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出張

今回の内容は、いつもとは違ってダークです。

え、ダーク?(汗)……と少しでも思った方は回避、です!

 



 今日は、大変な一日でした。

 こうして文字を綴っている今は、すでに月と星の時間です。


 今日は、訳あって隣国の《アクティース教》の神殿へと行きました。

 神殿どうしは全てに転送の魔法陣が描かれている部屋があり、それぞれを行き来するのは、さほど問題ではありません。

 今回私が自分でも珍しいと思うほどに困ったのは、隣国の神殿へと転移し、祝福を授けて欲しいと頼まれていた貴族様のもとで役目を果たした後、再びその地の神殿へと帰ろうと帰路を歩いていた時です。


 まぁ、率直に言えば、浚われました。


 正直のところ、なぜ見目麗しい女性ではなく、私を、と思いましたが。


 突然伸びてきた手に腕を捉まれ、抵抗する間もなく引っ張り込まれた路地裏で、一旦意識が途切れました。

 次いで目覚めた場所は、どこかの地下室と思しき、石造りの狭い部屋。唯一の出入り口なのでしょう頑丈そうな樹の扉は閉まっていましたから、おそらく周囲は真っ暗であると想像できました。

 かくゆう私の瞳は以前から思っていた通り少々特殊らしく、暗さを無視して普通に見えましたが。

 おかげ様で、口枷の布を除き、感覚が手足共に冷たい枷がはめられていることを訴える前に目視できましたし、私以外にも綺麗な金の髪の女性や、気品漂うドレスをまとった少女、幼さに見合わない高価な装飾品をつけた男の子など、私を含めて計六人の方が囚われていることが分かりましたので、瞳に対する疑問は横に置いておくことにしました。

 問題は、そこからです。

 他の宗教の方々のことは、あまり存じ上げないのですが、私たち《アクティース教》の神官は一般的に他の方々を祝福する魔法しか、自らが扱えるように練習することはありません。

 祝福の際に用いるのは、ほとんどが光の魔法。

 それは聖歌も例外ではなく、主に怪我などを癒す回復の魔法、身体を守護する結界の魔法を得意としています。


 まぁ、要するにそれ以外の魔法はほとんど使えないのですよね。


 とはいえ、流石に私たちも護身用としてそれぞれ自分が得意な属性の攻撃魔法くらいは、幾つか使うことができます。

 それは、私も例外ではありません。

 もっと言えば、幸運なことに私には魔法の才がありましたから、他の方よりも学んでいるくらい。

 時間さえあれば、その場にいる全員の枷を外し、外へ出ることは出来たでしょう。

 えぇ、時間さえあれば。

 残念ながら、私たちを浚った方々は、待ってはくださいませんでした。

 ギィ、と音を立てて開かれた扉に、一様に冷たい地面に転がっている方々の何人かの肩が跳ねたのが見えました。

「おお、上物だな」

 どかどかと部屋の中に入って来た一人の大柄な男性が、低い声でそう仰います。とても楽しそうな声でしたので、つられてこちらまで微笑みそうになりましたが、今は笑っている場合ではないと思い直し、表情を引き締めました。

 さて、どうしたものか。

 そう視線を巡らせた先には、いまだに開け放たれたままの扉。その先に、誰かがいるような気配も、なし。

 瞬間、私は胸中にて風の魔法を唱えました。手足の枷が、魔法を阻害するような高価な魔法具でないことはすでに確認済みでしたので、私の口を塞いでいた布は、ほんのわずかな衣擦れの音をのこして、私の口を離れます。

 唯一部屋の中に入って来た男性は、丁度私に背を向ける形で近くにいる女性の側で膝をつき、その方の顔を眺めていらっしゃるご様子。

「んー!」

 恐怖と嫌悪。そのような感情が宿っていると感じた叫びが、布に塞がれた女性の口から発せられます。もしかしたら、私たちの誰一人として目隠しをされていないその理由は、恐怖を助長するためだったのかもしれませんね。

 しかし、それが命取りでした。いえ、命はとりませんが。

「〈深遠なる眠りよ、あれ〉」

「!?」

 そう、私が眠りの魔法をかけると同時に、驚きに肩を震わせた男性が魔法にかかり、ゆっくりとその身体を彼の前にいた女性のほうへと倒していくので、もう一度魔法を発動。

「〈風よ〉」

 思わず苦笑気味に発した魔法は、その強き風で男性の体勢をずらし、見事誰もいない場所へ横たえることに成功しました。

 ふぅ、危なかった。

 そう思いながら、いぜんとして状況を読み込めずに唖然としていらっしゃる皆様に向けて、私はいつも通りに微笑みました。

「さぁ、脱出しましょうか」

 同時に、無詠唱にて手馴れた風の魔法を発動。先の口枷の布と同じように切断され、今度は音を立てて転がった手足の枷から解放された私は、すぐに他の方々にも同じ魔法を使って、全員を動けるようにしました。


 そこからは、流石に早かったです。


 扉を出て階段を上った先は、古ぼけた小屋のような場所。流石に三人ほどいらっしゃったまだ地下室でお眠りになっていらっしゃる男性のお仲間にも仲良く眠っていただき、私たちは外へ出ました。

 治安が良くない場所であることが薄々理解できる通路を、なるべく魔力が集まっている場所……つまり大通りの方へと皆様を先導しながら進み、無事に路地裏から元々歩いていた通りに出ることが出来ました。

 皆様より口々にお礼のお言葉をいただき、ありがたい限りです。

 私は浚われる前より幾分か温かな気持ちで、夕暮れに染められたその地の神殿へと急ぎ帰り、私の帰りが遅いと心配してくださっていたその神殿の神官方に理由を説明し、皆様もお気をつけて、と言ってこちらの神殿へと戻ってきました。


 いやぁ、大変でしたし、困りもしましたが、終わってみれば楽しい出来事でした。


 最も、帰ってきた後今日のことをお伝えした同世代の神官方には、今回が幸運だっただけと言われてしまい、私も流石にまたの機会はあまり訪れて欲しくないと思いましたが。


 そう感じ、忘れないように綴る今。

 次回の出張の際には、終始穏やかであることを、そっと祈っておくことにします。


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