この雨に願わずとも ~流星の旅人~
突然強さを増してきた雨に、ふとエストレアさんの事を思い浮かべました。
彼もまた自らの真実を知った日から、早数日。
今日は、エストレアさんがこの街を出て、また旅を始める日です。
昨晩から振り続く雨は、植物にとっては恵みの雫。
けれど、旅立つ人々にとっては、少しばかり厄介なもの。
特に今日の雨は酷く、石畳を跳ねるその音が、どこにいても驚くほど鮮明に聞こえてきます。
これでは、出発を延期される方も、少なくはないでしょう。
――しかし、エストレアさんは、雨が止むのを待つ気は無いようです。
少し意識すれば分かる、彼の魔力。
それが、すでに街の出入り口に在ることを感じます。
ゆっくりと移動するその魔力は、まるでこの雨をその身に沁み込ませることを、楽しんでいるかのよう。
……いいえ、きっとこの雨さえも、彼は楽しんでいるのでしょう。
――世界と言う名の父が与えるものなのだと、分かったのですから。
かくいう私も、ともすれば轟音にもなりかねないこの雨を、楽しんでいます。
耳に響くその音にさえ、命の気配を感じて。
跳ねる力強さと大粒の雫に、魔力を感じて。
ふと意識をすればそれだけで。
世界は全て、確かにあまねく魔力で満たされていたのだと。
そう、気付くことが出来ましたから。
澄んだ蒼き気配は、静かに静かに世界に満ちて。
その中に、確かに〝兄弟〟の温もりも感じて。
それは、きっと。
この雨に願わずとも。
必ずまた、会えるよ、と。
この降り続く雨の中、旅立つ〝兄弟〟が、告げている証。
であるならば。
私は、《アクティース教》の神官として、祝福の祈りをおくりましょう。
〝貴方の旅路に、祝福を〟
――どうか、よい旅を。




