不落の真田丸、歪む時空
慶長十九年十二月四日、早朝。大坂の冬の霧を切り裂いて、徳川方の先鋒、前田利常、井伊直孝、松平忠直らの軍勢が一斉に真田丸へと攻め寄せた。その数、数万。
「放てっ!」 真田幸村の鋭い号令と共に、真田丸の狭間から一斉に火縄銃が火を噴いた。 しかし、今回の真田丸はそれだけではなかった。
「ナオト殿、仕掛けを起動せよ!」
ナオトが土塁の陰で、神の力を宿したレーザー墨出し器のスイッチを最大出力で押し込む。すると、真田丸の壁面に貼り巡らされた特殊な「壁」が、鏡のような眩い光を放ち始めた。
徳川軍が放つ無数の弾丸が壁に当たった瞬間――パァン! という乾いた音と共に、弾丸が物理法則を無視した角度で跳ね返り、攻め寄せる敵軍自身を次々と射抜いていった。 「な……弾が跳ね返ってくるだと!?」 「壁が……壁が動いているのか!?」 徳川の兵たちはパニックに陥った。ナオトが計算し尽くした『跳弾の壁』は、敵の攻撃をそのまま敵の被害へと変える、残酷なまでの「反射防壁」と化していた。
「凄い……現代の知恵と三成様の采配が、これほどの力を……!」 木村重成が槍を振るい、壁を登ろうとする敵を突き落とす。その背後では、志乃が負傷兵の介抱をしながら、ナオトの背中を祈るように見つめていた。
だが、この圧倒的な勝利の影で、不気味な異変が起こり始めていた。
戦場を覆う硝煙が、突如として紫色に染まり、渦を巻き始めたのだ。 「……これは、霧じゃない」 ナオトが空を見上げると、天守閣の遥か上空に、巨大な黒い「穴」が開き始めていた。
「ククク……よく守ったな、未来の職人よ。だが、貴様らの存在そのものが、この時代の『異物』なのだ」 茶臼山の本陣で、天海が両手を天に突き出し、呪詛を唱えていた。 「時空の理を捻じ曲げ、不浄なる者たちを、元の虚無へと還してくれよう!」
天海の狙いは、城を物理的に落とすことではなかった。 ナオトや三成たちが持つ「神の力」の根源である、時空の繋がりを無理やり引き裂き、彼らをこの時代から強制的に排除しようというのだ。
「ナオト、危ない! 足元を見ろ!」 三成の叫びと共に、ナオトの足元の地面が、まるで水面のように揺らぎ始めた。 ユイカが放つ黄金の光が、天からの黒い霧に侵食され、チカチカと点滅を始める。
「そんな……せっかく、この城を守れると思ったのに……!」 ナオトの体が、透き通り始める。現代へ引き戻そうとする強大な引力と、この時代に踏みとどまろうとするナオトの意志が激しくぶつかり合う。
真田丸の壁が、天海の呪術によってミシミシと音を立てて歪み始めた。 最強の盾が崩壊を始める中、ナオトは消えゆく手で、必死に壁を掴み直した。
「まだだ……まだ、俺の仕事は終わってないんだ!」




