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命光

 



 最近は、少し気分が落ち込むことが多いような気がします。

 理由は分かっています。

 強い魔物が近くの森に現れたため、傷ついている方、最悪の場合には死者を見ることが、ここ数日続いているから、です。


 私たち《アクティース教》は、魔物を除いた全ての生者のための宗教です。


 傷ついている方は、まだ良いのです。

 その方々を癒すこともまた、私たちがおくれる祝福の一つですから。

 けれど、心はやはり、穏やかではいられません。

 私たちは、傷ついた姿が見たいのではない。

 あの方々の、元気な姿、笑顔が見たいのです。


 死者にいたっては、どうすることもできません。

 魔物と死者にはそもそも強い関心を示さないのもまた、《アクティース教》の神官の特徴。

 魔物は別物として、生を終えた者は、私たち以外の宗教による祝福を受ける対象者である真実が、そこに存在していますから。

 そこは、割り切っているのです。


 それでも、私たちも哀しまないわけではありません。


 死者とは、以前には生者であった者の呼び名。

 そこに、何の感慨も抱かないわけがないのです。

 少し前までは、生きていたのです。

 生きて、私たちは確かに、その方を祝福していたのだから。


 命は、大切です。

 それがなければ、生きているとは呼べないほどに。


 私は一度だけ、命の輝きを、目視したことがあります。


 それは、純粋な輝きでした。

 太陽の光にも似た、鮮やかな光輝。

 それでいて、月の光をも思わせる、優しい光。


 その光は、私が育ったこの神殿の中でも、特に古い神官の方が、自らの最期の時に街の方々へと捧げた、最高の祝福でした。


 自らの命を燃やして輝かせた聖歌の燐光は、確かに、命そのものの輝きであると、私の目にはうつったのです。


 あの瞬間、私は確信しました。

 私たちは、あの輝きを守るために、存在しているのだと。

 あの輝きを、より輝かせるために、祝福をおくるのだと。


 傷ついた自らの父を見て、涙を流す幼い少年。

 私のかけた癒しの魔法で、父君の傷は治りました。

 幼い少年は、涙をぬぐうこともせず、私に感謝の言葉をくださいました。

 私は、少年の涙がこれ以上流れないように、と今度は少年に魔法をかけました。

 雫をはらう風の魔法は、優しく涙を消し去り、少年は笑顔を見せてくれました。


 私一人では、出来ることは限られているけれど。


 尊き命の輝きが、これ以上奪われることがないように。


 魔物退治に行く方々へ、神殿の皆でおくった守護の魔法の詠唱は、どうやらお役に立ったようです。


 ……よかった。


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