副作用Ⅰ:破壊衝動
また続きです(笑)
目が疲れない程度にお願いします。
MMWXの力でステュクスの身体が元の身体に戻るまで数十秒。
ニケが一体何をしたのかは大体想像がついてしまう。
つまり、外部へMMWXを発動したのだ。
脳内α電磁波はあるモノと脳を騙す現象、ということは、ステュクスをあるモノと脳を騙せば、その場にステュクスが゛あるモノ゛となって目の前に出現するのだ。
と、いうことは。
パラースは肩を落とし、泣き崩れた。
「ステュクスは……死んだ?」
一滴一滴こぼれていく涙が手の甲に当たり、その粒の温もりをパラースは、ステュクスの手の温かさと錯覚した。
それが錯覚だと自分の中で念じていても、つい自分の手を見て口角が上がってしまう。
もうステュクスは死んだ。この温もりは、創られたものなのだ――…。
「笑え、笑えよオレ。 笑えよ!」
パラースは、自分の頬を叩き、肩を落として涙を流しながら無理に笑みを浮かべた。
記憶。メモリー。破壊。滅亡。
そろそろ、副作用が来る頃だ、と思いながらまだ笑みを浮かべていた。
発信源のニケは、涙を流しながら笑みを浮かべているパラースに対して、怒りが込み上げてきた。通常の怒りではなく、何かを破壊しなければ納まらないような、無限の破壊衝動がニケの体内に巻き起こった。
身体が、苦しい。腕が、勝手に動く。
ニケは糸でつらされたように勝手に浮き上がる手を見て、つい青龍刀を反対側の手で構えた。
腕を切れ。そう誰かに言われた気がした。
何かが、底から湧き出てくる。
恐怖の文字と破壊の文字がニケの頭の中で混じり合い、混沌とし始めた。
そしてついに、ニケは何かに動かされたように、無意識で青龍刀を振りかざした。
紙をはさみで瞬時に切り裂いたような音と共に、生々しいゴトンという音と、おびたたしい量の血が、ニケの切り口から噴射した。
パラースは、まだ錯覚を見ていたが、ニケの血が一滴手の甲に当たって涙と混じると、錯覚は消え、半分ボヤけていた意識が元に戻り、目の前の光景を目を細くして見つめていた。
「MMWXの副作用…か。 耐えろよニケ」
そんな事を小さく呟き、パラースはおもむろに立ち上がった。
ニケはその場だけ時間が止まったように、切り口を見つめたまま硬直していた。
大量出血による強烈なめまいが起こり、ニケはそのままの体勢で後ろに倒れた。
地面に倒れた時に肘が床に直撃し、その勢いで青龍刀は宙へ宙へと舞う。
そして刃先が顔を目がけて一直線に落ちていった。
ブレーキのないF1カーがカボチャを轢いたような、そんな音が部屋中に響き渡った。
青龍刀はニケの顔面ど真ん中に突き刺さり、それでもニケは倒れる前の体勢を崩さず、もしかしたらさっきので死んでるんじゃないかと誤解されそうな容姿になっていた。
手にしたモノにも破壊衝動は巻き起こる。恐ろしい事だ。
もし自分が触れたらと想像し、パラースはその場に立ちつくしたまま、冷たい汗が頬を伝った。
ニケはまだ体勢を崩していない。本当に生きているのかも微妙である。
だが、微かに腹部が上下に動いているため、鼻に刃が刺さろうが一応呼吸はしているようであった。
痛みを感じない…これもMMWXの力だ。元々あるはずのないものを引き出すというモノには様々なリスクが伴う。
例えば見えるはずのない幻影が見えたり、あるはずのない死体が見えたり、したくもない破壊の連鎖。
なにかしらと天界では障害が100倍くらい地上界より不便だ。
そんな事を頭の片隅でぼんやり考え込んでいたパラースだったが、いきなりニケの手が動き始めたのに反応し、一歩下がってニケを再び見つめた。
ニケはダッシュ・アンド・ゴーのようにゆっくり手が動いたと思ったら速くなったりゆっくりになったと思ったら速くなったりと、何かを掴むような仕草をしながら手を上へ伸ばした。
何を掴んでいるかというのを考えるのも惜しく、ニケが何かを自分にに伝えようとしているというのをパラースは感じ、必死にニケの両目を見つめて心を通じ合わせようとした。
だが健闘むなしく、全く心を読み取ることは出来なかった。
しかし、何かニケが心の底から笑っているような気がしてならなかった。
それは、先程まで体勢と表情を崩していなかったニケの口角が、ほんの少し上がったからである。
それを見たパラースは、一気に全身の力が抜け、「終わった」と小さく呟いた。
MMWXの力はまだ―――――続いていた。
ニケはパラースが呟いた瞬間に目をパラースへと向け、睨み付けた。
そしてニケが一喝すると、さっきまで刺さっていた複数の破片が、次々に空中へ飛んでいく。
どれも鋭利な破片。いや、刃。
ゆっくりとパラースのいる方向へ刃先が向いていく。
パラースは、自分の終わりを感じていた。おもむろにまぶたを閉じ、その時がくるのを待った。MMWXの為なら命をも惜しまないと、パラースは再び呟いた。
ニケが破片の刃を自分の腕のように操り、破片をパラースの身体を中心とした円を描くように設置した。
破片の刃の動きが止まり、もちろん刃先はパラースへ向いている。
ニケはずっとしゃがんで動かないパラースの行為にため息をつき、面倒臭そうに立ち上がった。
「いらん。オレの覚醒を邪魔するのなら、オレの『feather Down』を邪魔するのなら」
再び面倒臭そうに片手を上げ、翼がまた開くと同時にパラースへ向けた。
「ここに居るな」
ニケがそう発すると、破片は瞬間的にパラースへ向かって一直線に落ちていった。
パラースは今更後悔していた。あの時MMWXを託すべきではなかったのでは?とか、死んで詫びるよりコレを止めた方がよかったのでは?と。
だが、もう時すでに遅し。
パラースの背中に、破片の刃が次々に襲いかかる。
ニケは微笑を浮かべていた。体中からわき上がる破壊衝動、殺意を今晴らしている。気分がいい。もっとやってしまえ。死んでてもいい。とにかくこの気持ちを抑えられればいい、と。
破片はパラースの背中を一瞬刺すとすぐもとの位置に戻り、もう一度パラースの背中を目がけて発射された。全ての破片がそれを繰り返し、どんどんパラースの身体は傷ついていった。
歪んでいく身体を見て、ニケはさらに刃の速度を上昇させ、痛めつけていった。
全ては自分の破壊衝動を抑えるために。
いや違う。ニケはただ純粋に、殺したかったのだ。
自分の中にいる「誰か」に操られたように―――――。