はじめての ~赤瞳の少女~
何事においても、はじめて、というものは存在します。
正しい言葉の発音しかり。
魔法の発動しかり。
……初仕事、しかり。
今日は、この神殿に新しい神官が加わりました。
まだ齢十二の、幼げな女の子です。
可愛らしい容姿に見合わぬ、強く真剣なまなざしが印象的でした。
まだ着慣れていないのであろう私たちにはおなじみの神官服をまとい、案内をうけています。
ふと、そういえば私にも彼女のような時代があったのだと、当時を思い出しました。
私自身はそもそもこの神殿で育ったため、案内を受けることはありませんでしたが、幼い頃から幾度となく聞いた聖歌を大人の方々に混じって歌い、見事魔法歌として発動したことに驚かれたりしましたね。
その頃からせっかく綺麗なのにもったいないと言われて長く伸ばしていた白銀の髪と、空の色に例えられた大きな目によって可愛らしく見えるといわれた顔、そして病弱だったために同年代の女の子よりも華奢な体格だったため、よく性別を間違われたのは、今となっては良い思い出です。
そして、はじめて《アクティース教》の神官としての、本当の仕事――祝福をおくることを、した時。
生気の欠いた表情。淀んだ瞳。自嘲の微笑。
生きることを諦めようとした方の思いを、変えたいと願う、必死の言葉がけ。
一人の色あせた服をまとう、痩せた男性を前にして、新入りの彼女は微笑みました。
それはおそらく、彼女をつい先ほどまで案内していた、女性の神官を真似たもの。
それでいて、彼女自身の強さと優しさを現す、瞳の輝きはそのままに。
内心の緊張を必死に押さえ、比較的ゆったりとした口調で何事かを語りかけた彼女に、男性がそっと、顔を上げます。
彼女はそれにうなずき、そっと右手を差し出しました。
その手を掴んで立ち上がった男性の表情に、もう絶望は見えません。
彼女は、はじめての仕事をやり終えたのです。
男性は確かに、彼女がおくった祝福の言葉を、受け取ってくださいました。
男性がお帰りになられた後、私と同様に彼女の初仕事を見守っていた神官の皆様が、彼女へと笑顔で言葉をおくります。
それもまた、ひとつの祝福の言葉だということに、彼女はどうやら気づいたようです。
自分よりよほど才能のある新入りが入ってきてくれたことに、喜び半分。
負けていられないと、やる気半分で一日を過ごしました。
……ところで、新入りの方には前々から教師兼補佐役として、先輩にあたる神官が一人、つくことになっていまして。
ついでに言うと、普段は指南役と呼ばれているその役の神官を選ぶのは、基本的には新入りの方だったりするわけですが。
――夕食後、今日見事に初の祝福をおくることに成功した新入りの彼女が、私のところに来て、こう言ったのです。
「よろしくお願いします! エルピスさま!」
……深々とされた礼を見て、その意図が分からないほど、鈍くはありません。
例え、重要な部分の言葉が、抜け落ちていたとしても。
はい、どうやら。
はじめてのことをするのは、彼女だけではないようです。
改めまして、ネタ提供をしてくださった深江様に、感謝を!




