#001 怪しいメール
黒髪黒目、身長180にぎりぎり届かない身長で顔は平凡。この部屋に住んでいるどこにでもいそうな大学生、朝宮智早は現在メールの内容に従って空欄をうめている。智早は気になったことは徹底的に、それ以外はほどほどに、という信条でこれまでの人生の大半を生きてきた。
そんな智早のもとに届いた一通のメールはそんな智早の好奇心を刺激する内容だった。
「異世界に住みませんか?」
普通なら迷惑メールだと思い無視またはゴミ箱行き決定のメールだったが、暇だった智早にはそれは未知のメール、これをどうとったのか新規のゲームだと思ったのだ。
理系だからか、はたまたゲーム好きが原因で理系になったのかは分からないが、智早はゲームが一般人よりはよくやるほうだ。かといってマニアやおたくかと問われれば違うと言うだろう。まあその程度のゲーム好きだ。
「名前に年齢、性別に種族…初期スキルにステータス、欲しいスキルも決めれるのに……」
そんな微ゲーム好きの智早は現在怒っていた。原因は……
「……職業をなぜ選べない!?」
全7項目の中にはRPGの定番とも言える職業設定が無かったのだ。しかしゲームの説明ではどう見ても剣や魔法などのある感じで魔法師になりたい智早にとっては職業が先に選べないのは苦痛でしかないようだ。
理系、一言でそう言える智早だが、ファンタジーなどなら魔法を使いたい性格だった。ようは「リアルはリアル、ここはここ」みたいな感じだろう。
考えても仕方ないと思ったのか、とうとう智早はメールの最後にあった新規登録メールだと思っている送信ボタンを押す。
眩しく目の開けられない光が携帯の場面から出現し、サングラスをかけているわけでもない智早はあまりの眩しさに目を瞑る。
「っ眩し!」
その言葉が朝宮智早の地球最後の言葉である。
「やあ、智早君。お目覚めだね」
真っ白な空間、それ以外なにもない空間で智早は目を覚ました。
「なんだここ!? あれ、ゲームは……いやそんなことはでうでもいいか?」
意識の覚醒と同時に智早は現在の状況を理解しようと必死に頭を使うが同じ考えをずっとループするだけである。
「おーい、智早君?」
「……天国? ハハ、俺がいつ死んだんだ。それにこんな天国聞いたことはないしある訳なかろうに」
「……おーい」
「じゃあホワイトホールって奴か? あんなのにのまれたら死んどるわ! それこそ天国行きだろ。てか家にホワイトホールって俺莫迦だなーアッハッハ」
「……っえい!」
謎の声と同時に智早はあまりの激痛に何もない空間でのたうち回っている。なにもないのに動けてるってすごくね? なんて考えたのは一瞬、その後は痛みに考えを移していた。
「がああぁぁぁあ!」
「っほい!」
またも謎の声と同時に、今度は痛みが嘘のように消えていた。智早は気づかずその後数秒叫びながらのたうち回っていたが、ようやく気づき誰も居ないのに恥ずかしそうにしていた。いや、謎の声だけはあるのだが……。
「……なんだったんだ。まさかここ地獄か!!」
「さすがに聞こえてるよね? 智早君」
「っ誰だ?」
ようやく気づいた智早。あまりの遅さに謎の声も呆れたような声になっている。
「えっとね、君の状況について話したいんだけど?」
「お、そうですか。ありがとうございます」
わからないことは理解したいが、それよりも気になることがあるならそっちを優先する。それが例えどんな不可解でも気になることの方を優先、それが理系というか智早の考え方である。
「ん、話が速そうで何よりだ」
嬉しそうに謎の声は話し始める。
「まず僕だが、君の世界で言うなら神という存在だ。今回君がこんなところにいるのは神である僕が呼んだからだよ」
「神? 全知全能の?」
「まあそんなもんだよ。もちろんできないこともあるから全知全能とはいえないけど……。まあそんなことはどうでもいいんだよ。問題は君のこれからのことだ」
「俺の……部屋に戻るのではなく?」
「いや、君が地球に戻ることはない。君がこれから行くのは僕の作った世界『ルフ』。君の知るゲームのような世界だし、僕もそれを意識したから君たちで言えばご都合主義、ほぼゲーム世界を再現できていると思うよ」
「へえ……何で俺が!!」
「だって君メールで契約しただろう?」
呆れたような声、逆に智早は焦ったような声。
「あのメールか、でもあれって新規ゲームのはずだ」
「そんなこと書いた覚えはないけど。まあゲーム世界みたいなものだし気楽に行きなよ。名前や能力は登録したまんまだから頑張ってね!」
「待て待て、もっと説『もう僕は行くから、あとはあっちの世界で頑張ってね。得にすることもないし、死なないように頑張ってよ。あ、いい忘れたけど最初は家で訓練することをおすすめするよ』」
直後、再度光りに包まれた謎の空間で、智早はまたも消え失せた。
「眩し!!」
智早が起きたのは朝で、場所は大きめな部屋だった。家具は箪笥やベッドに加え、テーブルセットや鏡など様々だ。
窓から入った光がベッドに寝ている智早の目にかかり、そのせいで智早は起きることになったのだ。
「っ神は!? どこだよここ……」
何度もいうが智早は気にならないことはほとんどほどほどにしか気にかけない、今も気になっているのは神や自分の能力についてであって、地球に帰れないことなどは一切期にしていない。むしろ楽しみが増えて喜んでいるとも言える。
「まあいいか。確か訓練とか言ってたよな……」
ベッドを起きだし部屋の捜索を始める智早。求めるは情報で生活の出来そうな環境かどうかの調べだ。
「ん……『ルフ取説』。神のくせに無駄に略すなよ!」
求めていた情報を得たと思い、智早は取説に触れる。それと同時に取説は消え、残ったのは智早の頭のなかにできた情報たちだ。
「うぉお! さすが神仕様だな。本当にゲームみたいだ」
『ルフ取説』
・ステータスを見るときは「ステータス」と言ってください。
・ステータスの内容は名前、年齢、性別、種族、スキル、能力値、アイテムボックス。
・スキルはアクティブスキルとパッシブスキルにわかれます。その中でも細かくを別れますがご自分で考えてください。
・能力値の平均は5です。
・HPは生命力と思ってください。無くなれば死、貴方には不死属性があるので寿命では死にませんが、これが0になると死にます。ちなみに老化も止まります。
・MPは魔法力と思ってください。無くなれば魔法やスキルが使えなくなります。
・あとは自分で考えてください。
「雑過ぎ……本当に生きていて欲しいと思ってるか?」
そう言いつつも得た情報通りにステータスの確認を始める智早、やはり好奇心を抑えることはできないらしい。
「ステータス」
名前:智早
年齢:20
性別:男性
種族:エルフ
スキル:【ステータス上昇】【魔力上昇】【製造】
HP:100 MP:200 ALL:25
スキルは何百項目あったが、目に入ったものをただ入れただけだが、なかなかよい選択だと言える。種族がエルフなのは選んだのだから仕方ないというやつだ。
「ふむ…ステータスはALLになるのか。力とか知識で別れると思ったけど意外だな……平均の5倍ってどのくらいだろう? うーん……ステ上昇と魔力上昇はパッシブだろうからパッシブは使っても魔力は消費しないのかな? 説明通りなら一定以上ないと切れるだけか」
分かった所で再度家宅捜索を始める智早。興味関心の移り変わりの速さには眼を見張るものがある……。
「おお、これは食料か!」
あったのはパンや野菜といったもので、低く見積もっても一ヶ月分はある。そしてその食物達のとなりにおいてある紙に気づいた智早。
「一ヶ月で家から旅立てってことかね」
『一ヶ月間は新鮮さ保存だよ。特別なものだからアイテムボックスに入れても腐るよ。一ヶ月たったら即腐敗してい週間分の食料に変わります。それはアイテムボックスに入れれば腐らない普通の食料です。ちなみに一番近い街までは一週間かかりますよ』
……神にしては丁寧な説明だった。
その他智早が見つけたのは以下のとおり。ちなみに起きた部屋以外にもたくさんの部屋があった。
・書庫/鍛錬場/ルフの常識大辞典神仕様/魔法のイロハ神仕様/冒険と死の考察神仕様/トイレ/風呂/キッチン/その他色々
「んじゃ、鍛錬しますかね……フフフ、とうとう魔法がリアルに!! 科学は世界の理を超えたのか!」
1人になっている智早は少し壊れてきていた。