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冴え
ふと冷えた日は不思議と、感覚が研ぎ澄まされることがあります。
微かに降る、小雨の音。
抱えた本の、その重み。
普段は気にすることのないものに、自然と意識が向いて行く、感覚。
遠くから響く、子供の泣き声。
さり気ない仕草に、晴れぬ心を秘めた老人。
まるで、自らの役目を、さぁ――と、ささやかれているかのよう。
生きているだけで、素晴らしい方々。
けれども、その顔が笑顔でないのならば。
私は、その笑顔を取り戻してほしいと――そう、思うのです。
それは、あるいは。
遮られない、一陣の風のように。
紛うことなき、清水のように。
全てを見守る、空のように。
ただただひたすらに、心へと届く。
祝福の、愛――。
一段と冴えて伝わる、笑顔になれない訳よ。
どうかもう、その方の笑顔を奪わないで下さい。
「あなたに、祝福を」
今日もまた告げる、その一言の内に。
今日は特別な、強さをのせましょう。
〝あなたの生は、揺るがない〟
輝く生よ、眩くあれ――。




