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#002 初めてのモンスターは

 智早がこの世界にきて一ヶ月が過ぎようとしている。今日でここをでなければ智早の食料はつき、苦しい飢えに襲われるはずだ。

 そんな中、いつも通りの時間で起床した智早は昨日のうちに済ませていた旅行用装備を片手に玄関にたっていた。


「思えば一ヶ月……世話になったな」


 感慨深そうに、少し寂しそうに呟く智早。住めば都と言う言葉もあるぐらいだ、智早もこの謎の屋敷に愛着をもっているようだ。

 この屋敷は一ヶ月前に智早が降り立った場所であり、智早の拠点だ。魔法書や世界の常識、戦い方から料理の本までありとあらゆる知識がこの屋敷にはあった。その全てがアイテムとして存在していたために一瞬で知識を得ることができるという特典付きだ。

 この世界、ルフのアイテムには二種類あり、魔法のかかったものと、かかっていないものがある。前者を簡単な例で言うのなら魔法剣や魔導書がわかりやすく、後者ならただの剣や本といったところだろうか。

 この屋敷にあったのは全て前者で、本は全て魔法書であり、触れることで知識を得られる魔法がかかっていた。普通の本なら読まなくてはならず、一ヶ月しかないこの屋敷での生活では明らかに多すぎる本だったが、触ればいいだけなので、背表紙を撫でることでほんの数日で屋敷の魔導書を使い果たしている。これだけで3日かかるのだからその膨大な本の数が分かるだろう。


「行ってきます」


 地球では言うことのなかった言葉を言い、智早はゆっくりと目的地に向かって歩き出す。目指す先は辺境の町ラントス。しっかりと歩いても一週間はかかる距離にあり、最もこの屋敷から近い町だ。

 智早が屋敷から出て数分、ふと屋敷のあったほうを見て智早は固まってしまった。


「俺の家が消えてる!!」


 さきほどまで存在した屋敷は、智早が出て数分でこの世界から消えた。そのあまりにも馬鹿げた力に、智早は唖然としている。お察しの通りあの屋敷を消したのは神様だ。


「消すぐらいの時間があるならもっと俺の説明に答えろよ……」


 家が消えたことより神の行動に憤る智早だった。




 屋敷から智早が旅立って数日が過ぎた。その間この世界に住むというモンスターと遭遇することもなく快適な旅が続いている。三度の食事にたっぷりの水、重さの感じないアイテムたち、地球では考えられないとても楽な歩き旅だった。

 ほとんどのアイテムはアイテムボックスへと収まり、【ステータス上昇】のお陰で元の数倍以上の基礎体力ができている。へばる方がおかしいのだ。


「おお、これがヘリック草か。こっちはゼイマウン花かな?」


 使えそうな葉をどんどんと採取しアイテムボックスへと投げ込む。これで【製造】用の素材アイテムを取って薬を作り、街で売ろうと考えている智早。アイテムボックスに重量限界があることをすっかりと忘れている。ちなみにその限界が500キログラムで、大きさの限界はなく、ステータスが上がればもっと入れられる。

 現在の智早のステータスは一ヶ月前と変わらない。得た知識曰く「モンスターを討伐する。もしくはアクティブスキルを使わなくてはステータスは増えない」。つまりただ知識を得たり、魔法を考えていた智早にはステータス上昇の機会は今までなかったのである。


「こっちはリュクート草……こいつがドラゴゼリーか……って、ええ!!」


 素材採取に夢中になっていた智早は、近くにいたドラゴゼリーに気づくのが遅かった。もう少し周りに興味を向けないと気づかぬ間に死んでしまいそうだ。

 青色で体に翼がつき、その体がドラゴンの体並みに固いドラゴゼリーは、この世界の中級ほどの実力だ。性格は獰猛とまでは行かないが比較的好戦的、1人で見かけたら逃げましょうというありがたい忠告付きのモンスターで、群れでの行動は絶対にしない。ドラゴンと同じように真似しているのだろうというのがその理由だと考えられている。


「普通転生ものの初モンスはスライムが基本だろ!!」


 羽ばたきながら突っ込んでくる敵を見ながら智早は焦っていた。まだ使える魔法は少なく、全部自己流のため生活に必要なものから考えていたのだ。

 この世界の魔法には大きく分けて二つの種類があり、想像魔法と指示魔法に別れる。想像魔法はそのままで、考えた通りのことを起こすことのできる魔法であり、自由度が高いが間力の消費が馬鹿げているもので、その対となる指示魔法は、詠唱や魔法陣で発動し、自由度は低いが低消費のため世界の魔法師に愛されている。


「ああ、どっちを使う!? ええい一か八かだ!」


 智早が選んだのは想像魔法だった。


 ドラゴゼリーの前に一本の鉄槍が出現、勢い良く飛んでいき突っ込んでくるドラゴゼリーに刺さる。


「ギュルルルル!」


 大きさが一メートルほどのドラゴゼリーには聞いた様子が全くなく、少し体から青い液体が流れているだけだ。

 槍で勢いを消されたものの、ダメージが低いからか再度ドラゴゼリーが突っ込んでくる。その距離はもう10メートルを切っていた。

 それでも智早は焦ること無く次の行動に移り、それと同時に横に飛びドラゴゼリーの突進を避ける。


「【サンダー】」


 今度は初期魔法に位置する詠唱型の魔法。効果はそのまま雷を飛ばす魔法だ。

 ただ適当に放っただけだった雷は、ドラゴゼリーの体に刺さっている槍に反応し、殺りが避雷針となりドラゴゼリーが雷に撃たれる。それでもドラゴゼリーは動きを止めること無く、横っ飛びで体勢の悪くなっている智早へと突っ込んだ。


「ッガハ!」


 強い衝撃に智早の口から血塊が飛ぶ。軽く数メートル以上飛ばされ、気づいた時にはドラゴゼリーが上から押し潰そうと飛んできていた。

 それを転がることで智早は回避し、そのまま立ってドラゴゼリーから距離をとった。


「はぁはぁ……今の当たったら死んでるぞ……」


 ふらつきながら智早は次の手を考える。もう既に魔力は半分以上消費しており、あと数回使えるかどうかという状況だった。ドラゴゼリーも元気というわけではなく、雷を体内に食らったためか動きは最初の頃より緩慢としている。


「ギュルル!」


 ドラゴゼリーの体が光り、周りに火の玉が浮かぶ。ドラゴゼリーの使う【ファイヤーボール】だった。5個出現した火の玉はドラゴゼリーの意思によって、全てが智早へと向かう。


「魔法かよ。【シールド】」


 智早の前に現れる透明な壁。効果は魔法効果の阻害であり、中からも攻撃できないが外からの攻撃も防ぐことができる防御魔法。その強度は使用者の魔力と魔法抵抗能力によって決まる。


 ドガガガガーン! 5発の魔法が壁にぶつかり大きな音がなる。その衝撃で砂埃が舞い、智早とドラゴゼリーの体を隠す。

 数秒後、晴れた大地の上に立つのは防御に成功した智早と、体力と魔力の限界が近いドラゴゼリーだった。モンスターの中には魔法を使うものも多いが、ほとんど魔力量は少なく、ドラゴンや魔法特化モンスターでもない限り初期魔法一発でも撃つことはめったにない。それを一度に5発撃ち込んだドラゴゼリーも見事だが、それを防いだ智早は先ほどの状況より優位に立った。


「これで死んでくれよ!! 【ウォーターカッター】」


 水で作られた薄い刃、その刃は疲弊したドラゴゼリーの体を容赦なく斬り裂き、その命を刈り取った。



《入手アイテム:ドラゴゼリーの核/ドラゴゼリーの翼》


 そんな内容が智早の頭に流れ、戦闘終了の鐘代わりとなった。


「ふう……死ぬかと思ったな」


 疲労困憊といったような感じで、実際そうなのだがゆっくりと智早はその場に座る。

 入手したアイテムを調べようとステータスを開き、疲れを忘れて飛び上がった。




名前:智早

年齢:20

性別:男性

種族:エルフ

スキル:【ステータス上昇】【魔力上昇】【製造】

HP:130 MP:450 ALL:28




「上がり過ぎじゃないか?」


 そんな事を考えながら元々の目的であったアイテムを見る。



《ドラゴゼリーの核》:ドラゴゼリーの命とも言える核。この角のお陰で魔力が増加しドラゴンに近づいたと言われている。薬や消費アイテムの合成アイテムとして重宝される。


《ドラゴゼリーの翼》:ドラゴンに近づきたいと願った一部のゼリー達の願いの結晶とも言えるものであり、軽くて丈夫なこの翼は、装備の合成アイテムとして使われる。



「これら単体じゃ使えないか……もってる知識にも最低でもこれの他に2種類は必要だな」


 少し残念そうな感じの智早だが、核は相場10000~20000ほどであり、翼も最低8000ルフはするアイテムである。この世界の通貨であるルフは日本の通貨と同じような価値を持っており、30万あれば一家族が十分に一ヶ月暮らせる金額になる。ルフは石貨、銅貨、銀貨、金貨、水晶貨、黒鉄貨であり、それぞれ1、100、10000、100000、1000000、10000000ルフとなっている。当然ながらルフのほとんどは石貨、銅貨、銀貨であり、黒鉄貨などは国同士の取引で使うことすら少ないほどのものらしい。


 疲れを癒す智早は腹が減っていることに気づき、夕食の準備を始める。メニューは気に入っている野菜のシチューで、この世界に来て一番美味しいと思っている献立である。使うのは日本にもあった人参やじゃがいもといった素材に加え、この世界特有の野菜を入れた特性シチューである。


「ぐつぐつ煮込む! シーチューウー! ぐつぐつ煮込……♪」


 CMで聞いたことのある曲をシチュー用にアレンジしニコニコ顔で調理を進める智早。そしてまたも智早は周りへの注意を怠っており、ある方の接近に気づかなかった。


「お、御機嫌な智早君じゃないか!」


「っ誰だ!?」


 勢い良く智早は振り返り、自分の名前を呼んだ人物と対面する。その勢いのせいで持っていたスプーンから、シチューが勢いよく飛んでいきその人物へとかかる。


「熱いじゃないか!! いくら神でも熱は感じるんだよ?」


「なんだ……神様か」


 一気に白ける智早、つい最近まで神に事情を聞きたいと思っていた人物とは思えない行動である。その理由が煮込んでいるシチューだと知るのはこの二人だけである。


「なんだって智早くん……僕はこれでも君にあることを教えてあげようと『じゃあ後で聞きますからまずはシチューを入れさせてください』」


 言葉をかぶせ神のお言葉を無駄にする智早。あまりのことに神様ですら吃驚している。


「……」


「っふう、それで教えてくれることは?」


 入れたシチューを美味しそうに食べながら聞く智早。もう智早にとって神様は敬うべき対象ではなく、友人その1といった感じのようだ。


「僕がせっかく体を作ってまで来たのに……」


「はあ……。それで教えてくれることは?」


「……」


「……」


 数分の沈黙。その間にも智早のもつ皿からはどんどんシチューが消えていく。


「まあいいか。今回来たのは君に成長について教えようと思ってね」


「ああ、そう言えばドラゴゼリー倒したらめちゃ魔力が増えてましたね」


 思い出すように答える智早。MPが二倍以上になって驚いたのを思い出しているらしい。


「そう、そのことだ。この世界の住民はだいたい産まれた時HP、MPともに10といったところだ。君はまあプレイヤーだから少しもともと高く、スキルで上昇してるからその十倍ほどのものを持って始めたがね。それでこの二つのものはモンスターを倒すことで上昇する、それは分かるね?」


「はい。経験しましたから」


「増やし方は簡単でね……敵を倒した時にその敵の1/10の力をそのまま自分の力としてなるようにこの世界はなっている。つまりはモンスターを倒せば倒すだけ強くなるし、それが強ければ強いほど一回で増える能力は増える。しかしそれはステータスの話しでね、HPやMPはまた違った計算になる。これは個人の資質であったりで変わるのだが、ステータスで変わるのも事実だ。1/10貰えるステータスが高ければ、必然的にHP、MPは増える」


「ふむ……それにスキルとかの効果がつくんですか」


「まあそうだね。君の持つMP上昇なんかはこの世界の住民は持たないが、まあそれはプレイヤー仕様というやつだね。今問題なのはそこではなく、種族なんだよ」


「俺はエルフでしたね…他には人間と獣人族、鳥族に龍族……結構ありましたね」


「この世界の種族数はとても多い。その種族一つ一つによって少しHP、MPの増え方が変わるんだ。君のエルフは最も成長しやすい、謂わば人気種族だ。少しの成長で増えるし、MPにいたっては全種族最高の成長力だよ。他に例を上げるなら人間や獣人族だね。前者はHP、MPともに成長は小さく、後者はHPはとても上がるがMPはほとんど増えない。こんな風に成長の具合は違うんだ」


「んじゃ俺の選ぶセンスは最高ですね!!」


「そうだね。エルフになったおかげで智早君もかっこ良くなってるし羨ましい限りだ。今日はこのへんで帰ることにするけど、他に今の話についての質問はあるかい?」


 少し智早は考えるような仕草をするが、ゆっくりと首を横にふる。それを見た神様は一瞬でその場から消え、智早の1人の夜が過ぎていった。


誤字脱字ありましたらご報告ください

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