コンビニの軍議
真田丸の目と鼻の先に出現した「セブンイレブン」。その自動ドアが「ピンポーン」と虚しく鳴り響く中、店内には前代未聞の顔ぶれが集結していた。
冷ケースの棚の前には、朱色の鎧を纏った真田幸村。レジカウンターには、防弾ベストを着込み、手に警棒を持った大阪府警の巡査部長・佐藤。そして中央には、呆然と立ち尽くすナオトと三成。
「……落ち着け、佐藤巡査。この御仁は、コスプレではない。真の真田左衛門佐幸村殿だ」 ナオトが必死に説明するが、佐藤は引きつった顔で無線に叫んでいる。 「本部! 本部! 真田幸村とコンビニに立てこもっています! 応援……いや、除霊部隊を頼む!」
その時、バックヤードから一人の女性が飛び出してきた。 「ちょっと! 警察も侍も、商品の前で騒がないで! 売り場がめちゃくちゃじゃない!」
ナオトの心臓が、ドクンと跳ねた。 彼女はコンビニの店長代理、**美咲**だった。乱れた髪を無造作に束ね、エプロン姿で憤慨しているが、その瞳は戦場の硝煙の中でも、驚くほど凛として、澄んでいた。
「……綺麗だ」 思わずナオトの口から言葉が漏れた。 戦国時代の志乃の献身的な愛とは違う、現代女性の持つ強さと、どこか懐かしい「日常」の輝き。緊迫した戦場、時空の崩壊、そんな絶望的な状況の中で、彼女だけが「普通」を保っている。その姿が、ナオトには女神のように見えた。
美咲はナオトの視線に気づくと、眉を吊り上げた。 「あんた、ここの責任者? このおじさんたちの槍、什器に当たって傷ついてるんだけど。弁償できるの?」 「あ、あの……俺はナオト。ええと、弁償というか……この世界の修復を……」 ナオトは赤面し、言葉がしどろもどろになる。
「ナオト殿、鼻の下が伸びておるぞ。それどころではない!」 石田三成が背後からナオトの首根っこを掴んだ。 「幸村殿、佐藤殿、そして美咲殿。今は手を取り合う時だ。外を見よ、天海の召喚した『異形の徳川勢』が、この店の明かりを目指して攻め寄せている!」
美咲は窓の外を見て、息を呑んだ。 そこには、ビルに登ろうとして落下する騎馬兵や、現代の信号機を「呪いの標木」だと思って破壊する足軽、そして天海が放つ黒い霧が渦巻いている。
「……これ、夢じゃないのね」 美咲の声が震える。ナオトは咄嗟に、彼女の肩を抱き寄せた。 「大丈夫だ。俺が……俺たちが守る。この店も、君も」
美咲は少し驚いたようにナオトを見つめ返し、ふっと小さく笑った。 「……あんた、いい目してるわね。職人の目だ。いいわ、この店の廃棄寸前の弁当、全部あんたたちの兵糧に提供してあげる。その代わり、ちゃんと平和な大坂に戻しなさいよ!」
「承知した! 兵糧の提供、かたじけない!」 幸村が、おにぎりのパッケージを手に取り、真剣な顔で「これはどこから開けるのだ?」と佐藤巡査に尋ねる。
緊張と混乱、そして場違いな恋心が交差するコンビニ軍議。 佐藤巡査の拳銃、幸村の十文字槍、そしてナオトの計測器。 バラバラな世界の力が、美咲という「日常の象徴」を守るために、一つにまとまり始めた。
「よし、作戦開始だ! 現代のパトカーのサイレンを陣太鼓代わりにする。幸村さん、合図をお願いします!」
ナオトは美咲に最後の一瞥を送り、自動ドアの向こう、戦火とビルが混ざり合うカオスな戦場へと駆け出していった。




