかったはずだ。
俺の出る幕じゃない。
居間で子供たちと遊んでいたら、「すべての国と組織の連合」の総会に出席していた嫁が帰ってきた。
身重なのに大変だね。
「ヤジマ財団の広報担当として演説させられました」
嫁はうんざりした表情でソファーに座っている俺に抱きついてきた。
「ユマはともかくラナエにまで強要されては逆らえませんでした」
そういう理由だったのか。
拉致されていったから心配していたんだけど。
リズィレさんも身重だからな。
護衛として同行してくれたらしいけど大変だっただろう。
向こうの方でハマオルさんとリズィレさんが話している。
ご苦労様でした。
「ご免。
俺が出たくないと我が儘言ったせいだよね」
「貴方は出なくて正解です。
もしいらしていたら総会にならなかったかもしれません」
そうなの?
聞いてみると、嫁がスピーチした時は歓声で自分の声すら聞こえなかったそうだ。
それは傾国姫だからだと思うけど。
「ハスィーだからその程度で済んだということでございます」
いつの間にか居間にいたユマさんが教えてくれた。
もう引き上げてきたの?
「ヤジマ財団が仕切っておりますので。
それにラナエがヤジマ大公名代ということで女主人を務めています」
ユマさんはむしろ裏方だから、大使連中とはあまり接触しなくていいらしい。
なるほど。
ヤジマ財団理事長や傾国姫の代わりにヤジマ大公名代が接待してくれているのか。
いや、むしろこの場合はヤジマ商会会長代理としての顔の方が大きいかも。
今や世界の経済と流通を支配するヤジマ商会のトップだからな。
国連大使として知り合っておいて損はない、というよりは顔つなぎしておかないと拙い。
嫁は疲れたと言って子供達を連れて寝室に去った。
ご苦労様でした。
ゆっくり休んで下さい。
俺はユマさんをソファーに座らせるとお茶を勧めた。
一応、報告は聞いておかないと。
聞くまでもない気はするけど。
「どうだった?」
「『すべての国と組織の連合』は無事に設立されました。
公式名称と会則が承認されましたので、今後はギルド登録団体として正式に『国連』を呼称することが出来ます」
国連をギルドに登録するって変だけど、この場合はむしろ国家が公式に認めたことになるそうだ。
もちろん「すべての国と組織の連合」はソラージュ独自の団体じゃないので、関係各国のギルドにそれぞれ登録されることになる。
逆に言えば、国のギルドに「すべての国と組織の連合」が登録されないと恩恵を受けられなくなるらしい。
「それだけ?」
「今回は設立だけでございます。
今後、大使の皆様より議題が提出されて定期総会や分科会が開かれることになります」
「そうか。
それはそうだよね」
「現在、設立記念パーティを開催しております」
それは楽しそうだけど、やっぱ俺が出ていくのは拙い。
「判りました。
後はお任せします」
「お心のままに。
ちなみに次回総会でヤジマ財団が提案する魔王顕現対策部隊の設立と承認について議題を提出させて頂きます。
名称については簡潔に『国際救助隊』を予定しておりますが、よろしいでしょうか?」
国際救助隊かよ!




