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種族

 



 他宗教とはある種一線を置く《アクティース教》の特徴の一つは、なんと言っても、魔物以外の種族を差別しないところにあると、私は思います。


 この世界には私が知っているだけでも、多くの種族が存在しています。

 人族、エルフ族、獣人族、魔族、天人族、精霊、魔物。この種族名とて、様々な種をひとまとめにした呼び方である場合もあります。

 おそらく世界には、まだまだたくさんの種族が存在するのでしょう。


 人族の多くは、一見して魔物と同義にさえ見える魔族を忌み嫌います。

 国によっては、他種族そのものを良しとしない場合もあります。


 しかし、私たち《アクティース教》の神官からしてみれば、それは思わず、

「何故そこまで他種族を嫌うのですか?」

 と首をかしげながら問ってしまうようなお話です。


 この世界には確かに、神が存在しています。それも、数多くの。

 現存している長命種の方の数人の名言と、多くはそもそも当の神々のお力によって不老となっている方々がこの世界に確かに存在していることから、それは周知の事実です。

 そして、それぞれの種族の始祖は、それぞれ別々の神々が世界に生み落とした存在であることもまた、事実です。

 清らかなる心と力ある信仰者の幾人かは、その事実を直接神々から伝えられていますし、不老となった方々の中にもそう聞いたと答えられる方がいらっしゃるそうです。


 つまるところ、どのような種族であれ、確かに神々によって生み落とされた事実があるのですね。


 であるのに、どうして多種族を差別するのか。

 実際の理由は、とても単純なものでした。


 容姿が違う。

 持ち得る力が違う。

 文化が違う。

 価値観が違う。

 そもそも種族が違う、というだけで理由は十分だとおっしゃる方。

 最終的には生み出した神が違うから、と豪語する方。


 私は正直、不思議でなりませんでした。

 いえ、言いたいことはよくよく考えれば分かります。


 つまるところ、自分たちとは〝違う〟から、受け入れがたい。


 違いは、恐怖を筆頭に、不安、不信、不快、疑問などを生み出します。

 多くの知性ある生き物は、その感情に戸惑い、なかなか受け入れることが出来ません。

 だから、拒絶と言う方法をとるのでしょう。

 それは、理解はできます。


 一方で、納得しきれないところがあるのは、私が赤ん坊の時から《アクティース教》の考えを受けて育ってきたからなのでしょう。


 私たちはこう考えます。


 生きていることに、変わりはない――と。


 容姿が、持ち得る力が、文化が、価値観が、種族が、神が、違っても。

 私たちが祝福をおくるべき、生きている、生者に変わりはないから、と。


 唯一、魔物だけはその存在自体が〝生者でも死者でもなく、ただ全ての生者を殺すために生まれてきた存在〟と、魔物を生み出した神自身が定義づけている以上、私たちとてその存在を肯定することは出来ません。生者であったのなら、まだ否定はしなかったでしょうけれど……。


 私たちにとって〝生きている〟と言うことは、何事にも勝る、最高の在り方です。

 この世界で生きている存在である。

 それだけで、私たちはその方を肯定することが出来ます。


 生者であるだけで私たちにとっては最高の存在なのですから、当然、容姿や力や価値観などは、さして問題にはならないのですね。


 けれど、本当は。

 多くの方は、ただ知らないだけなのだと、私は思います。


 生きていること。

 そこにどれだけの可能性が秘められているのか。


 もし、それに多くの方々が真に気づくことが出来たなら。

 世界はきっと、今よりも輝きを増すのでしょう。


 ――生きる、と言う輝きを。


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