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優しさ
まるで、静謐なる水の中。穏やかに、まどろんでいるよう。
水平線をたどる手は、水面の引力に逆らわず。水面を撫でるその心地は、上質なシルクに触れるよう。
あたたかい。しかし、それだけではないのです。
穏やかに。まだ、足りません。
静かな光輝を湛えて。そう、とても近くて、けれどまだ、その先。
その心を現す言葉。それは、きっとたくさんあるのです。
ただそのどれもが、私にとっては当てはまらない。
それだけなのです。
それは、優しさ。
あたたかいでも、穏やかさ、でも足りず、静かな光輝を湛える向こうにある、心。
もしも、世界の全てを、音で現すことが出来るなら。
私はそれを、優音と呼ぶでしょう。
今日もまた、窓を開いたその瞬間から。
優しい光がありました。
優しい音がありました。
優しい声がありました。
優しい言葉がありました。
私も、優しく笑いました。
彼らのように、笑いました。
私も優しい、と。
そう感じてもらえていれば、幸福です。