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時空の逆流――三成、茶臼山を撃つ

「ナオト、意識を離すな! 貴殿が消えれば、この城のことわりも消える!」


三成の叱咤が、透き通りかけたナオトの脳裏に響いた。ナオトは、志乃が差し出した温かい手に必死に指を絡め、この時代へのくさびとして踏みとどまる。


空に開いた漆黒の穴からは、天海が放つ「時空の引力」が嵐のように吹き荒れ、真田丸を構成する現代の建築資材が火花を散らして軋んでいた。


「……三成さん、この穴……一方通行じゃないはずだ!」 ナオトは苦悶の表情を浮かべながら、手にした測量機器の数値を読み取った。 「天海が俺たちを引き寄せてるってことは、この『穴』は茶臼山の徳川本陣と、直通の回路になってる……!」


その言葉を聞いた瞬間、石田三成の瞳に鋭い光が宿った。 「逆流ぎゃくりゅうさせるというのだな、ナオト。奴がこちらを引き込むつもりなら、その道を通って、こちらから『死』を届けてやろう」


三成は懐から、黄金に輝く鳥笛を取り出した。それは、かつてユイカが彼に授けた、精霊を操る神器であった。 三成が笛を高く吹き鳴らすと、大坂城の周囲に集まっていた数万羽のカラスが、黒い雲となって空を埋め尽くした。


「全軍、突入せよ! 目指すは茶臼山、天海の首一つ!」


三成が指し示す先は、空に開いた漆黒の穴――天海の術の「入り口」であった。 普通なら近づくだけで消滅するはずの時空の裂け目だが、ナオトが最後の力を振り絞り、測量機器から放つ「ガイドレーザー」を穴のふちに固定した。


「今です! 道は作りました!」


数万羽の烏の群れが、三成の意志を乗せて、時空の穴へと吸い込まれていく。それは、天海が意図した「回収」ではなく、想定外の「侵入」であった。


茶臼山・徳川本陣


「ふん、まもなくあの異端者どもは虚無へ消える……」 天海がほくそ笑んだ次の瞬間、自身の目の前に開いた空間の歪みから、凄まじい勢いで「黒い塊」が噴き出した。


「な、何事だ!?」 家康が驚愕の声を上げる。 穴から飛び出したのは、実体化した殺意――三成の操る烏の群れであった。烏たちは天海の数珠を食いちぎり、本陣の幕をズタズタに裂き、徳川の将兵を襲い始めた。


「おのれ、石田三成……術を逆流させたか!」 天海が叫ぶが、すでに遅い。 術の起点である数珠を壊されたことで、時空の穴は激しい閃光と共に爆発。その衝撃波が茶臼山を直撃し、家康の御座所は粉々に吹き飛んだ。


真田丸・土塁の上


「……やったか?」 ナオトが目を開けると、空を覆っていた紫の霧は晴れ、体の透過も収まっていた。 遠く茶臼山からは、爆破による巨大な黒煙が上がっているのが見える。


「見事だ、三成殿。これぞ真の『軍略』よ」 幸村が満足げに頷き、槍を収めた。


しかし、ナオトは見た。 崩壊する時空の穴が閉じる直前、天海がこちらを睨みつけ、血を吐きながらも不気味に笑ったのを。


「これで……終わりじゃない。むしろ、始まってしまったんだ」 ナオトは、今も微かに震える志乃の手を握り締めながら、茶臼山の黒煙をじっと見つめ続けていた。


天海の術は失敗したが、その余波で「現代」と「戦国」の境界線が決定的に壊れ始めていた。

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