#004 クエスト
「リタさん、おはようございます」
「ん、智早じゃないか。今日からハンター稼業だったね、頑張りなよ!」
昨日のうちに仲良くなっている宿の女将さんと挨拶をし、ギルドへと向かう智早。疲れていたために昨日は少ししか話していなかったが、それでも女将さんの人柄なのかすぐに仲良くなったのだった。
ゆっくりとギルドへと向かう途中で、今日は市場がないことに気づく智早。青空市場は月曜と金曜しかやっておらず、昨日が金曜だったのだと初めて知る智早だった。ちなみにこの情報をくれたのはその後に尋ねたシーナさんである。
「おはようございます。智早さんはお早いですね」
「そうですかね? まあまだ6時ですが、それでもクエストに向かうならもう少し早いと思ってました」
智早の鋭い指摘に驚いたような顔をするシーナさん。普通なら遠出のクエストだったり、クエスト争奪戦のために速く来るのが常識だが、ハンターの比較的少ない地域ではそんなことはあまりない。田舎町特有のスローライフとでも言うのだろうか。
「王都やハンターの多い所ではもっと早い人もいますね。この辺なら7時でもあまりいませんよ……」
「そう言えばシーナさんも起きてますが一体ここは何時までやってるんですか?」
昨日智早が来たときはお昼だったが、酒場があるぐらいだから夜もやっているのだろうと考えたのである。
「私は5時から1時までですね。他に二人、チャキとフーラクルルがいましてその二人が残りの16時間を半分ずつ受け持ってます。ギルドはどこも24時間営業ですよ?」
コンビニかよ!! と思った智早だが、そんなことは顔に出さず、待ち遠しいカードへと話を変える。
「すごいですね……そう言えばカードは出来上がってますか?」
「ありますよ。少々お待ちください」
少し待ったあと、受け取ったカードには名前と種族、年齢しか書かれていなかった。カードの色は赤で目立ちまくりである。
「意外に情報が少ないですね……」
「赤だとそんなもんですよ。緑になってようやく職業が追加されて完全体って感じになりますね。やはり始めたての頃は自分が何に向いてるか迷走する時期ですからあまり職業を書いても意味ないんですね。ちなみにギルドカードができたことでギルドの銀行が使えるようになります。最低でも100000ルフからですが自分で持つぐらいなら預けたほうが何十倍も安全です」
「銀行ですか。まだまだ遠そうですね……」
「智早さんならすぐ使いそうですが」
「またまた、安全確実生命危機無しで頑張る俺は他よりも遅いですよ」
金を得るために死ぬのは馬鹿げている、それを智早は信条にこの世界で生きようと決めている。まあ結構色々な信条をもっているので特に気をつけているわけではないが……。
「そうですか。それなら最初は簡単なモンスターの討伐からですね。まあ赤ではもともと難しい物は受けることはできませんが……」
シーナさんの言うとおり、赤の受けれるクエストのほとんどは街中でのものばかり。時々外に出るクエストもあるが、近くの薬草群生地での採取だったり、最弱モンスターで有名な【ブルーゼリー】の討伐だったりと味気ないものばかり。【ブルーゼリー】は【ドラゴゼリー】の会モンスターなのだがその強さは比べることすらはばかられる。月とスッポン、それどころかアリとドラゴンの違いがある。
「うーん……これにしますかね」
選んだクエストは「ブルーゼリーの群れを追い払ってくれ」というものだった。街の外にある畑を荒らされた農家からの依頼であり、報酬は9000ルフ。赤ランクの中では難しく、報酬の高いクエストである。
「これなら智早さんなら失敗はないですね。お勧めとしてはこちらの採取クエスト3つも受けて帰りにやればお得ですよ」
そう教えられてクエストをみた智早は、内容を確認して合計4つのクエストを受ける。3つは同じ採取場所で違う薬草を手に入れるもので、畑への道を途中でずれたところにある群生地でとれるとのこと。どれも報酬は5000ルフではあるが、合計15000ルフは大きいといえる。
受領金である報酬の一割を払い、クエストの地である畑へと向かう。受領金は謂わば失敗した時のための保険で、失敗すればすべてクエストを出した人へと支払われる。クエストクリアすれば仲介料金としてギルドに残る金である。
「暇だなー」
街を出て20分ほどでついた畑で討伐対象である【ブルーゼリー】が現れるのをまつ智早。クエストクリアの条件は【ブルーゼリー】10体の討伐。ちなみに数をごまかすことはできず、クエストを受けた時に現れるステータスの特別欄で確認できる。こんな機能があるなんて聞いてないぞと憤る智早だった。
待つこと数十分、雲は流れゆったりとした時間が流れていた場所に17体のゼリーが現れる。
「ようやくか……【アースクエイク】」
敵の大群の中心を震央として大きい揺れが襲う。魔法のためか範囲は15メートルで固定されその中にいた全ゼリーは割れる大地に体勢を悪くし、運のないものは中に潰され、あるいは土の中に埋まってアイテムへ変わる。残ったのは10体ほどとなり圧倒的な力の差が分かる。
ゼリー達は固まると不利と悟ったのか、智早を囲うように動き始める。その動きが伸びたり乳んだりとしたものだったため、和む智早だったが、お構いなしに次の攻撃を仕掛ける。
「【エアースラッシュ】」
自分を中心に放たれる風の刃。円状に広がるその攻撃はきれいに智早を囲んでいたゼリー達を容赦なく半分に切り裂く。全固体がほぼ同じ大きさだったために(智早の膝ほどの高さ)、切れる位置はほとんど同じ、全員別け隔てなくアイテムへと変わる。たった二発で終わった討伐だったために、待ち時間と戦闘時間の差に悩む智早だったが、こんなものかと一人納得する。
得られたアイテムは《ブルーゼリーの核》や《ブルーゼリーの涙》といったブルーアイテムで、ポーション素材の1つとして重宝されているものである。特に核の方は他にも色々と用途があるため赤ランクの金策の1つとして代表的なアイテムである。
「薬草の方が長引きそうだ……」
群生地につきそんなことをぼやきながら智早は作業を進める。知識はあるため迷うことなく目的の薬草を採取していく。そしてあることに気づき何も考えずにそのまま実行してしまった。
「【エアースラッシュ】」
地面すれすれで放たれた風の刃は周りの薬草を全て刈り取り、その全てをアイテムに変え智早のアイテムボックスへと移した。
「やってみるものだな……自分の行動でとれたものは全てアイテムボックスに入るのか……便利だよな、全自動で分別もされるし……」
神仕様に感謝の念を込め、あっさりと終わった薬草採取へと別れを告げる。これのせいでこの群生地が3日間採取不可能になったためにシーナさんに土下座をした智早だが、それは今はまだ起こってないことである。薬草の類は成長が速く、代わりに自生種しかないというのが神仕様というものだ。
「あれ? 智早さんクエストに行きませんでした?」
たった3時間で戻ってきた智早を見て、シーナさんは困惑している。智早は今日の出来事を詳しき話し、怒られて土下座したあとに報酬を貰った。ちなみに余った薬草は全て自分のものになり、ゼリーのアイテムも売らなかったため今日の儲けは報酬だけである。後日ポーションに変えて持って行き利益をあげようという考えだ。
それから二週間、毎日数クエストをクリアした智早は、シーナさんの予想通りのハイスピードで緑ランクへと上がった。
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