魔族
この世界にある根強い種族的な問題の中で、最も難題な考え方と言えば、やはり魔族のことでしょう。
全生命にとって害悪とされているのは魔物と呼ばれる異形の者たちですが、魔族はその姿によって、古くから魔物と同一視されてきました。
彼ら魔族が、好戦的な者が少なくないと言う性格的な問題も、少なからずあるのは事実です。
しかし、魔族と魔物は全くの別物。
少なくとも私たち《アクティース教》は、そう考えています。
動物であっても〝生きている者〟として扱う私たち《アクティース教》の神官が、立派な一大種族である魔族を否定する理由はありません。
全ての魔物に共通する、黒き姿。
それと似た黒や、紫、赤黒をまとっている。
加えて、その多くが異形である魔物。
それと似た角や牙、容姿をもっている。
多くの方――そのほとんどは人族ですが――は、そういった理由で、魔族を嫌悪しています。
私たちはその意見に対し、常にこう返させていただいています。
色が似ている。それでも、魔族は魔族であって、魔物ではありません。
形が似ている。それでも、魔族は魔族であって、魔物ではありません。
と。
魔族は確かに、魔物とは異なる存在なのです。
魔物は、この世界に唯一存在する邪神が生み出せし、形あるだけの命無き人形。
それに対し、魔族は夜の神が生み出した、純粋なる一種族。
魔族とは、ただしく、神に愛され生まれた命ある存在なのです。
古き考えは、そうそうに塗り替えられるものではないでしょう。
けれど、いつの日か。
光と朝の神、そして夜の神のその間の夕日に照らされて。
全ての種族が手を取り合う日が訪れることを、《アクティース教》は願って止みません。




