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聖宴夜

 



 聖なる光が、降りそそぐ。

 広がり煌き、ここに満つ。


 今宵、国の神官全てが謳うものは。

 ただ、今を生きている、その喜び。


 金の髪を揺らし、翠の瞳を瞬かせ。

 純白と白金が彩る、その服を纏い。

 私たちの〝王〟が、言の葉を紡ぐ。

 〝神〟の声を聴く、かの方が語る。


「国も、種族も、関係なく」

「――万人が、幸福でありますように」

「どうか、あなた方も、共に謳って下さい」

「世界にさえ。この祈りが届く様に――」


 優しさを。

 温もりを。

 幸福を。

 祝福を。

 光を。

 命を。


「さあ、私と共に――この、〝聖国〟の名が示すままに……」


 ――そうして、この国が建国された日の夜が、はじまるのです。




 今夜は、私たち《アクティース教》のみならず、この国で生きる神官全てにとって、とても大切な日です。

 新たなはじまりの日に程近い、この日の夜に行われるのは――建国の祝いと、全神官による祝福の宴。


 ――〝聖なる日〟と呼ばれるこの日、国中の神官が集い、世界へ向けて祝福を捧ぐのです。




 深々とした暗闇が、世界を包む頃。

 この国で唯一、神殿ではない巨大な建物――王城から、世界へ向けて。

 宴のはじまりを示す、温かな金の光が、放たれます。


 強い癒しの力を宿したその光は、その光を放ったかの方の言葉どおり、国も種族も関係なく、魔物以外の万人に、確かな癒しとなっておくられます。

 優しいその光は、かつての時代では傷ついていた王族を救ったとも語られ、〝癒しの光波(こうは)〟や〝治癒の光波〟以外にも、〝助命の光〟――〝救世の光臨光(こうりんこう)〟とも、呼ばれていると聞きました。


 〝救世の光臨光〟――その呼び方をはじめて聞いた時、思わず深く納得したことを、今でもよく憶えています。

 ――それはまさに、かの方が持つ光の力の本質そのものだと、当時の私は思っていましたから。

 果ての無い暗闇に見えた、かの古き時代。

 光ある未来を切り開いたかの方の力は、確かに救世の光に見えたはずだと。

 それならば、今もなお放たれるかの光もまた、救世の力を秘めているのだと。

 幼い頃の私は、準成人たる十二歳になる時まで、単純にそう思っていたのです。


 ……しかし、かの光の力は――かの方の力は、決して目に見える力だけを宿しているものでは、ありませんでした。


 世界へ向けて、強い癒しの光が放たれた後。

 十二歳になった私は、その後に降るものにこそ、かの方の本当の力と思いが宿されているのだと、気付いたのです。


 ――それは、小さな燐光でした。

 遠い夜空に煌く、星々のかすかな光に似た、小さな小さな金の光球。

 凍える日に天より降る、雪に似たその燐光こそ――奥深いところで思いを宿す、形そのものだったのです。


 ……残念ながら、あの十二歳になった年に気付いたものは、それから長い月日が経った今でさえ、言の葉として紡ぐことが出来ていません。


 ただ、今も変わりなく、この夜におくられる光波と燐光を生み出すかの方の願いは――私にも、分かります。


 幸せでいて下さい、と。

 笑っていて下さい、と。

 生きていて下さい――と、願うのは。


 決して、私たち《アクティース教》と、違えるものではありませんから。


「――祝福を」


 優しいかの方が紡ぐ、その言葉に続けて。


 全ての生者と――〝あなた様〟に、我ら《アクティース教》の祝福よ、あれ、と捧ぐのは。

 誰よりも、全てを守ろうとするかの方にこそ、幸せに笑って、生きていてほしいから。


 おくられる、だけではなく。

 私もまた、おくる側になりたいのだと。

 ――今夜もまた、そう思うのです。



 〝聖なる日〟に、祝福を。

 どうかかの方と、私たち全ての神官の祈りが、この世界に祝福となって、降りそそぎますように――。


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