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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第一章 俺は不法入国の外国人?

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8.ドラゴン?

 ドラゴンって言いましたよね、今。

 ひょっとしたら、エルフとかドワーフなんかもいる?

「もちろんいるぞ。

 街に入る時に見ただろう。

 畑を耕していた連中の半分はドワーフだし、エルフは金融街に多いな」

 そうか、いるのか。

 だがちょっと待て。

 俺がエルフとかドワーフって言っても、マルトさんが俺の考えているエルフだと受け取っているとは限らない。

 そういう人たち、というか種族か民族がいるということかもしれない。

 何にせよ、俺から見てエルフとかドワーフ、あるいはドラゴンといったような生物が実在しているということだ。

 そしてどう考えてもその人? たちとは意志が通じる。

 そもそも、家畜のたぐいともある程度は会話できるとしたら、人間並の知能を持っていればほぼすべて、意思の疎通が可能なんじゃないか。

 これって凄いことじゃない?

 例えば俺の世界でもやっている野生動物保護運動なんか、物凄く説得力があるはずだ。

 保護対象と会話できるんだから。

 意思伝達が出来る相手を問答無用で虐殺するって、もう戦争だろう。

 つまり逆に言えば戦争のような理由がない限り、うかつに動物なんかを殺せなくなってしまう。

 毛皮を取るとかね。

「すみません。

 ちょっと話を整理したいんですが、とりあえず色々な動物と意志が通じ合えることは判りました。

 でも別に動物に人権があるというわけではないんですよね?」

「JIINKEEN……というのは、ヒトの権利だな。

 もちろん、人だけだ。

 野生動物にはそういう権利はないな。

 だが、家畜には○●◇があるぞ」

 また判らない発音が出てきた。

 人権がかろうじて意味がとれるのは、そういう権利が実際にあるからだろう。

 だが動物のそれは、俺の世界にはないから発音不明、意味不明になるのか。

 つまり今マルトさんが言った言葉(概念)は、俺の語彙には存在しないのだ。

 ただし何となくは判る。

 動物側からみた保護法のようなものだ。

 人と同じ権利が保障されているわけではないが、例えば裁判などである事柄について証言が許されるとか、そういうことだろう。

 何せこっちの動物は話せるのだ。

 エルフやドワーフについても、当たり前に人だから人権があるのだろう。

 ていうか異世界物(ラノベ)だとエルフの方が高位だったりするけど、そうでもないらしい。

 単に人類の一種族、ということか。

「まあ、判りました」

「よろしい。

 では話を戻すが君の処遇についてだ」

 来ましたよ。

 何でいままで来なかったのかが不思議なくらいだ。

 ある程度は状況を説明しないと何も始まらないことが判っていたからだろうか。

「まず言っておくが、私は商人だ。

 だから原則として利害を考えて行動する」

 それはそうですよね。

 これが異世界物(ラノベ)だと、突然現れた得体の知れないうさんくさい男を美少女が気に入ったり「信用できそう」などといういい加減な理由で世話したりするのだが、そんなことは考えるまでもなく有り得ない。

 俺の世界つまり治安のいい日本でも、突然現れた外国人だか異世界人だかをいきなり引き受ける人なんか現実にはまずいない。

 普通は治安機関につれていくか司法機関に突き出す。

 あるいは見て見ぬふりをするかだな。

 ましてこっちの世界はどうも、日本なんかよりかなり遅れている。

 科学技術の進歩と人権意識は相関関係にあるという話を聞いたことがあるので、移動に馬車を使っているこの世界では基本的人権という概念自体がまだ確立していないかもしれない。

 経済的な効率を考えると「奴隷」といった制度はなくなっていると考えてもいいと思うが、それでも都市や国の移動には制限がかけられている可能性は高い。

 話が通じるとは言ってもやはり異邦人は警戒されるはずだ。

 ましてこの世界の人間ではない相手をどうするのか。

 俺は緊張しながらマルトさんの言葉を待った。

 マルトさんは、そんな俺を観察しながら続ける。

「だからヤジママコト、私が君を直接雇い入れるといったことはしない。

 何ができるか判らないし、少なくともこれまで会話をした内容から考えて私の仕事に役立つ技能を持っているとは思えないからだ。

 私は事業をかなり手広くやっているが、役に立つかどうか判らない人材を雇うほどの余裕があるわけではない」

 ずいぶん率直に話してくれると思ったが、つまりはこれが魔素による会話なのだろう。

 意志がストレートに伝わってくるのだ。

 装飾を抜きにした、まるごと本音の会話だ。

 もちろんこの状態でも嘘をついたり隠したりすることは可能だとは思う。

 商人なのだから、そこら辺のテクニックはあると考えた方がいい。

 俺も中小零細企業の海千山千のオヤジ経営者にさんざん翻弄されたから、こういった「商人」がどれだけたくましいのかは判っている。

 それでもマルトさんはおそらく本音で話している。

 俺に対してゴマカシなんかやっても無意味だしな。

 俺にそこまでするほどの重要性を認めていないのだろう。

 俺が黙っていると、マルトさんは不意に微笑んだ。

 顔だけではなく態度というか印象が軟らかくなる。

「動じないか。

 やはり、大したものだ」

「当然ですから」

「ということで、私はヤジママコト、君を買っている。

 直接雇う気はないが、後援はしよう。

 ある程度の身元保証や就職先の紹介はするし、仕事が決まるまでは生活の保障もする」

「それはまた、凄い厚遇に思えるんですが。

 なぜそこまでしてくれるんですか」

「私は商人だからな。

 将来を考えて投資はする。

 この場合は投機かもしれないが」

 それって直接雇うよりリスクが大きい気がするけど、商人なりの判断なのかもしれない。

 中小零細の企業主というものは、時々突飛に見える行動に出ることがある。

 例えば俺の経験では、個人経営に毛が生えた程度の規模の会社なのに結構高いうちの会社のソフトを導入したりといった、身の程知らずと言いたいくらいの賭けをやった人が何人かいる。

 俺が担当してシステムの導入から操作指導までやったのだが、結果は色々だった。

 飛躍的に業績を伸ばした会社もあれば、潰れてしまった所もあった。

 つまりそういうリスクとリターンを日常的に考えているのが企業経営者というものなのだろう。

 マルトさんにもそういう匂いがある。

 やるときは大胆に賭ける、とかね。 

「話はそれだけだ。

 何か聞きたいことはあるか?」

「いえ……。

 ちょっと整理したいんで、時間を貰えますか」

「そうだろうな。

 いいだろう。

 まずは今夜の宿と飯だな」

 マルトさん、太っ腹!

 ほとんど異世界物(ラノベ)に出てくる、主人公が最初に出会う人並にいい人ではないか。

 美少女じゃないのがちょっと残念だけど。

 マルトさんが立ち上がる。

「ここで待っていてくれ」と言って、そのまま部屋を出て行ってしまった。

 俺はひとりになった途端に力が抜けて、へたり込んだ。

 信じられない。

 数時間前までは今日も残業だとか思いながら電車に乗っていたのに、今は厨二な状況に放り込まれている。

 しかも驚いたことに俺は結構冷静に対応できている。

 まだ精神的に状況を認識しきれていないような気もするけど、普通突然こんな状況に追い込まれたらパニックになって駆け回りそうなものだ。

 異世界物(ラノベ)の主人公の行動って、絵空事じゃなかったんだなあ。

 ああいうのは案外現実を写したものなのかもしれない。

 今まで読んだ異世界物(ラノベ)では、主人公が変な状況に遭遇する場合、あまりにも冷静に対処するので憤慨していたんだけどね。

 お前はどこの政治家や大企業の経営者だよとか思っていたのだが、案外人間というものは適応力があるのかも。

 でも今はまだ興奮しているせいか、あまり不安を感じていないこともある。

 落ち着いてきたらパニクるんだろうな。

 あ、そういえばあの喉切りトカゲのことを聞き忘れたけど、まあいいか。


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